双子・磨羯・金牛 episode.0&side:

 翌朝、身支度をしていると、玄関をノックする音がした。

「おはよう、主神。おれだ。入ってもいいか?」

 シュテルの声だ。

 昨日、私がある程度合成に慣れたのを見届けると、シュテルは天上へ帰っていった。天上での仕事もあるし、工房に一緒に泊まっていくわけにもいかないだろう、とのことだった。

「おはよう、シュテル。もうすぐ開けるから、少し待ってもらえる?」

 返事をし、出迎える準備をする。

 ……今日は、何の用だろう?


「昨日の合成で、ある程度のエレメントが溜まったからな。そろそろ、他の十二柱神にも会いに行こう」

 一緒に朝食を食べ終えると、シュテルはそう切り出した。

 ……そうか、最初のときに三人にしか会わなかったのは、私のエレメントがそれだけで枯渇しちゃったからだったっけ。今はもう補充されているから、まだ会っていない人達に会いに行けるんだ。

 また初対面の人達に会うのか……。うう、緊張するなあ。

 今度は、どんな人達だろう?


 地上に降りてきたときと同じように、ワープで天上へと戻る。

「昨日のうちに、連中には話をつけておいた。応接間で待ってくれているはずだ」

 初日と同じように、応接間に向かい、中に入る。

 そこには――。


 やっぱりと言うかなんと言うか、またもや見目みめうるわしい美形達が揃っていた。

 若干行儀悪く、机に腰掛けているのは、私より少し年上くらいの青年。細身ながら華奢きゃしゃな感じはしない俊敏そうな体躯たいくと、いたずらっぽい笑顔は、どこかネコ科の動物を連想させる。ライトブルーの髪は短く、黄金色の瞳が興味深そうに細められていた。

 壁際にもたれるように腕を組んで立っているのは、二十代後半くらいの青年。長身で男性的な体つきに、少し癖のある短い黒髪。顔をわずかにこちらに向け、セピア色の瞳が私を捉えている。

 立ち上がり、折り目正しくこちらに向かった青年は、私と同世代。淡緑色の柔らかそうな髪の毛に、優しげなスミレ色の瞳。上流階級が通う高校で、生徒会長でもやっていそうな雰囲気だ。


 机に座っていた青年が、ぴょん、と飛び降り、軽快な足取りで近寄ってくる。

「よお!あんたが主神?オレは双子宮ふたごきゅうのヴィル。今日まで会いに来てくんないなんて、寂しーじゃん。これから、よろしく頼むぜ」

 言って、握手を求めてくる。応じると、にっこり笑ってくれる。……けど、この人、目は笑ってないな。うーん、なかなか一筋縄ではいかない人みたいだ。

 壁際の青年がこちらに向き直り、軽く会釈する。

磨羯宮まかつきゅうのタインだ。役目は果たす」

 淡々と簡潔に話す。……寡黙な人なんだろうなあ。

 正面の優しげな青年は、微笑んで一礼し、見た目通りの落ち着いた口調で口を開いた。

「はじめまして、主神。僕は金牛宮きんぎゅうきゅうのティア。会えて嬉しい。これから、一緒に頑張っていこうね」

 うん、すごく優等生っぽい。

「ヴィルが、メルクーアの支配を受けた気の加護を、タインは、ザトゥルンの支配を受けた土の加護、ティアは、ヴェーヌスの支配を受けた土の加護をになう。昨日還元したエレメントを三柱神に注いでおこう。皆、これから主神をよろしく頼む」

 シュテルに続き、私も皆に挨拶をする。

 その一方で、私は初日のシュテルの言葉を思い出していた。

(――最初だし、なるべくとっつきやすそうな奴等を選んだから――)

 二回目の今日にしてすでに、クセのありそうな人がちらほらいるんですけど……。

 残り六人、大丈夫かなあ、私!?


 ――side:ヴィル――


 へえ、「あれ」が主神ねえ。何か、ぱっとしねーな。

 あんな平凡な奴で、オレら十二柱神をまとめ上げて行けんのかねえ?なかなか、厄介な奴らが揃ってるぜー。ま、オレが人のこと言えた義理かって話だけどな。オレも、「厄介な奴ら」の一人だっつーの。くっ。なーんて、自分で言って笑ってる場合じゃねえか。

 ま、退屈しないなら、なんでもいいけどよ。面白そうなら協力してやるから、せいぜい頑張れよー。


 ――side:タイン――


 主神は、想像していたよりも、ずっと若い。

 主神の任は、重い。俺が、支えなければ。


 ――side:ティア――


 主神は、僕と同じくらいの年頃かな……。急にこんな世界に呼ばれて、大変だろう。

 特にあの子は、人の上に立つ事にあまり慣れていない様子だった。というより、人と接すること自体にあまり慣れていない、という感じかな?

なるべく僕が、サポートしてあげよう。あの子が、なるべく自然体で過ごせるように。

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