第35話:愛/偽りなき
『アイィッ!!』
ヒューマ先生が駆るブルーラインが、操られたアイが乗っているギアーズ・オブ・アーサーの兜に触れた瞬間、GOAは脱力し膝を折った。完全に倒れる前にブルーラインがそのGOAを手で支える。
その異常にオットーは叫び、刃を折られた合体した長剣を構えて先生の方へ突き進もうとする。
「お前の、相手はッ――」
『瞬ッ』
「俺だッ!」
背部に接続されていたマガジンと連結している、銃身が焼き付いてしまった一丁のガトリングガンをパージしながらも、俺は右手に日本刀型の
背後からの追撃にオットーも無視はできないようで、俺が振り被ったヒートブレイドの一撃を、回転をしながらもその合体長剣で受け止める。
『君はッ!?』
「先生の邪魔はさせねぇッ!」
『くっ……』
激しい鍔迫り合いをしながらもアイを超えて、俺はオットーと共にその先へ押し出す。しかし、一方的な押し出しもほんの数秒で、向こうの態勢が整ったのか背部の
俺も脚部に温存しておいた
「あんたは、自覚してるのかよ! 自分がアイを危険な目に遭わせている事を! あんたが自分から、アイがしたくもない事をさせてる事をッ!」
『……自覚はあるッ。だが、君には関係のない事だッ!』
「いいや、関係あるね! 大いにあるッ! なぜなら、俺達とアイは仲間だからだッ!!」
振り払われて後退してしまう俺は、背部に残っている二丁のガトリングガンを起動させて金色のギアスーツに攻撃する。金色のギアスーツはその銃弾の連続攻撃に対し、全身の青いエネルギーラインからエネルギーの風を纏って銃弾を受け流していく。
「相手が育て親とか関係ねぇッ! アイに自由がないなら、仲間である俺達がアイを救い出すッ!」
『……彼女は、人間じゃないんだぞッ!』
「その決めつけが気にくわねぇんだよッ! アイの生まれがどうとかじゃねぇ……アイはアイだ! デザインベビー? 大いに結構ッ! 俺達と一緒に飯を食って、俺達と一緒に勉強して、俺達と一緒にそこにいた、アイ・A・イグリスであれば、俺はいつだって笑顔で迎えてやるッ! 俺達が知っているアイを、返しやがれッ!」
ガトリングガンが空回りをした事に気が付き、俺は背部のガトリングガン二丁を強制的にパージする。残った武器は二丁のレールキャノンとアサルトライフル――とヒートブレイド。十分だ。
俺は身軽になった肉体を駆使し再びオットーへ接近する。日本刀を構え、オットーが合体長剣を構えているところへ切り裂こうと振り被る。
刃は火花を散らせて、島に斬撃音を響き渡せる。
「それに! あんたはアイの父親なんだろ!」
『偽りのだ!』
「関係ねぇ……あんたが男で、守るべき相手がいるんなら、それが偽物でも他人でも関係ねぇんだよッ!」
斬撃音が何度も響き渡る。動きがついて行ける。攻撃へ転ずる事は難しいが、それでも撃ち負ける事無く、俺は何度もその合体長剣に日本刀で撃ちあえる。
愛機が頑張ってくれているのだ。俺が身に纏う鎧が追随してくれている。ならば――俺の意志を伝えないといけない。
「俺の親父は――正直、母さんに尻を敷かれるほど肉体的に精神的にも弱い男だ! 頭はいいけれど、身体が虚弱のせいで情けない人だったッ!」
『…………』
「だがな――そんな人でも俺達を守ろうとしてくれてんだッ! 大事な人を守るためなら、無理をしてでも働いて、俺達を飢え死にさせねぇように、身体を壊してでも働いてさぁッ!」
自分の親父と目の前のアイの義父を重ねて見てしまっていた。
身体が弱くても必死に俺達のために働いて俺達をここまで送ってくれた大事な父と、目の前で育てた娘を戦わせている情けない男を。
自分が父の気持ちを全て理解できるなんて自惚れるつもりはない。でも、少なくとも俺はそんな父に感謝しているし、俺も親父みたいになりたいと思う。誰かを守るために、必死に――絶対に、立ち向かって見せる。
「あんたはどうだ!? 祖国のため、とか言っているが、あんたはアイと祖国、どっちが大事なんだよ!」
『そ、それは……』
「今のあんたの行動は、アイなんてどうでもいいと言った感じだぜ?」
『それは断じて違うッ! わ、私は、確かにアイを愛しているッ!』
「そう、かよッ!」
撃ち合っていた二つの刃が交錯し、今度は俺が押し切った。切り払われた金色のギアスーツは後退しながらも、弱々しいモノアイでこちらを見つめる。
「良かったぜ……ここであんたがアイを愛してなかったら、俺はあんたを殺してもいい、とか考えてた」
『ぐっ……し、しかし、祖国、イギリスを裏切る事は……できない!』
「あんたの事情は知らねぇよ。あんただって生きてんだ、色んなしがらみとか、苦い思いをしてきてここまできたんだろ? そりゃ、嫌な事もしないといけないだろうし、それが今なのかもしれねぇ――けど」
俺は、目の前の男の人生を否定するつもりはない。元より、そんな資格は俺にはない。
アイの小父さんを諭せるほど、俺は人生の経験を積んでいないし、精神的にも何もかもが未熟だ。
だが、そんな未熟な奴でもハッキリ言える言葉がある。そんな、何も知らない奴でも心の底から叫べることがあるんだ。
「なぜそれに対抗しない! 本当に愛しているのなら、祖国とか、そういう自分を縛る物を全てを
理想論だってことは解ってる。自分が言っている言葉は、現実味がなくて、現実にしようとするとそれこそ、何もかもを失って絶望するかもしれない。そんな夢染みた子供の理想。
だけど、それが最高であるはずなんだ。何もかもが上手くいくわけがない。それでも、その誰かを愛しているのであれば、せめてその子を全力で守る事が一番のはずなんだ。
だって――それが愛だろ? 俺の親父が仕事で俺達を養ってくれたように。自分のできる事をして、守りたい、愛したいと心から願った相手を守るんだ。
それが、俺の中の愛だ。勝手な自論だし、価値観なんて人間が一人ずつバラバラに持っているんだ。だからこの言葉が、オットーに届く事はないかもしれない。それならそれでいい。これは、俺が俺に言っているようなものなのだから。
『わ……わ、たしは……』
「俺は……アイが喜んでいた事を知っている。それがたぶん、遺伝子操作とかそういうやつのせいで生まれた感情であったとしても、さ。あんたを想う気持ちは嘘じゃなかったはずだぜ、アイの小父さん」
『しかし……ぅ』
「誰かが何かを教えて、その何かを信じて進んでいく。でも、その途中で考えは変わるかもしれないし、もしかしたら反対の事をするようになるかもしれない」
『ぁ……ぁぁ』
「感情だって同じだ。俺が最初、親父を情けない人だって思っていたのに、親父の苦労を理解してすげぇ人だって尊敬したように。アイだって、与えられた感情が最初であっても、今に至るまでに色んな事を考えたはずだ。そして、それがあんたを愛する事になっているんだから……アイのその感情は、嘘じゃない。嘘なんかじゃないッ!」
金色のギアスーツが跪く。後悔するように、その合体された長剣を落として、男は自分の頭に両手をやり嗚咽に近い声を上げる。
この人は、アイを愛するあまりに愛が解らなくなってしまったのかもしれない。俺は小父さんの環境がどんなものかは知らないけれど、そこにそれが、アイの生まれた背景が重なって、こんな事になってしまったんだと、漠然と思った。
涙を流す金色の鎧を身に纏った男をよそに、俺は後ろにいる銀の鎧を支える黒の鎧を見つめる。
先生……俺の説得は終わりました。俺なりに頑張ったつもりです。だから――あとは、アイを、お願いします。
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