第31話:聖剣/解き放たれし

「アイィィィィイイイイッ!!」


 俺は左手に持ち替えたアサルトライフルの銃口をアイに向けながら、引き鉄に指をかけずに前進をする。アイに対しては絶対に発砲はしない。たとえ、攻撃をしてきたとしても俺はそれだけは絶対に守る。

 アイが乗っているであろうギアーズ・オブ・アーサーの、その右肩に装備されているキャノン砲の銃口こちらを捉えるように動く。


『ギアーズ・オブ・アーサーのオプションウェポン!? 黒檀の槍エボニースペアッ!』

「レールキャノンかッ!?」


 どんなに大層な名前がついていても、その本質はあくまで兵器だ。

 レールキャノンは、電磁の発生する力で弾丸を撃ち出す兵器。要はめっちゃ早くて、めっちゃ強い武器だ。代わりに発射時の反動も強く、正確に当てるには反動を受け流せる、地に足がついていないとまともに当てられないらしい。さっきマニュアルで読んだ。

 そして、GOAは両手で金色に輝く長剣を握りながら、腰を屈めて地に足を付けている。反動は逃がせる。一方で、俺はその射線を予測し、その先にいる遠見達の事も考えないといけない。


『オットー・A・イグリスッ!』

『……ギアスーツの軍勢よ、やれ』


 キノナリ先生が扱うタイガー・トーパスは、その右手に握ったレドームが取り付けられた狙撃銃を、金色のギアスーツに向けて接近していたが、その趣味の悪い機体の背後に存在していた何機もの島のギアスーツが、先生の進路を阻むように現れる。

 タイガー・トパーズ――T2のヘルメットの上から被された仮面のような物がスライドし、そこから緑色の一つ目が現れる。加速を抑え、むしろ後退をしながらも先生はその銃口を壁となったギアスーツに向ける。

 銃口から炸裂音が響き、同時に障壁であったギアスーツが一機、くの字のように態勢を壊されながら吹き飛ばされた。同時に、肩部にある小型のレールキャノンが他のギアスーツを捉え、必殺となり得る一撃をぶち当てる。


『悪いけれど、撃ち抜かせてもらうわ!』

『先生が引き受けてくれている!』

「なら、やる事はしねぇとは!」


 俺は先生を追い越して、右脚の浮上システムホバーユニットの出力を上げる。同時に重心を左へ。瞬間、俺の肉体はくるりと一回転をしつつ左へ移行する。

 GOAの銃口は俺を捉えようと移動するが、それでいい。俺と先生の後方には、支援してくれている遠見達がいる。彼女達を危険な目に合わせてはいけない。


『軍勢よ』

「チィッ!」


 先生がいかに凄腕のパイロットであっても、数百の機体を全て任せられるのは無理だ。

 オットーの声が聞こえた瞬間に、先生の方から俺の方向へ顔を向け、飛び立ってくるギアスーツ、およそ五機。それだけで十分とでも言うつもりか。


『瞬ッ!』

「セーフティ、解除ッ!」


 遠見の声を無視して、俺は現在装備している全ての装備の安全装置を解除する。アサルトライフルの引き鉄には指をかけて、俺は目の前に立ちはだかる邪魔者に銃口を向ける。

 敵は人間ではない――その思考は、俺に躊躇いを消すには十分だ。


「っテぇッ!!」


 引き鉄を引いた瞬間に放たれるアサルトライフルの軽快な銃撃音。同時に背部に連結されているガトリングガン二丁も、その銃身を回転させて大量の銃弾がギアスーツへ向かう。

 だが、壁となったギアスーツにはそれは無力だ。いや、厳密には想像以上にダメージが与えられない。

 彼らが纏うエネルギー装甲は、エネルギーを噴出させて、その勢いで銃弾を受け流す。扇風機に紙飛行機を飛ばしても、扇風機の風に押しやられるのと同じだ。

 原理的にアサルトライフル程度の連射力では完全に受け流されてしまう。ガトリングガンも、大半は受け流されてしまっているようだ。


「――ッ!」


 だからこそ、キノナリ先生は俺にレールキャノンを担がせたのだ。

 ガトリングガンとアサルトライフルの攻撃を受け流す五機であったが、逆に言えばそこから動くのは難しい。エネルギー装甲の発生は、エネルギーラインが敷かれた部分にしか発生しない。現状で受け流す事ができているのだから、動く必要性はないのだ。

 俺は相手の動きが無くなった瞬間に、背面に装着された二砲のレールキャノンの照準を定める。同時に俺はホバーの推進システムスラスターの機能を停止させた。

 慣性の法則で前進しながらも俺の脚は落ちていく。地に足が付いた瞬間が勝負だ。肉体の感覚を前のめりに。そして、数秒もせずにその瞬間は訪れる――


「いけッ!」


 その声は、たぶん俺が俺に向けた声であった。

 地に足が付き、同時にレールキャノンが放たれる。反動は逃しきれず、俺は一気に後転するだろう。レールキャノンが二機のギアスーツを捉えたのを確認し、同時に背部の小さなスラスターを起動。それで再び態勢を整えて、同時にホバーのスラスターも前進するように起動させる。

 その二機が邪魔だった。だが、三機であれば後は一太刀でどうにかなる。

 腰に差した日本刀型のヒートブレイドを右手で持ち、ガトリングガンで変わらず牽制をしつつ、三機のギアスーツに接近していく。三機はガトリングの銃弾の雨の中で、各々が持っている銃を構える事もできず、ただただ受け流すほかに術はない。


「デヤァッ!!」


 ヒートブレイドで一機のギアスーツを切り裂いた。エネルギー装甲とは言え、受け流せるのはアサルトライフルの銃弾という、高速だが小さな弾丸だ。ヒートブレイドであれば、エネルギー装甲に阻まれても、俺と言う大きな弾丸が支えになっている剣が受け流される確率は低い。

 倒し伏したギアスーツを余所に、俺は開かれたその道を一気に突き進む。残された二機は、こちらに銃口を向けようとしたが、先生が対処してくれるのが見えた。ありがたい。後ろの二機は考えてなかったからなぁ。

 そして、その先にいるその銀の鎧に対し、俺は――


「グッ!」


 振り被られたその金色の長剣に対し、日本刀を振り被っていた。交差する二つの刃。散る火花。

 銀色の兜から覗かせる赤いモノアイが、俺のバイザーの先を睨んでくる。


「アイ! 返事しろよ、アイ!」

『…………』

「お前が本当に、島の敵になっているのか! それともただやらされているのか、それを聞きに来た!」

『…………』


 アイは応えない。鍔迫り合いが、ただただ無用に続くだけ。なぜ応えない。せめて、敵であってもアイの意志だけは確かめたかったのに。


『無駄だよ。彼女の意識は我が手中にある』

「なにッ!?」


 オットーの言葉に動揺してしまったのか、はたまたその声に呼応したのか、アイはその長剣を振り切り、その勢いで俺を後方へ押し出した。咄嗟に背部のスラスターで対応し、下手に転ばないように態勢を整える。


『彼女は私の人形だ。私の思う通りに動く』

「……あんた、それでもアイの小父さんかよ!」

『あぁ、そうさ!』


 銃口を向けながらも、俺は地に足を付けていつでもレールキャノンが使用できるようにはしている。しかし、なぜだ。なぜ嫌な予感がする。

 確かにオットーの発言は気に食わない。だが、それだけじゃない。俺の脳が、ヤバいって言っている感じだ。


『君は、アイによくしてくれたそうじゃないか。彼女から聞いたよ』

「……アイは仲間だ。あんたによって戦わされているなら、俺が救い出す!」

『ならば――その仲間をアイに殺させよう』


 オットーの酷く冷たい声は、俺に異常なまでの警戒心を抱かせる。本気なのだ。俺を、殺すつもりだという事がひしひしと解る。


『アイ――円卓機構、展開』


 その機械的な一言で、俺のその確証のない嫌な予感は確信に書き換わる。

 俺を切り飛ばし、沈黙していたアイは、その両手で握られている金色の長剣を天空に掲げた。瞬間、GOAの赤く光るエネルギーラインが急激に光が増していき、そして全てが青に染まっていく。


『円卓機構……そんなの、知らない!』

「……とりあえず、ヤバそうなのは理解したぜ」


 エネルギーラインが青に染まり、そして金色の長剣にはその青とは真逆の赤色のエネルギーが漏れ出す。剣がエネルギーを纏っていた。その様は、形容するなら――聖剣。


『加熱式光子長剣――エクスカリバーは、エネルギーを纏う剣というの!?』

『瞬君! 退いて!!』

「えっ!?」


 キノナリ先生が吠える。俺はその言葉に一瞬だけだが慄いてしまったんだ。

 GOAはそれを縦に振り被ろうとしている。だが、この距離ならばあの大雑把な斬撃は当たらない。そう――勝手に解釈していたのだ。


『早く!』

「くっ!?」


 言葉に従い、俺は後ろへ退こうとする。しかし、ほんの数メートル後ろに退けた時には、アイのエクスカリバーは振り切ってしまっていた。

 眼前に見える赤い色をした剣。そしてそこから放たれる衝撃波。赤に塗れる視界の中、俺は思わず身構えてしまい、そして――

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