9話 デジャヴ
志音は、休み明けすぐの学校にはとてもではないが行きたい、とは思えなかった。これと言った特別な理由こそないが、まだ休んでいたい。という気分がする。志音は目覚ましを止めると、再びベッドの上で横になった。
志音はドアをノックする音で目を覚ました。どのくらい寝ていたのだろうか、志音は眠い目をこすり、時間の確認をしようとする。
「
声の主は蓮だった。
「もう起きてるから」
「そういう問題じゃねえよ、もう7時半だぞ」
「え、もうそんな時間? 流石に寝すぎたな……」
「当たり前だ、さっさと仕度しろよな」
そう言うと蓮は部屋を出ていく。志音は部屋のドアを閉めて大急ぎで仕度をして学校に向かう。
家を出る時間はいつもより30分ほど遅かった。おそらく、急いでも遅刻は免れないだろう。
案の定、昇降口に着いたと同時にチャイムが鳴り始めた。このチャイムが鳴り終わるまでに教室に着かなければ、遅刻だ。
上履きに履き替えてから志音は教室に向かって全速力で走り出した。が、教室の扉に手をかけると同時に、チャイムは鳴り止んだ。
「その感じを見れば急いで来たみたいだが、残念ながら、アウトだ」
榧野はやれやれ、といわんばかりの呆れ顔で言う。
それからは特にこれといったことはなく、平凡な一日を過ごした。
いつもと違ったことといえば、帰り際に夜谷が「また明日ね」と言って帰って行ったくらいだろう。と、一日を思い返しながら1000ピースのジグソーパズルのピースを埋めていく。残り50程度といったところで中断して眠りについた。
「おい、いい加減起きろ、
声の主は蓮だ。
「二日連続で寝坊なんて何してんだ、私」
志音は蓮の言葉を聞いて飛び起きた。
「二日連続って、こんな時間に何寝ぼけているんだ、今日は月曜だぞ」
蓮は呆れ顔をしている。
「……え、月曜日?」
志音は自分でも何を言っているのか訳がわからなかった。当たり前のことをあたかも不思議なことに感じたのだ。
「ああ、月曜日だ。何を当たり前なことで素っ頓狂な顔してんだよ、それに、もう7時半だぞ」
——7時半、いつもならもう家を出る時間だ。もう遅刻は免れない。そんな気がする。
家を出た時、祖母に「焦るんじゃないよ、危ないからね」と、念を押されたが、遅刻だけは免れないといけない。という気持ちの方が勝り、志音は自転車を全力で漕いだが、遅刻は免れなかった。教室の扉に手をかけた時にチャイムが鳴り止んだのだ。
扉を開くと榧野の呆れ顔があった。
——どこかで見覚えがあるような光景……でも、遅刻なんてしたことない、よな……もしかして、デジャヴってやつ……?
昼休みになり、いつものように元気な真昼がやって来た。
「なんか、いつも以上にぼーっとしてるね、志音」
「ん、そうかな? そんなことないと思うけど?」
「だって、今日は授業中だってまともに受けてなかったじゃん」
「いや、ちゃんと受けてたつもりだよ?」
「つもり、でしょう? 私の目は誤魔化せないよ」
真昼は誇らしげに言う。
「でも、そういう真昼は授業を受けていたのかな?」
「人間観察してたから、ほとんど聞いてない」
「何してたんだよ、もう……人間観察より授業受けようよ……」
「そういえば、今日、様子がおかしかったのは志音だけじゃあなかったよ」
「え、誰?」
「それは——」
チャイムの音が真昼の声をかき消した。
「じゃあ、また後で」
——さっき、なんて言ったんだろう……?
放課後の帰り道にて、志音は真昼に昼休みのことを訊いた。
「ねえ、さっき、誰のことを言ってたの?」
「ん……ごめん、覚えてないなぁ。きっと、どうでもいいことだったんだよ」
「ふうん、どうでもいいなら、いいんだけど」
結局、今日は不思議な感覚になったこと以外は平凡な一日だった。そして、志音はジグソーパズルのピースを埋めていった。後50ピースほど残っているのにもかかわらず、どこかで見覚えのある絵が出来上がっていた。
——未完成なのに、どこかで見たような、今日は随分と不思議な日……今日はもう寝よう。
志音はジグソーパズルを中断して眠りにつく。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます