初めてのライバル?
工房に戻ってきて、私は思わずシュテルに弁解をしてしまった。
「シュ、シュテル……あの」
「ん?なんだ」
「シュテルって、ほんとは私よりずいぶん年上だったんだね……。今までずっと、子ども扱いしててごめんなさい」
「はあ?」
すると、シュテルはいかにも呆れたような顔をした。
「今さらかよ……。っていうか、こんな態度のでかい12歳児がいると思ってたのか?何様だ、俺は」
「た、態度がでかいって……、自覚してたんだね」
「まあ、それはともかくとしてだ。そんなこと、気にすんな。自分が本当は何歳かなんてもう忘れちまったし、あんたは主神で、おれは副神だ。あんたがおれの上司であることには変わりがない。今まで通り接してくれて構わない――というか、そうしてくれ。あんたに変に敬語でも使われちゃ気持ち悪い」
「気持ち悪……」
直接的な言いように一瞬言葉を失ったけれど、シュテルとはそれなりに付き合いも長くなってきた、これは彼なりの配慮だと今なら分かる。気を使う必要はないと、言ってくれているのだ。
「うん、じゃあそうさせてもらう」
「ああ、それで頼む」
そうだよね、シュテルは、シュテルだもんね。
その日、私達は依頼をこなしに酒場へ来ていた。
もう、酒場にもだいぶ慣れてきたなー。マスターともすっかり顔見知りになり、今日も私達に気がつくと、マスターの方から声をかけてくれた。
「よお、嬢ちゃん。また品物を持ってきてくれたのか?」
「マスター。はい、こんなのどうかなって思って」
「嬢ちゃんの持ってきてくれるモンは、品質がいいから客の評判も良くてな。酒場のメニューの参考になることもあるし、こっちも助かってるぜ」
「えへへ、そう言っていただけると嬉しいですね」
そんな風に和やかに会話していると――
「ちょっとあなた!」
そんなふうに、鋭い声がした。いや、語調は鋭いものの、声自体は可愛らしい女の子の声で……。
振り向くと、あ、あれ?どこから声が?
「どこ見てるの!こっちよ!」
……あ。いた。
私の目線より一段低いところに、ちょこんと、一人の女の子が立っていた。13歳くらいだろうか。強い眼差しで私を睨んでいるけれど、金髪碧眼の、西洋人形のように整った顔立ちのために、迫力よりも可愛らしさのほうが勝ってしまっている。……本人にとっては不本意だろうけれど。
「あなたが、最近話題になっている何でも屋とかいう人?ふん、ちょっとくらい良い物を持ってくるみたいだけれど、そのくらいで調子に乗らないでよねっ」
言って女の子は、びしっ、と私に指を突きつける。
ツインテールが、ぴょこっ、と揺れる。なんだか文句を言われているみたいだけれど……正直、可愛い。
「え、えーっと……、はじめまして、よね。私は有紗っていうんだけど……、あなたの、お名前は?」
「!――わ、私を知らない、ですって!?……ふ、ふんっ。いいわ、特別に教えてあげるわよ。……そのうち、私の名前を知らない人なんて、この街に――いえ、この世界にいないようになるんだからっ!」
そして女の子は、両手を腰に当て、胸を張って言い放ったのだった。
「私はイシス。
その姿も、やっぱり可愛かった。
……偉術研究機関付属学園?なんだろう、初めて聞いたな。
隣から、シュテルが小声で耳打ちしてくる。
「ほら、前に、研究所が出来たっていう話をしただろう。『大いなる技術』について研究しているっていう……、あれだ」
ああ。そういえば言ってたっけ。神の
ん?じゃあこの子はその研究所の、付属学校の生徒さん、ってことか。いやあ、自分について研究する学問を学んでいる生徒さんに会うなんて、なんだか照れるなあ。なんて、思っていると――
「人がライバル宣言をしている時に、何をにやにやしているんですのっ!」
怒られた。ん?
「ラ、ライバル宣言?」
「そうよ。今はあなたの方が顔が売れているのかもしれないけれど――、今に見てなさい。私は学園の筆頭偉術師よ!私に作れないものなんてないの。今にあなたなんて足元にも及ばないくらいすっごいアイテムを作り上げてやるんだからっ」
言い捨てて、女の子――イシスは、憤然と酒場を出て行った。
「結局……、なんだったんだ?」
「だから……、ライバル宣言、でしょ?」
シュテルと私は、呆然と見送る。
うーん、イシス、か。とりあえず、私達に強烈な印象を残したことは間違いなかった。
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