初めての来客
三人との面談を終え、シュテルは私を工房まで送ってくれた。
「明日の予定だが、なるべく近場で、まだ行っていない採取場に行ってみるか。また明日、迎えに来る」
そう言って、また天上へと帰っていった。
……ふう、やっぱり、神様と会うと疲れるな。
今日は早めに休もう。
翌朝、いつものように身支度を終えたところで、ノックの音がした。
「はーい、今あけるね」
もちろんシュテルが来たのだとばかり思ってあっさり扉を開けた私は、虚を付かれていささか動転してしまう。
なぜって、そこにいたのは見たことも無い女の子だったのだ。
藍色の髪をポニーテールにくくり、エメラルドの瞳を
「やっ!おっはよう!こんな朝早くごめんねー?まだ寝てるようだったら出直そうと思ってたんだけど、その様子だと起きてたみたいでよかった!
「私ね、今度あなたの家の隣に引っ越してきたんだー。この辺り、人が少ないでしょう?それで、お近づきのしるしに是非挨拶を、と思って!そしたら、こんな同世代の女の子なんだもんー。なんか嬉しくなるな。よかったら、これから仲良くしてくれると嬉しいな!えーっと……」
状況が把握できずぽかんとしたまま女性の言葉を聞いていた私だったが、はっとして、言葉を継ぐ。
「……あ、私、有紗。
すると、いかにも人懐っこそうに女性は私の肩をぽんぽんと叩いた。
「アリサちゃんね!お願いしますだなんて、やだなー。歳も近そうだし、もっとくだけて話しちゃってよ!私も、お隣にこんな若い女の子が住んでて嬉しいんだ。よかったら、これから仲良くしてくれると嬉しいな」
「あ……それはもちろん、こちらこそよろしくお願いします」
「んー?」
「あ、じゃない。こちらこそ、よろしくね」
そう言って笑うと、女性も嬉しそうに微笑んだ。
「うん、どうぞよろしく!」
それじゃあね、とばかりに去っていこうとする女性を、焦って私は引き止めた。
「あ!す、すみません。私まだ、あなたの名前、聞いてない……」
言うと、女性は慌てたように振り返る。
「あー。ごめんごめん!私としたことがすっかり忘れてた」
そして、私は女性の名前を知る。
「私は、ヘルメス。ヘルメスだよ。よろしくね、アリサ!」
そう言って、にこやかに手を振りながら女性は今度こそ去っていった。
その後、今度こそやってきたシュテルに、私は今朝の事を話してみる。
「あー、そっか、もう交流があったのか……。
「いや、おれもあんたに話をしようと思ってたんだ。どうやら、この周辺に、街ができたらしい」
「街?」
「ああ、昨日注いだエレメントの影響だろうな。採取地だけじゃなく、徐々に人の集落も復活してきたらしい。おそらくその、えっと、ヘルメス?も、その街の住人だろう。
「で、だな。街に酒場ができているらしいんだ。まあ、人が集まれば当然と言えば当然だが……。酒場といえば情報の
私としては、是非もない。街ができたというなら行ってみたいし、酒場といえばファンタジーの定番だ。興味がある。
……まあ、
というわけで、私達は新たにできたという街に偵察に向かうことにした。
といっても、街自体はまだ小さなものだった。人も少ない。
「多分、あんたがエレメントを注いでいけば、今後発展もしていくだろう」
そんな風に、シュテルが補足をしてくれる。復活するのは採取場だけというわけじゃなかったんだね。
話をしているうちに、酒場にたどり着いた。私は未成年だから。当然ながらこういった場所は初めてだ。
シュテルが先導して、ドアを開けてくれる。お邪魔しまーす……。
中に入ると、独特の喧騒が迎える。昼間だから人は少ないけれど、そこかしこで人々の交流の気配がする。RPGとかだと酒場は情報交換の場だったりするし、お酒を飲む目的以外の用途もあるんだろうなあ。
なんて見回していると、
「おい、嬢ちゃん。それに、坊主。ここはあんたらがくるようなところじゃないぞ」
なんて、声をかけられた。
見ると、カウンターの向こうに、筋肉質なダンディーなおじさまがいる。……察するに、酒場のマスターかな?
確かに、現代社会で言えば女子高生と男子小学生が連れ立ってバーに来るようなものだ。確実につまみ出される。
「おじさん、ごめんなさい。僕達、どうしてもここに用事があったんだ」
だが、次の台詞に、私はずっこけた。……いや、本当にずっこけはしなかったけど、そのくらいの心境だったのは確かだ。
シュテル!?そ、その口調は一体どうしたこと!?
おっと。思わず私の語尾もおかしくなっちゃったよ。つまりは、それくらい驚いたということだ。
私にだけ聞こえるように、シュテルが囁く。
(いいから、ここはおれに話を合わせとけ……)
こくこくと頷く。
「僕達、ちょっとした『ものづくり』をやっているんだけど、その売り先がなくて困ってるんだ……。ここなら、品物を欲しがっている人たちが来ることもあるって聞いたから。だから、そういう人たちに買ってもらえないかと思って。売ることができないと、僕達、お金がなくて……」
言って、悲しそうに
すると、酒場のマスターはいかにも同情した様子で、応対してくれた。
「う、む……そう言われるとなあ。確かに、酒場には色んな依頼が舞い込むことはあるが……、お前達で達成出来そうな依頼があるかどうかは怪しいぞ」
「それでもいいんだ。どんな依頼が来るのか、話を聞くだけでも、聞かせてもらえないかな……」
涙目の美少年のお願いだ。こっちは美少女でないところが残念だけど、私も精一杯うな垂れて調子を合わせておいた。
「……しょうがねえなあ。依頼について教えるだけなら教えてやるが、そう簡単にお前達に任せるわけにはいかねえぞ。出来なかった場合、こっちも信用問題に関わるからな。まずは先に品物を持ってきてみろ。受けさせるのはそれからだ」
「本当!?ありがとう、おじさん!」
(見ろ。こんなもんだ)
シュテルは天使のように笑った後、私にだけ見えるように悪魔のように笑った(……いや、まあ、実際は神様なのだけど)。
うーん、いい性格、してるなあ……。
そんな訳で、私達は酒場の依頼をこなすことができるようになったのだった。
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