第71話 略奪恋愛ゲーム
第73話 略奪恋愛ゲーム
私にとって恋愛はゲームと同じだった。
攻略して略奪するもの! だから人の持っているアイテムが欲しいと思えば、いつだって奪ってきた。たとえば素敵な彼氏を連れた女がいるとすれば、その男に近づいて誘惑して“
だが、奪ってしまえば熱は冷める。結局、要らなくなって、男は捨ててしまうだけだ……それでも略奪恋愛ゲームは止められない。
なぜかって? 恋の勝者である自分に酔い。人の男を振り向かせることで自分の価値が確認できる。恋人を盗られた女の悔しがる顔が見たいし……この腹黒い性格に反して、私の容姿は美しく、大きな瞳は憂いに充ちて、顔も声もとても優しげだった。
こんな私に男たちはコロリと騙されて恋人を捨てて、私の方になびいた。
高校の同級生だった真由と、レストランの駐車場で偶然に出会った。そこは郊外にある高級フレンチのお店で、飽きた男を私はそこに捨ててきたばかりだった。
学生時代の真由は地味で目立たない子だったが、久しぶりに会った彼女はキレイになっていた。左の薬指にダイヤを光らせて、来年結婚するのと幸せそうに微笑んだ。
そこへ婚約者と
真由の婚約者は良い大学を出て、一流企業に勤めていた。真面目そうで、容姿も悪くない。――いつもの癖で私の
真由の婚約者、
不自然な偶然が何度も重なり智也と会う内に、少しづつ親しくなっていく。美人の私に言い寄られて興味を示さない男などいないことを、この私は自分で分かっていた。――ついに智也をお酒に誘い、酔い潰れた彼をホテルへと誘惑した。
そういう既成事実を作って、智也と深い関係になったから、真由に彼と別れて欲しいと言いにいった。
「そんなの嘘よ。智也さんが私を裏切るはずないわ」
真由は頑なに認めようとしなかったが、そこで私は髪を掻き上げる。
「ほらっ、彼が付けたキスマークよ。智也は真由より私の身体が気に入ったみたいなの」
首にくっきりと付いた愛の証を見せて、自慢げに微笑んだ。
その時の彼女の顔といったら……これ以上の絶望はないといった表情だった。やがて、顔が崩れ泣き出した真由を置いて、ピンヒールの音も高々に私はその場を去った。
数日後、真由はビルの屋上から飛び降りた。
まさか自殺するとは思わなかったが、死んだのは彼女の弱さのせいにして、忘れることにした。
ただ、さすがに後味が悪いので、智也とはいったん縁が切れた。
その後もいろんな男を手玉に取って略奪恋愛ゲームを繰り広げていたが、ついにヘマをやってしまった。
高速道路で相手の男の車に同乗中に別れ話がこじれて、
……だが、脊髄を損傷して一生車椅子生活を
《ああ、もうお終いだわ》こんな不自由な身体になって、もう男を振り向かせることもできない! 病院のベッドで絶望していたら、私の事故のことを知った智也が見舞いにやってきて「自分と関わりのある女性がこれ以上不幸になるのは辛い。一生、君の面倒を看たい」と、私を引き取ってくれた。
そして周りの反対を押し切って、一生車椅子の私と結婚までした。――ここまで
智也は資産家のひとり息子だった。
最初、彼の両親はこの結婚に激しく反対したが、天使のように可愛らしい車椅子の花嫁の姿に心を動かされて……二人の結婚生活を応援するようになった。
郊外に立派な屋敷を建てて貰った。広い玄関のホールから三階まで吹き抜けの階段があったが、車椅子用にエレベーターが設置されて、すべてバリアフリーだった。
そこで私たちの新婚生活は始まったが、智也は車椅子の私の身体を気づかって、夫婦の寝室も別々、指一本触れようとしなかった。
私の身の周りの世話に住込みの介護士を雇ってくれた。
かなりの高給だったので多くの人が面接に訪れたが、その中でも一番
黒ぶちの太い眼鏡に引っつめ髪、小太りで、化粧っ気もなく、服のセンスは最悪。歳は二十八だというが十は老けて見える、オバサンみたいな
おまけに無愛想だし、色気もない、こんな女なら家の中に居ても私は安心していられる。
――しかも久美の仕事ぶりは優秀だった。
介護だけでなく、家事や掃除もやってくれるので助かった。昼間は久美とふたりで過ごすことも多く、よく車でデパートへ行き車椅子を押して貰って買い物を楽しんだ。
身体は不自由だが、今の私は夫のお金で贅沢な生活をさせて貰っている。いつも
不細工で従順で有能な久美が殊のほか気に入っていた。
それがある日、突然辞めたいと言ってきた。理由を訊くと、
「妊娠しました」
意外な理由に言葉を失った。こんなオバサンを妊娠させた男がいたなんて……。
「……いったい相手は誰なの?」
「旦那さまの子どもです」
久美はキッパリと言った。
「まさか? 嘘でしょう?」
私は耳を疑った。
「不自由な身体の奥様を抱くことも出来ず、悶々としていた旦那さまを私が毎晩お
「おまえみたいな不細工な女を夫が相手にするわけないわ!」
吐き捨てるように言った。
「電気を消したら、顔なんて関係ありません。旦那さまとは身体の相性が良いのです」
「……こ、この家の中でふしだらなことをしていた?」
「奥さまの目を盗んで、旦那さまとの情事はスリリングで興奮しました」
ふてぶてしい久美の態度に私は
「許さない! おまえは私の夫を盗んだのね!?」
「あーら、奥さま人聞きの悪い。旦那さまは奥さまよりも私が好きで抱いたんですわ」
「この泥棒猫! 私を騙していたのね」
『奪い取った愛は、また奪い取られる運命なのです』
「えっ……?」
久美は黒ぶち眼鏡を外し、髪をほどいて、
「妹はあんたに婚約者を奪われて自殺したんだよ。だから、今度は私があんたから夫を奪ってやったのさ!」
「ひ、ひどい……」
悔し涙が零れた。
「いい気味さ! あっはっはっ」
笑いながら久美はエレベーターに車椅子を乗せて、三階の階段の踊り場まで運んだ。
「何をする気なの!?」
「あんたは、ここから車椅子に乗って
眼下に三階まで吹き抜けの長い々階段がある。
「やめて! 助けてー!」
「この屋敷の奥さまに今度は私がなるんだよ!」
私の車椅子を久美は
「ギャア――――!」
絶叫しながら階段を落ちていく、その時――。
『ゲームオーバー』
誰かの声がどこからか聴こえたようだった。
ついに《私の悪運》も尽きてしまったのか?
勢いよくバウンドしながら車椅子が
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