家がなくたっていいじゃない

見波ひばり

1話 読み切り


最近自分はこの公園で寝泊まりしている。

少し前までは帰る家もあり、家族もあった別に家や家族に不満が有った訳では無い。

いや、むしろイイ暮らしをしていたと思う。

しかし満たされていた訳では無い。

自分でも何をしたいのか解らないまま家を出た。

そして宛ても無く歩き始めた。

とにかく遠くへ行こうと思った。

明るい内に出来るだけ歩き暗くなれば、体を休められる場所を探し、そこで寝た。しかし今自分はこの公園に滞在している

というよりこの公園から動け無い理由が出来たのだ。

あれは5日程前の事で、歩いているとポツポツと雨が降って来た。

始めは小雨だったので気にしなかったが、時間がたつにつれ強まるばかりだった。

仕方がないのでその日は近くの公園で雨をしのぐ事にした。

一応屋根の下にあるベンチに腰を下ろし、濡れた体を震わせながら雨が止むのを待っていた。しばらく止む気配の無い空を眺めていると不意に視界に赤い物が入りこんで来た。

ん?

とそちらに目をやると、赤い傘をさした綺麗な黒くて長い髪の女の人が立っていた。

彼女は小さなタオルのような物を自分の前に差し出すと何も言わずに去って行った。

ズブ濡れで震えていた自分を哀れんでの事だろうか?

なにはともあれ、その日から自分はこの公園から動け無くなった。

恐らくコレが恋と言う物なのだろう。

果たしてあの人は再びこの公園に来るだろうか、始めは淡い期待と不安を楽しんで居たが今は不安に押し潰されそうだ...

もし来た所で自分にはどうする事も出来ない

それにわざわざこのタオルを取りに来るとは思えない

もし明日来なかったらこの公園を出よう。

不安を押し殺しながら目を閉じた。

翌朝、公園で遊ぶ子供達の声で目が覚めた

心なしかいつもよりイイ天気なような気がする。余りにもイイ天気でついウトウトしていると、

あっ...

あの人だ、公園の前を歩いている、

呼び止めようか迷っているとあの人の少し後ろから男の人が歩いて来た。

どうやら彼氏のようだ。

あの人と男の人は楽しそうに話をしながら公園の前を過ぎて行った。

それをただボ〜っと見ていた自分の顔はどれだけ滑稽だっただろうか、

それからかなりの時間ボ〜っとしていたらしく、いつの間にか辺りは薄暗くなっていた。

このタオルはココに置いて、この公園を出よう、そう思った時、あの人が公園の前をコンビニか何かの袋をぶらさげながら歩いている、コレが最後のチャンスだ、

するとあの人がコチラに気付き

「あっ」

と言う顔をして小走り気味に駆け寄って来て、

「まだ居たんだ!」

と自分の隣に座った。

余りにも突然の事で頭の中が真っ白になった、がスグにタオルの事を思い出しスッとタオルを差し出した。

あの人はそれを受け取ると買い物袋からジュ〜スを取り出してそれを飲みながら一人で話だした。

どうやら今日一緒に歩いていた男の人とは近々結婚するとの事で、とても嬉しそうに話していた。

「私、ちゃんと奥さん出来るかなぁ?」

「ワン!」

「ふふっありがとう」

「君にはお家が無いの?」

「ワン!ワン!」

「野良って感じじゃなさそうだし、早く帰らないと家族の人、心配するよ?」

「ワン!ワン!」

「じゃあちゃんと帰るんだよ?」

「バイバイ」

と言ってあの人は帰って行った。

以外とあっけなかった初恋は成就しなかったが今はとても清々しい気分だ。

始めは目的の無いこの旅もこんな素晴らしい体験が出来たなら無駄では無かったと思う。

夜が明けたらこの公園を出て、この四本足で出来るだけ早く家に帰ろう。家族の待つあの家へ。


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