第四話 禁呪

『禁呪』それは、禁忌とされる魔法。


このエルガイアと呼ばれる世界には、太古の昔からいくつかの禁呪が存在したと言われている。


殆どのものが、命を代償としたものが多くあったと言う。


だがユラト・ファルゼインは生きている。


どういうことなのか?


彼の冒険は、まだ始まったばかり……。



「よしっ!とりあえず、この洞窟の調査はこんなものかな」


「そうだな、日が暮れる前に引き上げるか」


そして、二人は来た道を引き返して行った。


引き返す中、ユラトは疑問に思った事がいくつかあったので、その一つをデュランに聞いていた。


「そういや、さっきの祭壇は、あの棺の中いた魔族を蘇らせる為の儀式の場所だったのかな?」


少し考えてからデュランは答えた。


「……恐らくそうだろうな、なんの悪魔かは、わからなかったが……」


「ギルドには報告しておかないとね。魔族に関する場所の発見になる可能性が高いから報奨金が貰えるかも」


「そうだな、あとはギルドの調査隊にまかせればいい」


2人は、思ったより報酬が手に入りそうだと喜んだ。


暗い洞窟の中だったが、心は明るかった。


(今回は、洞窟の探検までできるなんて思わなかったな……)


ユラトは、冒険者としてゆくゆくは、洞窟や古代の城や遺跡、塔などの冒険をしてみたかったため、その一つが叶ったことが嬉しかった。


ユラトとデュランは軽快な足取りで、出口を目指し歩き出した。


しかしその時、前方から握りこぶし大の火球が一発、飛んで来た。


そしてそれが二人の足元に落ち、小さな爆発を起し、辺りが光と爆音で満たされる。


バァーーン!


咄嗟にユラト達は左右に分かれ軽く飛び、それを回避した。


もう魔物はいないと思っていただけにユラトは驚いていた。


「……っく、火の魔法か!?…まだ、敵はいたのか!」


デュランも驚き、2人にとって良くない自体になっていることを悟った。


「うひょー。あぶねぇ……やばいなこりゃ……出口を防がれたか?」


松明を持ったデュランが警戒しながら火球を放った存在を確かめるために、静かに前方へ向かった。


すると木の杖を手に持ち、幼児ほどの背丈しかない体に黒いローブを身に纏い、青白い顔をした老婆が現れた。


しかも2匹のワイアームを後ろに従えていた。


そして、老婆が顔をしかめながら話しかけてきた。


「……ちっ、外しちまったかい……最近、外の霧が晴れていると思っとたら、やっぱり人間どものせいか!忌々しい奴らじゃ!」


デュランが警戒しながら相手に話し掛けた。


「どうやら人の言葉を喋れる魔物らしいな、おい!この奥にある祭壇はなんだ?魔王は今も存在しているのか?答えろ!」


老婆は青白い顔にわずかな微笑をたたえ、それに答える。


「はっ!そんなこと知らないし、どうでもいいさね。まあ知っていても人間なんぞに教えるわけないわい。あたしゃあ、宝石と金を集めるのしか興味無いね!」


それを聞いたデュランが心の焦りを隠しながら、ユラトに小さな声で囁いた。


「こっちは冒険初心者2人、向こうは魔法使いらしき老婆1人とワイアーム2匹か……少々不利だな……ユラトどうする?」


ユラトはすぐに囁き返した。


「魔王のことはどっちにしろ聞けないみたいだ……だけど人の言葉を理解するなら無駄な戦いは避けたいし、一応交渉してみよう」


ユラトの意見に同意したデュランが老婆に向け、やや威圧的に話し掛けた。


「おい、ばあさん!俺達が、このまま引き返せば戦わないで済むんだな?」


「あたしゃ、ばあさんって名前じゃないよ!アニスって名前があるのさ。ここいらじゃ。こんな出で立ちだから、ブラックアニスって呼ばれてるがね!」


そう言ってブラックアニスは杖を振り、火球を放ってきた。


慌てて2人は飛び上がり、それを避けた。


「ブラックアニス……確かハッグの一種で、ギルドの魔物大図鑑に載っていた奴だな。まだ未発見だったはず」


ブラックアニスは、ハッグと呼ばれる闇の精霊達に属する地霊の一種である。


真っ青な顔、鋭い爪、下級魔法も使うことができる。


そして人の民家から子供をさらって食べたり、木の陰に身を潜め人を襲うこともある魔物だ。


また宝石や金品に目が無く、収集する癖がある。


それを聞いてデュランがうれしそうに声を上げた。


「やったぜ!新発見だな、報奨金が手に入るな!」


ユラトは敵を睨みながら剣を抜き放ち、構えた。


「だけど、ここを生きて出られないと意味が無いさ」


そんな2人を見た黒い魔女のような老婆は表情を変え、彼らを睨み付けながら話しかけていた。


「ここはねぇ……あたしの大事なお宝の隠し場所の一つなんだよ。知られた以上は生きて返さないよ!丁度お腹も空いてるしね。ほんとは人間の子供の方が好きなんだけどねぇ……まあいいさね、ワイアームの餌にしてやるから死ぬがいいさ!」


そしてブラックアニスが杖でワイアームを軽く小突くと、牙を剥き、襲い掛かってくきた。


それをユラトは剣で叩き返し、デュランは後方へ飛び退き、老婆に向かって叫んだ。


「この洞窟は既に我々の調査対象になっているから無駄だぞ、諦めろ!」


「ふんっ!あんた達を喰ってから別の場所に、お宝を移動させるまでよ!それに、ここいらで人間どもの数を少しでも減らしておかないとね!」


そう言って1匹のワイアームがユラトの顔に向かって毒液を吐いてきた。


それを軽く上半身だけを左へ動かし、かわすとユラトは呟いた。


「交渉決裂か……やるしかないな……」


ブラックアニスは不適な笑みを浮かべ大笑いする。


「キーッヒヒッヒヒッ!馬鹿だねぇ人間ってのは、あたしゃあ、そんなに甘くないよ!このワイアーム達はあたしがここいらで飼ってるペットさ」


「そうかよ、さっき一匹は倒させてもらったぜ!」


「ああ、そうらしいね、坊主ども覚悟しな!」


そういってブラックアニスは2人を睨みつけるようにワイアーム達に攻撃するよう命令する。


するとワイアーム達は前進し2人に迫ってくる。


「こりゃあ、やべぇな……ユラトどうする?」


「戦いが長引くと、この洞窟を抜けたときに外が夜になっていたら、やばいらしい」


「ああ、夜になるとこの辺りにも、まだ敵がそれなりに出るとか聞いたな」


「時間が経てば経つほど不利だ、だから一気にけりをつけよう!」


「だが、そんなことどうやって……はあっ!」


デュランは投げナイフを2本投げ、先頭にいる2体のワイアームの進行を止める。


ユラトは決意を込めた表情でデュランに話す。


「さっきの禁呪を早速使ってみるよ……これしかない!」


「そう……だな、わかった。サポートするぜ!ユラト!」


「ありがとう、魔法の詠唱に入る間、敵の進行と攻撃をできる限り押さえてくれ。俺はさっきの祭壇のあった部屋近くまで後退してそこでやってみる。あと悪いがさっきの魔法の短剣をくれないか?あれを利用するよ」


「……そうだな、それに賭けるしかなさそうだな……わかった……なんとかやってみる……ほらよっ!」


そう言ってデュランは魔法の短剣をユラトに渡した。


ユラトは短剣を受け取ると無言で頷き、後方へ走って行った。


デュランはそれを見送ると、すぐに敵の方へ向きを変え、睨みながら叫んだ。


「さあって、どこまでやれるかな……きやがれってんだ!化け物ども!」


それを聞いたブラックアニスは不気味な笑みを浮かべ、堂々と答えていた。


「二人でも不利なのに一人でやろうってのかい?馬鹿な奴!ヒヒッ」


デュランはハッグの老婆に向かって、自分の不安な思いをかき消すように叫んだ。


「うるせー!年寄りなんぞ俺一人で十分だ!」


そう言ってデュランは煙玉をポケットから素早く取り出すと、松明で火をつけ相手に向かって投げ入れた。


シュー……


小さな音と共に直ぐに大量の煙が出てくるのを確認するとデュランは、投げナイフを2本敵に向かって投げつけた。


すると、一本はブラックアニスの杖に阻まれ、もう一本はワイアームの体に、ほんの少しかすっただけであった。


それを見たブラックアニスは顔を少し歪ませ、デュランに聞こえるように、暗い洞窟の中で声を響かせた。


「キーッ!せこいねぇ……堂々とやれないのかい!」


その声を聞いた赤毛の青年は、声を荒げ、叫んだ。


「うるせぇ、ババア!三対一で堂々なんかできるか!」


デュランは、敵が煙とナイフで攻めあぐねている間にブラックアニスと同じく、火の初級の魔法であるファイアーボールの魔法の詠唱を終わらせ、そして放った。


「―――よっと!」


ファイアーボールは勢いよく飛んでいった。


火球は敵の足元で「バーン」と音を出し、爆発した。


突然起こった熱と光、そして音に、ブラックアニスは驚いているようだった。


「くっ……やるじゃないか 今のはびっくりしたよ……」


デュランは、ファイアーボールを放つと、すぐに敵の姿が見えない位置まで後退し、岩陰に身を潜めて待ち伏せをしていた。


そして、道具を確かめていた。


(……持ってきた道具も残り少ない……どこまでやれるか……)


残忍な笑みと笑い声を上げながら、ブラックアニスは叫んでいた。


「クククッ……逃げても無駄だよ!出口はこっちしかないからねぇ……さあってそろそろやっちまうかい!」


そう言って後ろのワイアームに口笛を吹いて、一斉攻撃の合図を送った。


ピィィィー!


するとワイアームは、ゆっくり警戒しながら尾の部分をくねらせ、前進し始めた。


(くそっ!早くも時間稼ぎが厳しくなってきたな……)


そう思い、デュランはユラトのいる近くまで後退しようと下がろうとしたとき、ブラックアニスの驚いた叫び声が聞こえた。


「キィィィーッ!なんじゃこいつらは?!」


デュランは恐る恐る近づき、声のした場所を覗き見てみる。


すると、そこにはブラックアニスに攻撃をしかけているノッカー達がいた。


「さっき見たノッカーまだ居たのか……しかし、なぜ……?」


本来、光の地霊のノッカーはおとなしく、攻撃されない限り襲っては来ない。


ブラックアニスを襲っている暇はなかったはずだった。


そのとき、デュランはノッカーのことを思い出した。


(―――っ! そうか!口笛か……ノッカーはそんなに口笛が嫌いだったのか……俺も気をつけよう……)


ノッカーは口笛が嫌いなのに加えて、闇の地霊を好まない為に余計に怒ったようだった。


青白い顔の老婆は、苦々しくノッカーを見ていた。


「ああ、忌々しい!ワイアームども、まずはこいつらから始末するんじゃ!」


そう言ってブラックアニスは、ノッカーに攻撃しろと命じた。


ワイアームは進行方向を変え、ノッカーを攻撃し始ていた。


それを見ていたデュランは、ユラトの居る場所まで静かに後退することにした。


(今のうちに下がっておくか……助かったぜ、ノッカー!)



ユラトは、先ほどいた祭壇のあった空間の近くまで来ていた。


「よし!すぐに魔法の詠唱をしないと……」


そう言って、その場にしゃがみ込むと目を瞑り、深呼吸し、心を落ち着かせると魔法を唱え、魔力を短剣に送り込んだ。


(―――よし、いけそうだ!このままもう少し魔力を送り込むか……)


ユラトは自らの魔力を一気に短剣へ、先ほどより強く送り込んだ。


すると、直ぐに異変が起こった。


「―――!?……しまった……まさか……こんなに魔力を取られるなんて……」


ユラトは魔力を消費しすぎたため、意識を失ってしまった。


この世界の人々全てに魔力は宿っているが、余りにも魔力を消費してしまうと様々な症状が現れる。


例えば、ユラトのように意識を失ったり、体の自由が効かなくなってしまう事等がある。


しかし、時を経ることで徐々に回復することができる。


魔力の量は人それぞれ違いがあり、鍛えることで増やすことも出来た。


途中で戦闘になっていたデュランは、ついにユラトのいる所まで後退していた。


「クソッ……ここまでか!ユラトいるか?! 魔法は完成したか?!」


だが返事は無かった。


しかし、しばらくして、か細い声が暗闇から聞こえた。


「……デュラン、こっちに……来てくれ……」


「わかった、すぐに行く!」


デュランはポケットから煙が良く出る草で出来た煙玉を松明の火を使って火を点け、敵のいる場所に投げ入れた。


(少しはこれで時間稼ぎできるといいんだが……)


この時点でデュランは、全ての道具を使い切っていた。


「ユラト!どこだ!」


直ぐにユラトの今にも消えそうな声が聞こえた。


「こっちだ……」


声のする方向が分かると、直ぐにデュランは、その場所へ向かった。


するとそこには、何かを大事そうに抱えたまま、うずくまっているユラトの姿があった。


デュランは直ぐに駆け寄った。


「……おい! 大丈夫か、しっかりしろ!」


ユラトは力なく答えた。


「なんとか詠唱は終わって魔法は成功した……よ。だけど思ったり魔力を取られてしまって……これを、デュランに渡すよ……」


そう言うとユラトは、抱えていた短剣をデュランに渡した。


先ほどユラトに渡した青白い光を放っていた短剣は、今度は禍々しく赤黒い光を放っていた。


デュランはそれを受け取ると、少し短剣が熱くなっている事に驚いた。


「熱い……これが……禁呪なのか?……投げた後どうすればいい?」


ユラトは先ほどよりは魔力が回復してきたようだ。


少しだが顔色がよくなってきていた。


「敵のいる場所に投げてくれ……。そして、投げ終わったら直ぐに言ってくれ……あとは俺がやる……」


「わかった!もう奴らが来る頃だ。お前はこの岩陰に隠れていろ」


ユラトをなんとか立たせ、岩陰へ隠し終えたところに敵の声が響いてきた。


「ヒヒヒッ!坊主、逃げても無駄だぁっー!」


ノッカーを素早く蹴散らしたブラックアニスが、2人の近くへやってきていた。


辺りは先ほどデュランが投げ入れた煙球のせいで煙が充満していて、お互い視界が悪い状態だった。


敵の位置を探るため、デュランはわざと観念したように語り掛けた。


「チッ!ばあさん、あんたしぶといな……」


ブラックアニスは自分が優位にあると思っていたため、堂々とそれに答えていた。


「軽く蹴散らしてやったさ、ヒヒッ!お前を置いて一目散に逃げたもう一人の仲間も近くにいるんだろ?まとめて殺してやるよ」


デュランは焦る気持ちを抑えながら、確実にブラックアニスとワイアーム2体の集まっている中心にナイフを投げ入れるために、視界が悪い中、慎重に近づいて行った。


すると、突然ワイアームの放った毒液が煙の中から現れ、デュランの肩をかすめる。


シュッ――


(どこだ……奴らより早く見つけないと……!)


時間的には僅かな時間であったが今のデュランにとっては無限に続く時間のように感じられた。


焦らないように少しずつ、敵に近づいて行った。


するとその時、白い煙の中からブラックアニスが火の呪文を詠唱しているのが僅かにわかった。


小さな杖を握り、ぶつぶつと小声で何かを唱えていた。


デュランは自分が先に敵の位置を特定できた事がうれしく、心が躍り、目を見開いた。


(―――やったぞ!!)


デュランはすぐに、短剣を力一杯投げた。


(―――もらったぜ!!)


短剣は赤黒い光を出し、辺りの煙を払いながら一気に突き進んだ。


そして、それが丁度敵3体のいる地面の中心に刺さった。


グサッ!


「ん……なんじゃこれは……」


ブラックアニスは自分達に当たらず外れて地面に刺さった短剣を見て、馬鹿にするように2人に向かって叫んだ。


「外しておるわ!馬鹿め!こっちも魔法が完成したわ!今度はこっちから……」


ブラックアニスが叫んでいることなど、構うことなくデュランはユラトに向かって叫んだ。


「ユラト!投げたぞ!」


デュランはそう叫び、岩陰へ隠れた。


ユラトはそれを聞くと直ぐに、右手を左肩に置き、左手を天上に突き上げ、爆発させるための言葉を叫ぶと同時に力を込めて左手の拳を握った。


「―――リファイスブラスト!!」


すると、ユラトの左手の模様が赤黒く光り、投げた短剣から四方へ光と爆風が広がり、一瞬ブラックアニスの声が聞こえたような気がしたが、すぐに全ての音が爆音によってかき消され、辺りが衝撃で揺れた。


―――ドゥオオオオオオン!!


短剣を投げた辺り一帯は爆発のために起された衝撃と熱で満たされていたが、魔法の爆発のためか爆発はその一回のみで、すぐに音は止んだが辺りは土煙で満たされていた。


また時折、洞窟の天上から小さな岩や砂がパラパラと落ちていた。


ユラトは恐る恐る爆発のあった辺りを見回すが、なかなか視界がはっきりしない。


そして、起き上がろうとするが、まだ魔力の回復は殆ど出来ていない状態であったため、体をうまく動かすことが出来なかった。


彼は仲間の生存を確認することも含めて、話し掛けてみることにした。


「デュラン、無事か?どうなっているかわかるか?」

 

すると、ユラトから少し離れたところから声がする。


「ゲホ…ゲホッ…な……なんとか生き残ったぜ……そっちも無事だったか……しかし酷いありさまだ……まだ何も見えんし、耳がキンキンしやがる……」


「そうか……」


しばらくして2人は起き上がり、お互いのいる場所を確認しあった時にちょうど土煙は消え始めていた。


そして爆発のあった場所へ行き、敵の存在を確かめた。


デュランが顔を少し、しかめながら呟いていた。


「どうやら、死んだみたいだな……」


そこには、黒焦げになってバラバラになった敵の亡骸と思われる物がころがっていた。


「うっ……」


ユラトは突然跪いた。


先ほどの禁呪の疲労から少しは回復したとは言え、立ち上がって歩くのがやっとであった。


デュランが慌てて近寄る。


「大丈夫か!おい!」


ユラトは力無く答えた。


「立って歩くのがやっとみたいだ……悪いが戦力になれそうにない……」


デュランは心配そうにユラトを見つめ、手を差し出してきた。


「早く、ここから出ないとやばいな……肩を貸すぜ!ユラト」


「……ああ、ありがとう」


「気にするなよ、お前のお陰であの化け物どもを倒せたんだ。助かったぜ!」


「いや……デュランが時間稼いでくれなかったら呪文は完成できなかったさ……ありがとう」


デュランが少し照れながら答えた。


「まあ……2人の連携ってことだな!」


お互い感謝しあったあと、ユラトはふと思い出したことをデュランに話し掛けた。


「そういや、あのばあさんのお宝がまだあるみたいだがどうする?」


それを聞いたデュランは真顔に戻り話した。


「ん……ああ、そういえばそんなこと言ってたな……できれば欲しいが、あきらめた方がいいだろな、今から探すとなると夜になっちまう……」


「そうだな……今の俺じゃ、探せそうに無いし……」


「まあ、時には諦めることも肝心だろうさ……ちょっとはお宝もあったし、調査の報酬も貰えるしな。よし、行こうぜ!」


そう言ってデュランはユラトを立ち上がらせ、肩を貸し2人は洞窟の出口へと歩き出した。


2人は疲労していたが、表情は晴れやかだった。


そしてユラトは、歩きながら左手をぼんやりと見つめ、先ほどのことを思い出していた。


(あの魔力を吸われる感覚……もう少しで命まで吸われそうな感じだった……この魔法は禁呪と言われるだけあって確かに危険だ。使用するときは相当押さえて使わないとやばいな……出来る限り使用は控えよう……)


洞窟を出ると、流れてくる風は少し冷えていて、日が沈みかけていた。


「……やばいな、日がじきに沈みそうだ……直ぐにここを発とう!馬を引いてくるからここで待っててくれ!」


そういうとデュランはすぐに馬のいる場所へと向かった。


すると、森の奥の暗いところから、なにやら獣らしき動物の雄たけびが辺りに響き渡った。


ウォォォーン!


「―――!?」


2人は同時に顔を見合わせた。


「まさか……」


デュランは慌てて馬の下へ駆け寄り、ユラトの所へ馬を連れてきた。


「ここにいてはまずい!馬を連れてきたぞ!乗れるか?」


「ああ、なんとか乗れそうだ……ありがとう」


そう言ってユラトもデュランも馬に乗ると直ぐに走らせた。


「今の時間を考えるとラスケルクには戻れないだろうな……やはりシルドナの街で我慢するしかないか」


「そうだろうね、ラスケルクには危険すぎて今は戻れないからシルドナで宿を取ろう」


「わかった。こっちだ!」


2人は不安な気持ちのまま、急いで馬を走らせた。

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