真白き冬にて。

冬と白い羽


冬は しんとした季節だ。

大きな空に向いた窓から身を乗り出し つめたさを浴びる。


庇の向こう側には

ただ垂れこめた雲が停滞していて 憂鬱になる。


雲が斑に広がる奥に

限りなく広がる青い空を 思い浮かべてみる。


心はいつも 果てに飛ばせばいい。

重さがなくなっていくように願って。

いつしか自分の存在も、こうして消えゆく日が来るのだろう。



少しの間、空を交換してみない?

夏と冬とが 過去に交わした約束事があったなら

守られずに ただ宙に浮いた由無事よしなしごとなのであろう。


どちらが嘘つきなのか。互いに相手のせいにして。

簡単に口にだしたことを 信じる方がいけないんだ。

春と秋であれは 似たもの同士で

もっと やさしい騙し合いになっただろうに。



ずっと、ずっと、こんな空では かなわないよ。

ああ、もう、助けて。


君の気持ちが うつむいたままになっている。

ね、こっちを向いてごらん。

両手で頬を包んであげる。


君は冬が嫌いなのかい。ぼくはすきだよ。

一瞬で 体に風が張り付いて、身震いするくらいの寒気を感じたら

冬も生きてそこにあるって、眠っていたんじゃないって わかる。


曇った心に 寄り添うように 取り込んでごらん。

春ばかり待ち焦がれていたら 可哀想だよ。


君が ぼくに抱きついてくる。

君は そんな風にしか、冬から逃げられない人。



今朝、白い鳥が 鳥かごの床で 命を落としていたんだ。

白い羽を 両側にいっぱいに広げて 倒れていた。

何かを包み込むのに失敗して、そのまま落ちてしまったように。


悲しいよりも 美しいと想ってしまったぼくは

そこで止まる。

いつしか いつか来る日が、今朝になった。

きっとそうだ。


手にのせても、もう あたたかくない体。

剥製なのかと疑う その硬さは 命のぬけがら。

目は閉じていた。

あの どこを見ていたのかわからない瞳。


どうしよう。庭に埋めたりしたら 旅立てなくなるよね。


白い羽を そっと撫ぜてあげたら

どこか 気持ちよさそうに見えた。

真冬の 真白の空気が この子を連れていってしまうんだ。


君なら 抱き上げて連れて行かなくていい。

その羽を広げて、天使の後をついていけるね。


凍ってしまいそうなあの空に

君のまぶしい姿が 一瞬 きらめいた。







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