手紙

見波ひばり

1話 読み切り

俺の名前は

今井直也

俺は今病院のベッドの上に居る。

2ヶ月前、普段通り仕事をしていると急に胸が激しい痛みに襲われてそのまま病院に担ぎ込まれた。

医者はハッキリとは言わないが、どうやらもう長くは無いようだ。

コンコン..

誰かが病室のドアを叩く音が聞こえる。

「どうぞ」

-看護婦-

「今井さん宛てに手紙が届いているのですが...」

「手紙?」

入院中に手紙が届く事なんてまず無いだろう。

しかも最近はメールが主流になり年賀状ですらメールで済ませるようになっていたため、手紙というアナログな届け物がとても新鮮に感じられた。

「珍しいな・・・・」

裏を見ても差し出し人の名前が無い

「誰からだろう?」

取り合えず中身を見てみる事にした。

中の手紙を傷つけないよう慎重に封筒の端を切る。

そっと開いた手紙には見覚えのある小さく丁寧な字で

Dear.直也

突然の手紙でさぞ驚かれている事でしょう。

毎日をどう御過ごしですか?

ここはとても良い所です。

朝はここち良い風を浴びながら鳥のさえずりを聞き、昼は陽の光を浴びながら美味しい昼食を取ります。

夜は美しい星を眺めながら友人達と語らい、

そして眠くなったら良い夢を願いながら目を閉じます。

俺には結婚を誓いあった人がいる。

彼女の名前は

「橋本美雪」

美雪とは高校2年の春に出会い、3年にはお互いどちらからともなく自然と交際が始まった。

趣味も好みも全く合わなかったが不思議と上手く行っていた。

大学に行ってからも毎日のように会ったり、電話で話したりしていた。

大学を卒業し、お互い無事就職先も決まり、

将来のタメに二人で金を貯めようという事になり、

それからは、がむしゃらに働いた。

会える時間は少なくなったがお互い満たされていた。

仕事も落ち着き、貯金もソコソコ貯まった頃、俺は美雪にプロポ〜ズした。

美雪は目に涙を浮かべながらとても嬉しそうに頷いてくれた。

それからは式の日時や会場、ドレス選び、と瞬く間に時間は過ぎて行き、結婚式を数日後に控えた夜中、一本の電話で目が覚めた。

ん・・・誰だよこんな夜中に・・・・?

「もしもし?」

「直也さん?橋本...橋本美雪の母ですが...」

俺が着いた時にはもう美雪の顔には白いハンカチのような物がかけられていた。

動かなくなった美雪の体を揺さぶりながら何度も名前を叫んだ。

「なぁ嘘だろ?オイ...なんとか言えよ!」

もう語りかけてはくれない美雪に何度も何度も声がかれるまで話しかけ続けた。

交通事故だった。

美雪の家から徒歩五分程度の所でソレは起こった、居眠り運転のタクシーが帰宅途中の美雪を跳ねたのだ。

美雪は息を引き取る間際まで俺の名前を呼んでいたそうだ。

皮肉にも俺と美雪の人生において喜びに包まれる筈だった日に急に降りだした雨の中、美雪の通夜が行われた。ウェディングドレスでは無い純白の装束をまとい協会では無く箱の中に居る美雪の指にそっと指輪をはめた。

あの日から数年が過ぎたが一日だって美雪の事を考え無かった日は無い。・

また貴方と会える日を心から楽しみにしています。

次に会えた時、あの時の約束、果たせるでしょうか?

P.S

美味しい紅茶とケ〜キを用意して待っていますね。

From.HEAVEN

俺は夢でも見て居るのだろうか・・・・・・

その夜俺の容態は急変し、薄れ行く意識の中、

純白のウェディングドレスをまとう美雪にキスをした。

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