第98話 流れ星☆

ドキドキするような恋がしたかった。

海にきたら、きっとそんな恋に出会える気がしていた。


あたし、早川 瑠奈はやかわ るなは高三の受験生です。

高校生最後の夏休み、親友の未可子みかこに誘われて一泊どまりの海水浴に参加した。

今年の春に彼氏と別れてからは、ひたすら受験勉強に打ち込んできたけれど……たまに息抜きがしたくなった。

大学に入ったら、もう何にも目標がないんだもの――。


海にきたら、新しい恋が始まる予感がする。

そして大いなる期待を胸に、いざ、海へいかん!

――が、甘かった!!

メンバーは未可子の彼氏の友人(他校の生徒)男子が五人と女子四人だった。

しかし、その内三組はカップルなのだ。行きのバスの中から、カップル組はラブラブしてて、目のやり場に困ってしまう。海に着いてもビーチパラソルの下で、やっぱりラブラブモードじゃん。クッソー! 羨ましいよ(泣)

んもぉー!! そんなにラブラブしたけりゃあ、自分たちだけで海にいけばいいのに!


シングルなのは私と男子が二人いるが、オタクの健一けんいちくんと女たらしと評判の玲人れいとくん、この二人の中から私の相手を選ぶなんて、無理! 無理!!

だって、オタクの健一くんは「僕は二次元しか興味ない!」って、アニソン聴きながら、スマホのゲームばっかりやってるし……。ったく、なんで海水浴にきたのよ。

そして玲人くんは「俺に惚れてもいいぜぇー、付き合ってやるさ」だって! ちょっとばかしイケメンだからって、その上から目線の態度はなんなの? 

超ムカついたから、こいつら絶対に相手にしない!


その後、オタクの健一くんは日差しが眩しいからと、先に宿の方へ引き上げちゃった。礼人くんはビーチの女の子たちに、手当たりしだい声を掛けまくってる。この人ってマジでナンパ師だよ。

まあ、せっかく海にきたんだし、あたしは海水浴を楽しむことにする。遠浅の海で水もきれいだし、ボッチで海と戯れることにしたよ。

浮輪でぷかぷか海に浮かんでいたら、とっても爽快な気分だった。

夕方近く、カップルのひと組がケンカを始めた。怒った彼女が家に帰ってしまったようだ。やれやれご愁傷しゅうしょうさま。


宿に戻って、みんなで食事したけど……彼女に逃げられた、彼氏さんションボリしてて、見ていて痛々しい。ケンカの原因はしらないけれど、先に帰っちゃうなんて、彼女もあんまりだと思うね。

なんか、ああいうの見てると恋をするのに臆病になってしまう。

実は前の彼氏に新しい彼女ができて、あたしフラらちゃったんだよ。やっと心の傷が癒えてきたけど、あんな悔しい想いは二度としたくない。


夜になって、女子の部屋にいるのはあたし独りだけ、他の女の子たちは彼氏と一緒に姿をくらました。ああ、リア充がうらやましい!

ボッチじゃあ、つまんないから宿の近くの海岸を散歩することにした。

月と夜空に瞬く星々、白い砂浜が幻想的な美しさ、潮騒の音と蒼い海――。ああ、ロマンティック! こんなとき、隣に彼氏がいたらなあーとつくづく思う。

しばらく歩いていくと砂浜で寝転んでいる人がいた。

地元のヤンキーだったら、絡まれたら怖いし引き返そうとしたら、その人に「星がきれいだね」と声を掛けられた。

振り返って見たら、一緒に海にきていたメンバーの人だった。とにかくカップル同士がラブラブしてて、自分たち以外とは話もしないという不思議なツアーだったけど、顔くらいは覚えてる。

そう。その人こそ、彼女に逃げられた彼氏さんだった。ショックのあまり、海に飛び込まないか心配だったので……あたしは黙って、彼の隣に座った。

「今日はみっともないところを見られた」

「いえ、まあ、いろいろありますから……」

「僕、落ち込んでるように見える?」

その質問には答えられない。スルーしよう。

「……実はそうでもないんだ」

「えっ! そうなんですか?」

意外な返答に驚く。

「うん。心が軽くなった」

「あのう、彼女さん追いかけなくてよかったの?」

「薄情だと思われるかもしれないけど、彼女に未練はないんだ」

「付き合って長いの?」

「もうすぐ一年だった。けど心は離れていた」

「ラブラブに見えたけど……」

あたしの質問に彼は笑ってスルーした。

「大学も別々だし、この海を最後に受験勉強に打ち込むために、彼女とは別れようと思ってたんだ」

そう話すと、砂浜の貝殻を拾って海へ投げた。放物線を描いて、それは海中に呑み込まれていった。

その様子を彼は静かに見つめていたが、心の中で何かと決別したのだろうか?

「でも、二人で同じ大学を目指せは一緒に頑張れるのに……」

「無理なんだ。彼女は勉強が苦手で遊ぶことばかり考えてる。この旅行も無理やり連れて来られたし……」

そういえば派手な感じの彼女だった。価値観が合わなかったのかしら? 恋愛って難しい。

「私たち受験生だし、これから勉強頑張らないとね」

「うん。同じゴールを目指せる子がいい」

「大学はどこ受けるんですか?」

「一応、K大に決めてる」

「えっ! あたしもK大の文系だよ」

不意に起き上がって、彼氏さんが訊ねた。

「君、名前は?」

「あ、あたし早川 瑠奈です」

「僕、濱田 駿はまだ しゅん。よろしく」

夕闇の中で、あたしたちはお互い見つめ合った。駿くんって割とイケメンだわ。結構タイプだったりして……。


その時、夜空に一条の光の矢が落ちていった――。

「今、流れ星が……」

「うん。僕、流れ星を見たのは初めて」

「実はあたしも……」

今はあたしも駿くんもボッチ。そんな二人が一緒に流れ星を見るなんて……運命感じちゃう。

あたしたち志望校も同じだし、急に身近に感じてきたよ。

「願い事した?」

「ううん。流れるのが早くて、願い事が言えなかった」

実は嘘。“彼氏が欲しい”と三回唱えた。

「同じ大学に合格できたらいいな」

「ハイ。合格してみせます!」

心地よい潮風が頬を撫でていく――。

「合格できたら、来年は二人で海にいこう」

手を握って誓い合った。

駿くんの手の温もりに、あたしの胸がドキドキした。


翌日のバスの中で、もうひと組カップルが壊れていた。

彼女がナンパ師の玲人とカップリングしていたのだ。未可子のカップルは安泰だったようだ。

そして新しいカップルが誕生した! 

あたしと駿くんは意気投合して仲よくなった。今はバスのシートにラブラブで座っているのだ。

やったー! ドキドキする恋を海で見つけたよん。

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