男子高校生のどうでもいい会話ss

雨月 日日兎

休み時間

 心が病んでいると、時々自覚する。しかしそれは、十代特有の不安定さであるとか、誰もが同じような思いをしたことがあるとか、そんな風に大人から諭されれば、そんなものかと流せるほどの闇でもあった。

 五時間目と六時間目の間にある十分間の休憩時間。窓に寄りかかりながら教室を眺めていた僕は、久しぶりに溢れてきた病みを持てあまし、言葉にして消化しようと口を開いた。

「ずっとがんばって生きててもさ」

 うん? と言うように、前の席に座った男子生徒が振り返って首を傾げる。顔立ちの良い彼の何気ない仕草に、教室の隅から女子生徒の高い声が上がった。それに構わず言葉を続ける。

「誰も死んでいいよって言ってくれないんだよね。だから、生きるのが嫌になるよ」

 え、と彼は声を発し驚いたように目を丸くした。それから怖々とこちらを伺うように質問をする。

「ぱらっちゃん、死んじゃうの? 」

「え、死ななぃ――」

 どうしてそうなった、と呆れ顔で彼を正面から見れば、半泣きの瞳とかち合う。こいつ、マジかよ。高校生にもなって。

「やだよ、ぱらっちゃん死んだら、俺泣くよ? 引くほど泣くよ。てかほら、今も泣きそうだし」

 子犬か? と思うほど純粋な、水分たっぷりの両目に見つめられ、僕はこいつの友だちをやめたいと思い始めていた。

「いや、だから死なないって」

「首つったり、窓から飛び降りたりしない? 睡眠薬飲んだり、手首切ったり……」

 次々と出てくる自殺のレパートリーにため息をつく。心配してくれているのは分かるが、死にたがりほど死なないという定理を彼は知らないようだ。ちなみに言えば、死にたがりだから言った発言ではなく、生きるのがめんどくさいと思って出た発言だ。

「しないよ、ったくめんどくさい」

 そう、生きることも死ぬこともめんどくさい。ただそれだけの病み。

「え、俺めんどくさい? 」

「うん」

「あ、やべ、涙出てきた。うぅ、みーちゃんが冷たい」

 泣き真似をして顔を覆う彼に、可笑しさが込み上げてきた。

「みーちゃん呼ぶな、そして泣くな。男の子だろ」

 僕の言葉に勢いよく顔を上げた彼は、真剣な顔をしていた。

「それ、ねーちゃんたちにも言われる。いいじゃん、男の子だって泣きたいときもあるさ」

 だって、男の子だもん。などと続きそうな物言いに、小さく笑声をたてた。やはり友だちをやめるのはよしておこう。彼との日常はひどく楽しい。

「うんうん、あるある。ほら陽汰もうすぐ先生来るぞ」

「あ、やべ、教科書」

 慌ててロッカーへ取りに行こうと彼が席を立つと同時に、授業開始のチャイムが鳴った。ヤッベと呟いた彼に、僕は笑声を送った。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る