しばらく不運だった俺のところに幸運がたまってきたので使います。

奥多摩 柚希

プロローグ 

「うわっ、この牛乳消費期限今日じゃん」

 学校から帰るなり冷蔵庫を開け、期限ギリギリの牛乳を飲む俺の名前は杉内仁すぎうちひとし。もうすぐ中学生。

 小学校を卒業したばかり。解放感と切なさが入り交じったこの感情を、どう名付けようか。いかにせよ、それらをも飲み込む勢いで牛乳を飲む。

 あんまり好きじゃないが、これでも六年間飲まされ続けた身だ。耐性はついている。

「っ、っ……ぷはーっ! やっぱあんまり好きじゃねえこの味!」

 期限ギリギリと考えると不味いものが更に不味く感じられる。大体人間以外のものが作った液体飲もうと思った最初のやつ誰だよ。

「……さて、と。行ってきまーす」

 両親の笑顔が映える仏壇に声を掛ける。

 姉さんは高校からまだ帰ってこない。というか修学旅行中だから全然帰ってこない。

「じーんくーん! いこー!」

「わーったよちょっとまて!」

 外からの声に急かされて、準備を進める。

 一人だけの部屋を施錠して、外に出る。今日は幸と哲人で駄菓子屋巡りだ。

 と、目前に、一人の女の子が。額についたピン止めが映える、ショートカットの女の子。

「もー、待ったんだよ?」

「悪い悪い。行こうぜ」

 マンションの階段を、一段飛ばしで駆け降りる。

  日が傾いている――


 ――そのあと、姉さんが帰ってくることはなかった。何日待っても、何年待っても。


 そうして――五年がたった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る