第17話

 ブラックソルの思念が、雷鳴のように轟いた。

(おれたちは、死に触れた。おれたちは、死を超える。今やおれたちの中で、死と生の対立は止揚され、消滅した!)

メイの絶叫が続く。

(既に私は、死んでいる。私という存在は超越的に還元され、シンクロニシティの中へと解消された。無意識は洪水のように溢れ出、自我と非自我の区別はもはや無く、超越性のみが燦然と輝く。私は何?アプリオリな自他の区別は既に、陳腐化している。私は何?)


 私は死んだ。私は死んだ。私は死んだ。私は死んだ。私は死んだ。私は、・・んだ。・は、・・死んだ。私は、・・・・死んだ。私は、・・死んだ。私は、・・・・・・・・・・死・・・・

私は、・・・死んだ。・・私は、・・・死んだ。・・死んだ・・・・・・・・・■・・■・・■・・・・■・・・■・・・・・・・■・・・・・■・・・・・・・・・・・・・■・・■・・・・・■・・・・■■■叫んだ。


(私は、何?!)


 地底に広がる、銀色の渦。その広大な大地の底の宇宙ともいうべき世界へ、黄金の龍は凶悪な姿を現した。

 銀色の大樹は黒い巨人の目覚めと共に、その輝きを増し、律動する。それはまさに、生物の姿であった。

 一つの山脈といってもいい程巨大な大樹の外縁を、双頭の龍はゆっくりと旋回し、下降する。やがて漆黒の巨人が、ユグドラシルに絡みついている姿が見えるところまで降りてくると、空中で停止した。

 龍の口が開き、ビリーが姿を現す。体には、外骨格マニュピレータタイプのパワードスーツを、装着している。外骨格マニュピレータの背中にある姿勢制御ロケットが噴射し、ビリーの体が中に浮く。

 ビリーは、漆黒の巨人の前にあるプラットホーム、メイとブラックソルがユグドラシルへのダイブを行っている場所へと、向かった。その姿は、銀色に輝く銀河を前にしながら宇宙空間を漂うように見える。

 ビリーを迎撃する形で、プラットホームの下部ブロックより、3機のミリタリーモジュールが出現した。その3機の卵形をした戦闘機械は、50ミリ速射砲の照準をビリーへ合わせる。

 砲弾が、ビリーを襲った。ビリーは外骨格マニュピレータの姿勢制御ロケットを全開にして、回避運動をとる。ビリーは、パワードスーツを軋ませなから急旋回を行い被弾を避ける。

 速射砲が放った50ミリの炎の矢は、パワードスーツの装甲を焼き焦がせながら擦過していく。

 砲弾は近接信管が作動したらしく至近距離で炸裂し、爆風でパワードスーツを揺らした。

 辛うじてパワードスーツの姿勢制御システムが、金切り声をあげつつもバランスをとる。

 至近弾が炸裂していく衝撃で揺れ動くパワードスーツを、ビリーは無理やり抑え込んでいたが、それも限界をむかえた。

 ビリーは、パワードスーツの姿勢制御システムが持つ性能を越えた運動をとらせ、ほとんど自由落下状態となる。

 そして、背中に取り付けていた砲身をはずして抱え、構えた。

 ビリーの手中にあるのは、DDC(デジタル・デストロイ・キャノン)である。

 ビリーは、全ての情報系を混乱と死に陥れるその兵器を使用した。

 DDCの砲弾が射出され、ミリタリーモジュールの中心で炸裂する。光が一瞬ミリタリーモジュールと銀色の大樹を照らす。情報系を狂わせる人工生命体ワームたちは散布され、ミリタリーモジュールを包み込む。そして、ワームたちはユグドラシルにも食い込み、汚染を広げていった。

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