第88話 新宿civil war

 ド―――ンという、耳をつんざく爆音と閃光、爆風で吹っ飛び、その後、ガランガランと建物が倒壊とうかいしていく音がした。

 な、な、なんだ!? いったい何が起きたのか分からない。

 倒れてきた本の棚とテーブルの隙間に挟まって、かろうじて命拾いをした。

 建物は瓦礫に埋まって、あっちこっちに人間のパーツだった肉片が散らばっている。最初は地震かと思ったが、大きな爆音がして、瞬時に建物を破壊するのは爆弾しかない。もしかして、これは爆弾テロなのか!?


 平和だと思っていたこの日本で、まさかテロとは信じられない。


 ここは新宿にある、ネットカフェだ。

 俺は千葉の柏市かしわしから仕事で東京へきていたが、取引先の社員と新宿で深夜まで飲んでしまい、終電に乗り遅れたので、始発電車が出るまでネットカフェで仮眠していた。

 酔いもまわってウトウトしていたら、突然の爆音に驚いて、気が付いたらこの有り様だった。

 方々から火の手が上がった、早く逃げないと……このままだと煙に巻かれて死んでしまう。瓦礫をかき分け、屍を越えて、やっと倒壊しそうなビルから俺は脱出した。


 外を見回すと、新宿駅とその周辺のビルが壊されている。

 ひょっとして多発テロなのか? どこの国からの攻撃だろう。C国か、K国か、まさかのイスラム国? 国際情勢にうとい俺にはさっぱり分からない。

 JR新宿駅が使えないなら、隣の新大久保まで歩いて行くしかない。この騒ぎで街に人が歩いていない、みんなどこかに身を潜めているのに違いない。

 大事件なのに、機動隊や警察官の姿も見当たらない、ビルの中には死傷者が多数いるというのに……救急車さえ来てないなんて……いったいどうなってるんだ。

 とにかく、この状況を把握するため、俺はスマホでニュースを開いた。


 最初に飛び込んできた文字は、“東京23区で戒厳令発令!”


 な、なんだと!? さらにニュースを読み進むと信じられないような文字があった!


“新宿区と渋谷区で内戦状態!”


 まさか、この日本で内戦勃発するなんて……絶句。しかもその原因というのが、

“2020年夏季オリンピックを巡り、新宿区と渋谷区は水面下でいざこざが絶えなかった。新宿区にできる新国立競技場は、東京オリンピックのメイン会場となる予定だが、それに対して渋谷側から、伝統ある明治神宮外苑競技場をなぜ造らない。と苦情が殺到していた。そんな中、渋カジ五輪会のメンバーが新宿駅周辺と都庁前で新国立競技場反対の抗議デモを始めた。対して、オカマの聖地新宿二丁目の過激派がドローンによる火炎瓶投下をおこない、複数の死傷者がでた。その報復として、渋谷側から新宿駅周辺での爆弾テロがおこなわれた。死傷者は数千人にのぼるとみられる。”


 東京五輪が原因でcivil warだと……オリンピックなんか知るか! 僕は柏レイソルのファンなんだよう。


“尚、新宿警察と渋谷警察は現在戦闘状態である。この騒動で都知事も行方不明になっている”


 こんな大変な時に政府は……国はいった何してるんだ!?


“総理大臣は外遊中である”


 ニュースを読んで、思わず、スマホを道に投げつけそうになった。


 爆弾テロのせいで、鉄道は動かないし、道路も寸断されて、とうとう新宿はになってしまった。

 こんな騒動に巻き込まれるのは御免だ。俺は我が町柏市を目指して帰るだけだ。そう決心して急いで歩き出すと、周辺から銃声が聴こえてきた。

 これは危険だと物影に隠れて様子を見ていたら……これは悪夢なのか? なんと俺の目の前を戦車が通り過ぎていった。マジ? これって本物の戦争じゃん!!

 後続のトラックの上には渋谷のシンボル(ハチ公の像)が大量に積載している。どうやら制圧せいあつしていった新宿区域には、あのハチ公の像を設置するようだ。まさかのだ!


 いきなり首筋に冷たい金属の感触。

「動くな、声を出せば殺す!」

 ドスの利いた男の声だ。怖々振り向いて見たら、超美人のお姉さんがサバイバルナイフで俺を脅していた。

「我々は新宿二丁目の精鋭部隊だ。おまえは渋谷民か?」

「ち、違います。ボクは千葉の柏市からきた者です」

「本当か?」

 オカマ壌は俺をジロジロ見ると、「渋谷民にしては格好がダサイ!」そういって解放してくれた。

 千葉民をバカにすんなっ! 俺は中立だし、まさか捕まっても銃殺刑にはならないと……たぶん思う?


 新宿の内戦はさらに激化していった、ついに新宿アルタの前で戦闘が始まった。

 お洒落な渋谷ファッション部隊を迎え打つは、二丁目の精鋭部隊、見た目は女でも中身は屈強な男たちだ。

 弾丸飛び交う戦場、バズカー砲がさく裂、手榴弾まで投げ込まれた。街は破壊され、新宿に取り残された一般市民は逃げ惑う。血の海、屍の山、阿鼻叫喚あびきょうかんの地獄絵図になった!

 流れ弾が頭をかすめていく、このままでは殺されてしまう。俺は白いハンカチを振りながら泣き叫んだ!


「俺は千葉県柏市民だ! 東京都民の内戦なんか関係ない!!」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る