時の吸血鬼
夢乃藤花
プロローグ
その男は、知ってしまった
光を通さぬ深き森に住む、住人達のことを...
「はぁ...はぁ...何なんだあいつら....早く皆に知らせないと...」
森を走り抜ける男の後を、一匹の蝙蝠が追っていた。
「あいつが村を覗いてたっていう人間か...」
地面に降り立った蝙蝠は、身を本来の姿に変えた。
水色のワイシャツに灰色のスラックス、首からは、赤いラインの入った黒地のネクタイを下げている。
17~18歳程の学生といった感じだろう。
「あのまま誰かに話されたら困る...」
-逃がさない-
風を切り、走る。
人間離れした速さだ。
既に何百mか先に逃げていた男の背中が、もう目で追える距離に近づいている。
速度を落として肩に手を伸ばそうと...
眩しい
目が開けられない
突然目の前に現れた光の弾に視界を奪われ、その場に崩れた。
「もう、ここまでくれば大丈夫だろう...」
化物の住む森から逃げ切り、心と体を落ちつけようと、木陰に座り込んでいた。
「確か君、森で追いかけられてた子だよね?」
声に反応し顔を上げると、薄汚れたコートに中折れ帽をかぶった老人が立っていた。
身に着けている物はいずれも茶色っぽく、暗い場所だと木と見間違えるような見た目だ。
「そうですけど...俺に何かようですか?」
「わしはあの森の管理人だ。 君に少し頼みがあってね。」
「頼み?」
「あの森で見たことを、他の人間に話さないでほしい。」
「えっ、どうしてですか!? あんなのをほっておいたら、俺ら人間がやられるかもしれない!」
「犠牲を出したくないのは向こうも一緒だ。 彼らは森に迷い込んだ人間を追い返し、わしのように説得しようとしてるだけなんだよ...。そのことはここ数年あの森を管理してきたわしが一番よく知っている」
管理人を名乗る老人は貫禄のある声と真剣な眼差しで語った。
「わかりましたよ...」
俺が老人の言葉に納得し、その場を立ち去ろうとすると後ろから呼び止められた。
「まだ俺に何か?」
「いや、もし何かあった時のために、L○NEでお友達に...」
視界が明瞭になり、ゆっくりと周囲を見渡す。
どうやら、例の人間には逃げられてしまったようだ。
ふと下をうつむくと、ガラス製の球体が落ちていた。
太陽爆弾。
昼間に日の光を浴びせて置き、投げると強い光を放つ、牽制用の魔法道具。
対吸血鬼用の閃光手榴弾と言ってもいいだろう。
おそらく、俺の視界が奪ったのはこいつだ。
それを拾い上げると、何か書いてある。
『あとは任せろ』
確か今は昼間、またあの人が気を使ってくれたんだろう。
村の奴らが心配してる。
そろそろ戻ろう。
決して光の当たらない、大切な村へ。
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