手紙(にごたんGW2)

 お題【グリザイユ】【最高速の】【リフレイン】


 おてんばのまこちゃんへ


 永らく手紙の返事を書かず、申しわけなく思っています。こちらもなかなか忙しかったもので、返事を書く暇も無かったのです。書くことが多すぎて書いては捨て、書いては捨てを繰り返していました。


 こんなことを書けば、まこちゃんは「言い訳など聞きたくもない」と怒り出すのは目に見えています。ずっと私のことを、女々しい女々しいとまこちゃんは言ってきましたが、そこは未だに治らないようです。


 まこちゃんがそちらへ行ってから随分と経ちました。あまりにも遠いので、足を運ぶことが叶いませんでした。

 そちらでも、元気にやっていますでしょうか。人当たりの良いまこちゃんのことですから、たくさん友人ができたことだと思います。


 こちらの近況も報告しておこうと思います。まこちゃんがそちらに行ってから、随分とこちらも変わりました。田んぼばかりだったこちらも、少しずつ建物が増えていきました。デパートなんかもできて大変賑やかになりました。


 そういえば、あのガリ勉のヒデがなんと同じ組のマドンナ、ユミちゃんと結婚しました。そして、ヒデも三児の父親となりました。あれからヒデは、さらに勉強して宣言通り東大に入って医者になりました。いまだに、青白くてどっちが患者か分からないとみんなで笑っています。


 ガキ大将のタケオは、あれからも変わらずガキ大将でした。私と一緒の所に就職して、上司の娘さんと結婚しました。この娘さんは年上で、また気が強いお方で、まこちゃんに負けず劣らずといったほどです。そんなお嬢さんですから、奥さんの尻に敷かれてタケオは頭が上がらないそうです。ガキ大将の跡形もありません。


 それと、チビのユキちゃんはあれから大きくなって背も高くなり大変な美人になりました。まこちゃんがずっと「ユキちゃんは将来美人さんになる」と言ってましたが、本当にその通りとなりました。そんなユキちゃんも結婚して二人の子供を産んでいます。


 このように仲良し組はみんな立派な大人になりました。


 最後に私の話をしようと思います。あんなに泣き虫で女々しかったった私も、あれから泣くことはありませんでした。普通に働いて、結婚して、息子と娘ができました。そんな息子たちも大人になり子供を産み、私はおじいさんになってしまいました。


「大人になってから時間の進みは早い」といいますが、本当に何よりも速い光の速さように過ぎ去っていきました。


 あれから、まこちゃんと別れてから、はや60年以上は経ちました。まこちゃんがサナトリウムに行く前に、みんなで撮ったセピア色の写真は今も持っています。グリザイユのように単色な写真ですが、私には当時の色彩が鮮やかに蘇るのです。


 まこちゃんがサナトリウムに行くと聞いて、大泣きしていた私にまこちゃんが言った言葉は今でも蘇ってきます。

「いい? 私と再会するまでは絶対に泣いちゃダメだからね」

 私が泣きそうな目に遭ったときにはその言葉を繰り返し繰り返し、思い出していました。


 実は、今だから言えることなのですが、当時から私はまこちゃんのことが好きでした。ですから、しばらく経ってまこちゃんが死んだという報せをユキちゃんから聞いたときは、本当に泣きそうになりました。でも、ちゃんとまこちゃんの約束は守りました。


 しかも、まこちゃんと別れる前にユキちゃんに「あいつが泣かないように、見張っといて」と言ってたらしいじゃないですか。だから私にじゃなくてユキちゃんサナトリウムに行ったことを知らせたんですね。


 あれからも、ずっとユキちゃんには泣かないように見張られ続けました。おじいさんになった今でもずっと、傍らでユキちゃんに泣かないように見張られ続けています。


 あまり詳しいことを書いてしまうのはやめておきます。再会したときに話すことがなくなりますから。


 まこちゃんがそちらへ行ってから随分と経ちました。あまりにも遠いので、足を運ぶことが叶いませんでした。

 でも、もう少しで会いに行けそうです。


 泣き虫のツヨシより


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 手紙を読み終えた老婆は、ふと顔を上げた。傍らでは、夫が安らかな顔でもう二度と覚めない眠りについている。

 しかし、安らかな夫の顔に一筋の涙が落ちた。


 そんなツヨシを見たユキは、安心したように微笑んだ。

「よかった、まこちゃんに会えたんだね」



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