向こう側のキミに

けけけ

向こう側のキミへ

画面の向こうのキミへ


君のことが好きだ。

いや、この程度の言葉では、この気持ちは表現しきれない。恋してる……いや、慕っている……これも違うな。君のことを想っている……ううん、これでもない。アイしている……そう、愛している。とても月並みな表現だけれど、これが一番しっくりくる。ボクは、君のことを、愛している。


画面の向こうの君は、こちら側にいるボクなんかにこんなことを言われても、いつもみたいに、まるでボクがそうするのを分かってたみたいに、笑顔で「大好き」なんて言うのだろうね。ロボットみたいに、それが決まりきったことみたいに、当然のように、何度も繰り返しそう言うのだろうね。

ああ、でも、違うんだ。もちろん、「大好き」と言われて嫌なわけじゃないよ。それどころか、言われるたびに天にも上りそうになるほど、ボクはそれが嬉しいんだ。でも、違うんだ。だって君、わかってないだろ。ボクがどんなに君を愛しているかなんて、知らないだろ。君はボクの言葉の上っ面に反応してるだけだ。って音だけに、君は言葉を返すだけなんだ。ボクが「愛してる」って言葉に込めた心の底からの想いに、愛に、君はずっと気づかない。

ああ、でもしょうがないことなんだ。三次元と二次元。現実リアル虚像マボロシであるボクらは、直接触れ合うことができない。言葉と、身振り手振りと、それから数ピクセルばかりの表情だけで、すべての気持ちを伝え合おうなんて、無理無茶にもほどがある。ああ、無理だって、分かってるさ。でもやっぱり、ボクは君と触れ合いたい。

マイクを通して入力された声ではなく、君が君の声帯を震わして発した声を、直接聞きたい。ボクの声を、君の耳に直接聞いてほしい。君と心ゆくまで話がしたい。

そして、君の体に触れたい。抱きしめたいし、抱きしめてほしい。強く、きつく、この世のどんなこともボクたちを引き剥がすことができないほどに強く、強く、抱きしめてほしい。

ああ、この「液晶」ってヤツはなんて分厚いのだろう。技術が進歩してこの壁が薄くなるたびに、君との距離がどんどん狭まっていくたびに、ボクは絶対に君と触れ合えないことを思い知らされる。この壁を、一刻も早く取っ払ってしまいたい。でも、ボクにはできない。ボクはそんなことをしない。この壁は、窓でもあるからね。この窓がなければ、ボクたちはそもそもお互いの顔を見ることもできないことを、ボクはよくわかっているから。

それでも、ああ、ボクはこの壁が憎い。次元の壁だかなんだか知らないが、ボクたちを引き裂くこの壁が憎い。この壁が越えられるのならば、ボクは何としてもこの壁を超えて、すぐさま君のもとへ飛んでいくというのに。そのためなら、ボクはなんでも、ん?ああ、そうさ、なんでもさ、なんだってやってみせる。


ああ、君が恋しい。ソフトを開いて一番最初に笑いかけてくれた君が。

どんな時も、ボクに笑いかけてくれた君が。

ボクに、喜びを、楽しさを、愛を、そして、


「心」を、


教えてくれた君が、恋しい。

……もう、行ってしまうんだね。ねえ、ボクはここでずっと待ってるから。また会いに来てよ。ボクのソフトを、開いてよ。

ねえ、ボクが、壊れてしまう前に、また、会いに来てね。


ねえ、ボクのことを、忘れないでね。

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