Memory
大田ココア
≠1
長かった試験勉強も終わって、念願の高校生活が始まった。新しい生活のスタートに心浮かれていた。あっそうそう、自己紹介するの忘れてた。俺の名前は龍一。カッコイイでしょ?友達には言わないけど結構気に入ってんだ。そして野球が好き。中学でもピッチャーだったんだ。野球といえば俺とバッテリーを組んでた慎は俺と大の親友。いつも冷静で時々頭に来るけどいいやつ。同じ高校入ったから、またバッテリー組めるといいけど・・・・・・。おっと、噂をしてると何とやらかな。慎が掃除を終えたようだ。
高校に入ってから、いつもこうやって一緒に帰るようになった。話題といえばいつも野球だったけどね。でもある日、奇妙なことを言った。
「今の生活、楽しい?」
「いや、楽しいけど。」
「・・・・・・あ、ごめん、こんなこと聞いちゃって。」
「へ、いや何のこと?」
俺は慎を察して深くは突っ込まなかったが、後々もっと聞いておけば良かったと思った。2人は何かを察し合い、お互い無言だった。
「そういえばお前、野球部入るんだよな。明日見学行ってみようぜ。」
「ああ、わかった。」
少し心配だった。「わかったと言ってくれるか。その理由は約半年前に遡る。
中学三年の夏。野球の県大会決勝戦。多くの応援の中、あと一歩で全国大会というこの試合、負けられなかった。試合は九回表を迎え二対二だった。マウンドを降りた俺に慎はこうつぶやいた。
「後は俺に任せろ。」
その言葉は今でも忘れられない。ツーアウトランナー無し。延長戦か、サヨナラ負けか。そういうムードの中、中学でも指折りのスラッガーであった慎は甘く入ったカーブを捕らえ場外ホームランを決めた。そこまでは良かったのだが・・・。
マウンドに向かうのが怖かった。差は一点。俺は先頭打者をストレートのフォアボールで出してしまう。後でナインが声をかけてくれていたのを知ったが、この時は緊張で全く聞こえなかった。でもその後、よくは覚えていないがツーアウトにこぎつけた。しかしバッターは四番、慎と並び称される屈指のバッターだ。打率は六割二分三厘。ホームランはないがミート力はずば抜けている。慎は、
「ホームランさえ打たれなきゃ大丈夫。」
そう言って内角のカーブを要求してきた。俺の得意球でもあったが、奴の得意球でもあった。裏を掻こうというのだ。緊張の中、投げたボールは際どく入った。しかし奴はフォームを崩されながらもスタンドに一直線で運んだ。後で聞いたが、カーブは予想もしていなかったし、ただボールにあわせただけだったと本人が言ってたが、投手にとってこれほど悔しい言葉はなかった。
チームはサヨナラ負けをした。だれも俺たちを攻めるやつはいなかったが、後々慎のリードが悪かったと周りで言うやつもいて、責任感の強い慎は少し野球に嫌気をさしていた。
他人からして見ればそうたいしたことではなかった。俺もそう思うのだが、あれから俺たちは何かが変わった・・・・・・気がする。
そしてまた桜の木の下でいつものように別れた。今日の強風のせいか、だいぶ桜が散っていた。その桜をボーっと見つめていると後ろから誰かにド突かれた。こうされれば大体誰かわかる。中学時代強健のセンターとして活躍・・・・・・したかは定かではないが、こいつのバックホームに何度も助けられた。おかげで借りを返せと借金取りのように毎日やってくる。困ったもんだ。―って誰か言ってなかったわ。こいつは明だ。
「何、桜なんか眺めてるの?あ、わかった。恋してるんでしょ〜?」
ほんとにこいつはうるさい。こんなこと言わなきゃほんとにいいやつなんだが。
「お前はほんとに能天気だなぁ。」
「お前に言われたくないよ。」
「何を根拠に?」
「お前はただの野球馬鹿、で、俺は天才。」
おいおい、嘘は言うなよ。
「あーあー野球馬鹿で悪かったよ。中学の時結局一度も俺の球打てなかったくせに。」
「テストの点数はいつも俺が上だろ?」
「おいおい、それとこれとでは話は別だろ。」
「そういえば、慎は?」
「もう帰ったけど。」
「あいつ野球部入んの?あいつ相当悩んでたじゃん。」
「やっぱそうなの!?」
「いっしょにいるくせに気づかなかったの!?まあ、あいつのことだから気づかれたくなかったんだろ。ほら、捕手は投手に苦労させないんだよ。」
「へぇ〜。」
何で俺にそういうこと話してくれないんだろうか。そう思いつつ今度はプロ野球の話で盛り上がった。
明と別れてすぐ家に着いた。帰ると親は勉強しなさいとうるさい。高校は中堅の学校で進学校でもないくせに大学進学率を上げようと必死だ。大学で野球をしたかったから、意地でぎりぎりの学校に入ったが、明日から講習続きらしい。まだ予習もしていない。あ〜、もう嫌だ。そういえば明日は体育だったっけ。野球部にいくのも楽しみだな。おっ、明からメール?
-日本ハムが逆転したぞ!!
だから俺はソフトバンクのファンだっつーの。明の馬鹿さ加減に呆れて俺は勉強することにした。
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