処女 episode.1&side
「明日は、採取に行くか。誰か、供のリクエストはあるか?」
「う……、ない――というか、残りは気まずそうな人が多いからなあ……。選択肢が少ないけれど、あんまり苦手な人ばっかり残しても後がしんどそうだし……」
私がごにょごにょ言っていると、
「……分かった。勝手に俺が決める」
シュテルにぶった切られた。あう。
「――シュピラーレの密林。主神と白羊宮のヴィッダーとの縁で生まれた採取地です。現在の温度28℃、湿度86%、不快指数が相当に高いためお疲れになるのは無理もありませんが、採取を終えるにはまだ早いと考えます、主神」
「あ……はい、分かっています。まだ止めるつもりはありません……。い、行きましょうか」
「そうですか。それなら良いのですが」
場所は熱帯雨林――要するにジャングル、である。あまりの蒸し暑さにバテて、歩く速度が落ちかけていた私を、処女宮のユングさんが
「密林は人が生活するのに適した環境とは言えませんが、動植物に関して言えば多様な生態系を形成しています。ここにしか生息しない固有種も多い。採取する上での収穫は多いでしょう。ん、主神。2時の方角2メートル地点、及び9時の方角3メートル地点に採取物があります。もれなく採取して下さい」
「……は、はい。ありがとうございます……」
ユングさんの冷静な口調が、やっとのことで掘り起こした私の気力を根こそぎ奪っていく。れ、冷静に分析しないで……。
和やかな世間話も出来ない中での熱帯雨林の探索というのは、肉体的にも精神的にもなかなか「くる」ものがあった。
いかん、気力が持たない。なんとか話をつなごう。
「ユ、ユングさんは、すごく、色んなことに詳しいですよね。分析力も高いというか……」
「当然ですね。情報は非常に有用なツールであり、いわば武器です。『彼を知り己を知れば
「……ユングさんの、仰るとおりです……」
返す言葉もない。
問題は、それを完璧に行うことが非常に難しいということなのだが、どうやらユングさんにはそれが出来てしまうらしい。脅威だ。
「彼を知り己を知れば、か……。己を知るっていうのも、結構難しいことだよなあ……」
独り言として呟いたのだけれど、予想外にその言葉への返答があった。
「ほう。己を知ることの困難さを自覚しているというのはいいことですね。自分の事というのは、理解したつもりでいて意外と理解していないものです。自らを主観ではなく客観で捉えることが必要ですからね」
「あ、ありがとうございます」
やった、褒められた。
「逆に言えば、客観的に捉えることさえできれば、己を知ることはなんら困難ではないのですが」
……と思ったら釘を刺された。ぬか喜びでした。
「情報か……。あ、そうだ」
呟いているうちに、ある事を思い付き、私はユングさんに声をかけた。
「あの、ユングさん」
「はい。なんでしょう、主神」
「それだけ色々な事をご存知ということは、もしかして十二柱の皆さんについてもお詳しいんですか?」
私が問うと、ユングさんはあからさまに心外だという顔をして答えた。
「当たり前でしょう。それこそ、真っ先に知っておくべき事項です」
「それ――」
一歩ユングさんに近づいて、言う。
「差し支えない範囲でいいので、私にも教えていただけませんか。十二柱の皆さんのこと」
少しばかり、言葉や態度に熱が入っていたのだろう、ユングさんは一瞬戸惑った様子をみせたが、すぐに得心したように言った。
「なるほど。私達の情報を入手することで、より効率的に縁を深めようという訳ですね。砦を攻略するために、まずその構造を調べることは定石です。手法としては悪くない」
「あ、いえ。そうじゃなくて――」
私は言葉を継ぐ。
「単純に、皆さんのことを知りたいなって、理解したいなって思ったんです。素朴な興味というか――」
「……興味?」
「はい。その方が私も喋りやすいし、話がはずみやすいんじゃないかなって思って……」
「……話が、はずむ……?」
だんだんとユングさんの口数が少なくなり、ついには、
「……すみません。ちょっと、私には、理解しかねますね」
考え込むようにそう呟き、採取地の奥へと歩き去ってしまった。そ、そうですか……。そんなに変なこと、言ったかなあ?
それでも、十二柱の皆さんについての情報は、きちんと詳細に(それはもう詳細に)教えていただけたのだけど。
――side:ユング――
どうも、理解しがたい人ですね、主神は。
思いのほか理にかなう発言をしたかと思えば、よく分からない理由で行動したりする。
行動するからには、何らかのリターンを想定しておくべきでしょう。情報を入手したなら、その有用な活用法を普通考えるはず。
それなのに、理解を深めたほうが話しやすいから、とは……。
だが、確かに、私の価値観において重要な「情報」という話題について主神と話をすることは、不快なものではありませんでした。むしろ快かったと言ってもいい。
これが、話がはずむ、ということ――でしょうか?
【採取アイテム】
・《植物のつる:丈夫なつる。これだけで橋を造ることも出来る》
・《柔らかいコケ:ふかふかしている》
・《赤い土:ジャングルの土。レンガの原料にもなる》
・《シュタム:木の幹。木材になる》
・《甘い果実:何の果実か分からないけど、甘くて美味しい》
・《巻きつきの木:他の物に巻きつく特性を持つ。たまに巻きついた物を絞め殺してしまったりする。こわい》
・《ケモノの毛皮:美しく丈夫な毛皮》
【習得スキル】
・蒸留 Lv.1
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます