第三話 初めての冒険

2人は馬に乗り、草原地帯を走っていた。


日は高く昇っている。


この辺りは、どうやら草原が続く場所のようだった。


たまに風が吹き、その風に乗ってユラトのところへ運ばれてくる、日に焼かれた草の香りを感じながら目的の場所へユラトは向っていた。


(今回は、調査だけで終わらなかったな。洞窟か……)


ユラトの前を突然現れた、赤毛の青年が走っていた。


この青年の言っていることは本当なのか?


ユラトは、少しの不安と期待を感じながら、目的の場所へ向っていた。


この先に洞窟があると言う。


どんなところなのか?


洞窟の冒険が始まる。



突然現れた青年デュラン・マーベリック。


彼の言っていた洞窟はユラトが調査していた廃村から草原を抜け、少し行った所にあった。


着いたその場所の辺りは小規模な森があり、その森の奥に洞窟はあった。


「よし、着いた!ここだ」


辺りは木々の影で薄暗くなっていて、鳥のさえずりが僅かに聞こえ、どこからか心地よい風が流れてくる。


ユラトは洞窟を見て呟いた。


「ここが……。そうなのか?」


2人は馬を下り、近くの木に結びつけると洞窟の入り口へと向かった。


そして洞窟は自然に出来た様で、入り口には苔がびっしり生えていて、何本もの蔓草が垂れていた。


「ああ……ここだ。とりあえず、日が暮れたらまずいからな、洞窟の全長もわからんし、すぐに行きたいんだがいいか?」


ユラトは、まだ少し不安が残っていたため、もう一度、強い魔物がいないか尋ねていた。


「ほんとに弱い魔力の気配しか感じなかったんだろうね?」


辺りの様子を見ながらデュランは答えていた。


「ああ、ほんとうだ。さっきも着いたときに調べてみたが同じだったぜ」


それを聞いたユラトは覚悟を決めた。


「そうか……。わかったよ、行こう」


中に入るとすぐにデュランが持ってきていた松明に火をつける。


「……これでよし、行こうぜ」


ユラトもデュランに続いて洞窟の奥に入って行った。


洞窟の中は真っ暗であったが2人が中に入ると、松明の炎の光によって照らされた。


そして、中の空間が見える。


洞窟の中はユラトが思っていたよりも広く、外の気温と比べると、ひんやりしていて少しじめじめしていた。


「そういや、聞いていなかったが、見たところ剣士かと思ってるんだが、ユラトって一体どういう事が得意なんだ?」


「ん、冒険者の学校で主に専攻してたことか?」


「ああ、そうだ」


「学校で専攻してたのは剣術とあとは四元素(四元素とは大地、火、水、風のこと)のうち火と大地の基本魔法かな。まあ、そんな感じさ。それで、デュランはどうなんだ?」


「俺か……俺は主に罠や鍵開け、斥候、あとは短剣に関する扱いかな、それと俺も一応、大地と火の初級魔法は使えるぜ!」


「そうなのか。なら洞窟探索は心強いな」


「おう!まかせておけ!と言いたいが短剣じゃあ 火力が無いからな……」


「それで俺ってことか」


「そう言う事」


「っと言う事は、もしかしてデュランは島の東側出身?」


オリディオール島は主に3つの地域からなる。


中央のゾイル、ユラトのいた西のラーケル、そして東はマルティウス地域と言う。


また、冒険者の学校もゾイルは魔術、ラーケルは剣術や開拓技術、マルティウスは探索や商業技術が良いと言われてきた。


「まあな、それで東の冒険者ギルドに居たんだが、向こうの暗黒世界の探査状況は、まだこっちみたいに大陸が見つかっていなくてよ、小さな島々しか見つかってないんだ……調べている範囲は東のほうが広いんだぜ?そうなると海の冒険が多くて俺の特技があんまり生かせないからな……それでまあ、こっちの方が儲かると思ってさ、来たってわけよ」


「そうだったのか」


その時、奥のほうから何かを叩く音が聞こえる。


「ん、何だろ?」


すぐにデュランがユラトに注意を促した。


「しっ!静かに!さっき調べたときに感じた魔力かもしれん」


ユラトは息を呑んだ。


そして、デュランが先頭に立って静かに歩を進めた。


そして、暗闇の中から現れたのは全身が薄茶色で人間の幼児ほどの大きさで自分の背丈と同じぐらいのツルハシを持った者だった。


ユラトはすぐに剣を抜き放ち構えた。


「―――魔物か!」


デュランが直ぐにユラトを静止させた。


「まてっ!大丈夫だ」


「ん……?」


「ありゃ、『ノッカー』って言う精霊だ」


ノッカーは鉱山や洞窟等に出没する精霊である。


人間を襲うことは滅多に無く、むしろ友好的に鉱脈を教えてくれることもある精霊であった。


口笛や十字を切ることを極端に嫌がる。


初めてノッカーを見たユラトは驚いていた。


「ふう……。びっくりした……あれがノッカーなのか、初めて見たよ……」


デュランはオリディオール島でノッカーを見たことがあるらしく、冷静だった。


「ノッカーはオリディオールの鉱山にもいるからな。まあ、うっかり攻撃しないことだな。無駄な戦闘は避けたいぜ」


ノッカーは2人を気にすることなく出口の方へ向かっていった。


他に何か居ないか警戒して周囲を見渡し安全を確認し、剣をしまった時にはもうノッカーはどこかへ消えていた。


そしてさらに奥へと進む、すると今度は道が2つに分かれていた。


どちらへ進むかユラトはデュランに判断させようと尋ねた。


「右か左か……どっちも調べなきゃならんし、どっちから行く?」


「んー……。そうだな…確かに両方行く事になるから……ん!?」


その時、右の通路から引きずるような音と共に何かが現れた。


ズズズッ―――


ユラトはデュランが凝視している場所を見た。


すると、そこには2人の背丈より一回りほど大きい魔物の姿が松明の明かりによって照らし出されていた。


「どうした?―――!!」


ユラトは剣を素早く鞘から抜き放ち構えた。


そしてデュランは現れた魔物の特徴を声に出していた。


「頭や体は蛇で大きな蝙蝠の羽が付いている……」


その正体に気づいた2人は、同時に叫んだ。


「―――ワイアームだ!!」


ワイアームは、暗くじめじめした場所や夜の森を好み、この開拓の地で出没する魔物で、移動速度はたいしたことはないが、鋭い牙での噛み付きと毒液を吐いてくる。


この毒液をまともに喰らうと、体は麻痺し意識が朦朧とする。


この毒によって、何人もの冒険者が意識を失い、そこをワイアームの牙や他の魔物に襲われ命を落としている。


苦々しくワイアームを見つめながらデュランは隣にいるユラトに話しかけていた。


「マナサーチで感じた魔物はこいつだったか……」


ワイアームは2人の叫びに反応し、自ら来た通路の方へ若干後退し、両翼の翼を広げ、口を大きく開けて威嚇してきた。


シャアァァァー―――


ワイアームを睨みつけながらデュランが呟いた。


「ギルドの情報にあったのより、少し大きいな……」


横目でちらりと見やりながら、ユラトは赤毛の青年に聞いていた。


「こいつなら、2人で倒せる……か?」


「ギルドの情報だと強さのランクは下のほうだったからな。まあ大丈夫だろうよ。だが、毒液を吐いてくるらしいから気をつけたほうがいいぜ!」


「そうみたいだ。それに気をつけて切り込んでみるか、―――はあ!」


ユラトは牽制も含めて、まずは軽く剣を振った。


ブンッ……


するとワイアームは、体を後退させて攻撃をかわした。


ユラトの剣は空を切っていた。


「クソっ、思ったより動きは軽いな……」


今度はワイアームが息を吸い込み始めた。


それに気づいたデュランがすぐに警戒を呼びかけた。


「毒を吐く気だぜ!ユラト気をつけろ!」


「ああ、わかって……!?」


答え終わる前に毒液をユラトに向けて吐き出してきた。


発言を中断し後ろへ飛び、それをかわすと、ワイアームは避けられたのを警戒して、大きく後退していった。


「ふう、あぶなかった……」


「奥に逃げやがった、追いかけようぜ」


2人はワイアームを追いかけ慎重に奥へと進んだ。


そして少し進むと、直ぐに後退中のワイアームに遭遇した。


どうやらこの魔物の移動速度は、あまり速くないようだった。


「いやがったぜ、観念しな!」


ワイアームは諦めたのか、すぐに振り返ると、目を剥き、口をあけ翼を広げ、攻撃体制をとった。


「俺が、あいつの頭を狙って短剣を投げるから、ユラトも攻撃してくれ!」


「わかった!」


デュランは腰のポーチから短剣を一本素早く取り出すと、ワイアームの頭目掛けて投げつけた。


シュッ――


そして、それが魔物の右目に見事にヒットするのを見るや否や、ユラトが敵の頭部目掛けて、さらに切りつけた。


「―――はあっ!」


彼の攻撃は見事に当たった。


小さな奇声を上げてワイアームは、よろめいた。


思わずデュランが叫んだ。


「ナイス!」


ユラトは敵に隙を与えることなく、今度は連続で突きを繰り出すが、体勢を直ぐに立て直した敵は、反撃しようと牙で襲ってきた。


それを、ユラトは両手で持った剣を振り軽くはじき返す。


ガッ!キィィィィーーン!


その間にデュランは大地の初級攻撃魔法を唱えようとしていた。


右手の手のひらを敵に向け、目を閉じ詠唱を始めた。


「……母なる大地の女神イディスよ、力と加護を我に!」


すると、デュランの右手に、周りに落ちている小さな石などが集まり、握り拳ほどの大きさになった。


「……大地よ……魔弾を解き放て!ロックシュート!!」


魔法によって集められた石や岩の塊が、勢いよく凄い速度で敵の頭めがけて飛んでいった。


それがワイアームの頭に鈍い音を立てヒットした。


ドンッ!


その衝撃に耐えられなかったのか、ワイアームは倒れた。


そして、デュランが少し不安そうに叫んだ。


「やったか?!」


一瞬、2人は動きを止め、敵をその場所から見ていた。


そして、ユラトが動いた。


「……俺が見てみるよ」


ユラトはワイアームに慎重に近づいた。


暗がりの中、見えたワイアームは痙攣しているように見えた。


(……まだ、僅かだけど、生きているな……なら……)


そして、敵が反撃できないほど弱っているのを確認したユラトは、ワイアームにとどめと刺した。


そして2人で魔物の死亡を確認した。


「よし!死んでいるな……以外にあっけないな」


どうやら一番最初にユラトが切りつけた時のダメージが致命傷になっていたようだ。


「最初に思いっきり、踏み込んで斬りつけたからね……だけど、デュランもよく当てたよ」


デュランは正直ここまで上手く当たるとは思っていなかったようだ。


(案外当たるもんだな……学校じゃ、今ひとつの時もあったんだが……)


そしてユラトに軽く答え、辺りを見回した。


「ん、まあ、上手く当たったな…それより、この道ここで行き止まりかよ……」


「……そうみたいだね」


残念そうにデュランが呟いた。


「なんだよ……お宝無しか」


「まあ、そうそうないさ」


「ちぇっ……戻ろうぜ、次だ次!」


2人は来た道を引き返し、左右に分かれた場所まで向かうのであった。


来た道を歩いていると デュランが何か気になった事があったようでユラトに、なんとなく聞いてきた。


「そういや、さっきから気になって聞こうか迷っていたんだが、ユラトの左手の甲の模様はなんだ?刺青か?」


ユラトは自分の左腕の甲を見ながら、それに答えた。


「ん、ああ、これは実は生まれたときからあるんだ。医者や神官、あと占い師にも見せたけど、ほとんど分からずじまいさ……」


「ふーん、そうなのか」


「唯一わかったのは、古文書の呪いに関するページにこの模様があったみたいなんだけど、何の呪いかはページが破れててわからなかったんだ」


呪いと聞くとデュランは少し眉をひそめた。


「呪い……か……気になるな」


「この呪いのせいなのかはわからないんだけど、たまに体に痛みが走る時があったり、魔法を使うと普通の人の倍、魔力を消費する体質なんだよ…だからこの呪いを解く為に冒険者として旅に出て、この世界を調べれば何か手がかりがあるかなって思ってね…」


「そうなのか、そりゃ大変だな…まあ俺も……おっと、さっきの場所にようやく戻れたな」


二人は先ほどの道が2つに分かれた場所まで戻ってきていた。


「そうだね、じゃあ左の道へ行こう」


「ああ……」


僅かな期待を胸に、ユラトとデュランは奥へ進んだ。


左側の洞窟の奥へユラトとデュランは、しばらく何事も無いまま進むことが出来た。


洞窟内は相変わらず暗く、地面には小さな岩が転がっていたり、所々に苔が生えていた。


緊張感に慣れたのかユラトは退屈そうにデュランに話し掛けた。


「こっちはさっきより長いね。まだ先がありそうだ」


「そうだな、結構歩いたな……少し休憩するか?」


そう言って水の入った皮袋を口に含む。


「んー……。後少し歩いておきたいかな、ここに入って結構時間が経ったからね。早くしないと日が暮れてしまうんじゃないかな」


「……わかった。まだ体力的には大丈夫だし、奥に行くか!」


そう言って皮袋をしまい二人は再び歩き出した。


そして、しばらく歩いていると今度はかなり開けた空間が二人の前に現れた。


「なんだここは!?」


そこは黒い石柱が4本建っていて、その中に簡素な作りの祭壇のようなものがあり、そこにいくつかの宝石や古代の金貨等が供えられていた。


それに気づいたデュランがうれしそうに叫んだ。


「おおっ!お宝発見!」


二人は祭壇の場所へ近づき、辺りを調べ始めた。


「……罠は特に無いかな」


「ここは一体何に使われてたのかな?」


「んー、俺にも分からんが……!? おい! ユラトこのレリーフを見ろ」


そう言って祭壇のある場所を指したところに描かれていたレリーフをユラトは見た。


「どうしたデュラン、あっ!―――これは……」


そこには見るからに邪悪な姿をした悪魔の姿が描かれたレリーフだった。


鋭い刺のような爪が付いた翼を広げ、大きな口には牙があり、邪悪な眼差しをした姿だった。


「こりゃあ、闇の種族を描いてある物だな……」


ユラトも見たことがあった。


「冒険者学校で見たとこがあるよ。……確か、魔族だと思う」


デュランはレリーフよりも、宝の方に興味があった。


「まあ、邪悪な物には違いないな……それよりお宝を頂こうぜ!」


「ああ、そうだね」


そして祭壇に供えられている物を一つずつ調べていく。


「えーっと…。30枚の銀貨に8枚の金貨、宝石が3個、これぐらいかな」


「まあ、上出来だろ、二人で分けてもそこそこの収入になるはず」


「この宝石は良い物かな?」


「しっかり見たいからユラト悪いが、松明使って祭壇に火を灯してくれ」


「わかった」


ユラトはすぐに祭壇にある蝋燭に火を灯していった。


「これでよし!」


「悪いな。さて詳しく見てみ……」


ゴゴゴッ……


デュランが宝石を見ようと思った瞬間、突然ユラト達が居る場所の地面から地響きが起こり、石の棺桶が出現した。


二人は驚き慌てふためいた。


「うわぁ!」


「なんだなんだ!」


ユラトとデュランは棺の上に乗る形になってしまっていた。


そして、慌ててバランスを崩してしまったユラトは地面に落下してしまった。


「イテッ!」


すぐに平静を取り戻したデュランがユラトを心配し、落下した彼のもとへ近づいた。


「おい、大丈夫か?」


ユラトは少し顔をしかめて答えた。


「あいたたたっ……大丈夫、少し打っただけさ」


それを聞いて安心したデュランが神妙な顔つきでユラトに尋ねていた。


「そうか……それよりこれは一体なんだ?」


「祭壇にある蝋燭全てに火を灯すと起動するように出来ていたみたいだね……」


「そうだったのか……。俺としたことが、うかつだったぜ……」


「まあ無事だったしいいじゃないか。それよりこの中どうなってるんだろ?」


デュランは棺から降り、一通り周りを調べ、安全を確認するとユラトと石で出来た蓋を押し込むことにした。


「よし、押すぞ!」


「わかった!」


2人は重量のある石の蓋を、力いっぱい押し込んだ。


徐々に中が見えてくる。


ギギギッ……


しかし、暗くてよく見えなかった。


そして、蓋がドーンと音を立てて地面に落ちた。


辺りに砂ぼこりが巻き上がった。


「ゴホッ、ゴホッ……。少し目に入った……」


「少し下がった方がいい デュラン……」


涙目になりながら、赤毛の青年は答えていた。


「ああ、そうだな……ゴホッ」


二人は砂ぼこりが落ち着くまで少し待つことにした。


そして、埃が落ち着いてくると石の棺の中が見えてくる。


ユラトとデュランは息を呑んで棺に近づき、そして中を確認した。


「よ、よし!見てみるぞっ……」


「う、うん」


すると中には、胸に短剣の刺さったミイラ化した遺体が眠っていた。


また、ミイラを良く見てみると人型だが、鋭い爪に牙、そして羽の後も伺える容姿をしていた。


「こりゃあ、悪魔族の遺体だな、しかも遥か古代の物かもしれん」


「……魔族か、あのレリーフからするとそうだろうな」


そして短剣の方へ視線を向けると、短剣は僅かにぼんやりと青白い小さな輝きを放っていた。


「これは魔法が付与されている短剣だ。それなりに価値がありそうかな」


「まあ、遺体のを貰うのは少し気が引けるが悪魔を倒した程だしね、俺達は冒険者だし、この場合貰っていってもいいだろさ」


「そうだな、聖職者じゃないからな、遺体と言っても魔族だし、少しでもいい武器は手に入れておきたいぜ」


「俺は短剣得意じゃないし、デュランが貰っていいよ」


「そうか、なら俺が使わせてもらうぜ」


そう言ってデュランは短剣を引き抜く、するとミイラは黒い塵となって消え去っていった。


そして、遺体が去った場所に薄く埃をかぶった魔法のスクロールが見つかる。


「ん、まだあるのか……なんだこれは」


デュランはスクロールを拾うと外側から慎重に眺めてみる。


魔法のスクロールとは、自らの魔力を消費すること無く、魔法を使用することが出来る、魔法の巻物のことである。


一度、魔法を唱えるとスクロールは粉々に消えてなくなってしまうので、扱いには注意が必要だ。


「んー特に問題はなさそうだな……」


そして、スクロールの中を見た。


「なんだこれ……真っ白で何も書いてないぜ……てっきり凄い魔法でも書いてあるのかと期待したんだがな……」


興味を失ったデュランは、そのスクロールをユラトに投げるように渡した。


ユラトは受け取ると、ぼんやり眺めてみた。


すると、そこには文字が書かれていた。


「……あれ、おかしいな文字と絵が見えるぞ?」


「何?!見せてみろ!」


デュランは奪うようにスクロールを見るが、さっきと同じく何も書いていないことを確認した。


「やっぱり、何も書いてない……どういうことだ?」


「俺にだけ読める……のか……?」


「ユラト、なんて書いてあるんだ?」


ユラトは巻物に目を通すと、そこには禁呪と書いてあり、古代の壁画にある様な、いくつかの絵が描かれていた。


それはどうやら、この巻物の魔法を使用する方法のようであった。


この世界における禁呪とは通常の魔法より威力が高い場合や特殊な効果があったりする魔法のことである。


また、その代償(魔力の消費だけではなく、なんらかの制約やハンデを負う)も大きい場合が多い、魔法の総称である。


「これは……こうやって使うのか……」


そして、最後の方に魔法の名前らしき字が書かれていた。


それをユラトは声を出し、読み上げた。


「リファイス……ブラスト」


すると、スクロールが粉々に砕け散り、ユラトの左手の甲にある模様から赤黒い光が放出され、刺すような痛みが突き抜けた。


―――ズンッ!……


「うっ!……」


ユラトは思わず左手の甲を右手で押さえ、うずくまってしまった。


デュランが直ぐに駆け寄った。


「どうした、おい、大丈夫か?しっかりしろ!」


ユラトはゆっくりデュランの方へ顔を向け、静かに答えた。


「……大丈夫、痛みは治まったよ」


「そうか……。で、何があったんだ?」


「どうやら、さっきのスクロールに書いてあった魔法を使えるようになったみたいなんだ」


デュランはそれを聞き驚く。


「なにっ!どんな魔法なんだ?」


ユラトは一連の起こった出来事を説明した。


「…なるほど。つまりお前は禁呪を覚えたのか。どんな効果があるんだ?」


「どうやら、何かを犠牲にして爆発させる事ができる魔法みたいだ」


「攻撃魔法になるのか?」


「おそらく……そうだろうね。あとはその対象になる物によって威力が異なるのと、自らの魔力を込める事で威力をさらに上げられるようだ」


「代償として自らの魔力だけでなく使用したその物が無くなってしまうから禁呪として扱われていたって事か」


「うん、これなら使える魔法だね」


「しかし、なんでユラトにだけ見えたんだ?」


「恐らく、この呪いのせいだと思う」


そう言ってユラトはデュランに左手の甲を見せた。


「原因は、それにありそうだな……」


「この模様は禁呪に関わる呪いなのか……とにかく、反応したのは間違いない……」


「まあ、今の段階じゃ情報不足で、これ以上は考えていてもわからんだろうさ。だが冒険を続けていれば、何か他にも手がかりが見つかるかもな」


「……うん、そうだね」


そして二人は、一通り辺りを調査したが、これといって特に何も見つからなかったので、調査済みの印としてホークスアイを地面に埋め込んだ。

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