第三幕 バカが揃うとろくなことがない
十、同類
まさかさっそく張り込むとは思わなかった。
食堂の横に座り込んで待つこと数時間。俺はとっくに飽きてあくびばかりしていた。
「リル~、まだ待つのか~?」
「夕方って言ってたからたぶんもうちょっとしたら来ると思うんだよね」
そりゃそうかもしれないけど。
一体どうしてリルはあんなにもわくわくしていられるのか。来るかもわからない人を数時間待つなんて非常識にもほどがある。別に予定もないからいいが。
午前中の冒険で疲れていた俺は、次第にこっくりこっくりと舟を漕ぎ始めた。日差しがあったかい。
「ソラ! 来たよ!」
「ふぇ?」
思わず変な声が出る。意識が飛んでいたようだ。気付けばもう日は沈んでいて、さっきのような暖かさはなかった。
眠い目をこすりながらリルの指さした方を見る。低い背、後ろで結んだ長めの茶髪、聞いた情報とぴったり一致する。ふうん、確かに見た目は俺たちと同じくらいに見える。
「おーい! そこの人ー!」
リルが走り出した。っていきなりその馴れ馴れしさでいくのか!? 仕方なく俺もあとを追う。
「……はい? あんたたち誰?」
「リルとソラ、冒険者だよ!」
「んじゃなくておれに何の用?」
「うーんとね、僕らと同じくらいの冒険者がいるって聞いて、仲良くなりたいなーって思って」
「へぇ、おれは仲良くなるつもりはないかな」
完全に冷めた目でこちらを見ている。目つきが悪いって情報も確かだな。
もう行っていいかと言わんばかりの態度だが、そこで引き下がるようなリルではない。というかむしろ一緒に食堂に入る。
あーあ、リルに絡まれるとすごく面倒なんだよなあ。ご愁傷さま。
帰って食べる予定の俺たちは何も頼まなかったが、少年は夕食をここでとるつもりのようだった。
「ねぇねぇ、名前は?」
「イリア」
少年はぼそっと、いかにも面倒だって顔をしながら答える。
「イリアかぁ。年齢は?」
「十四」
「おお、僕らより年下なんだね」
「だったら年齢制限に引っ掛かってるじゃん。十六歳未満のダンジョンへの立ち入りは禁止されてるだろ」
罰則とかはないし、入れないわけではないけど入っちゃいけないのは誰だって知っていることだ。
「じゃあ十六」
「じゃあってなんだよ。ってか学校はどこなんだ? 俺たちと同じじゃないだろ?」
「行ってない」
「行ってない!? なんで!?」
「あーもううるさいなあ。十四とか十六にもなって学校行ってるのはこの街ぐらいなんだよ。おれのところだと十二でおしまいだった」
……おれのところ?
「もしかしてこの街の出身じゃないのか?」
「もしかしなくてもそうだけど」
「へぇ、それならなんでこの街に来たんだ?」
「魔法の街だから」
「ああそういうことか。イリアは魔法を扱えるんだな」
この街以外での魔法使用者率はさらに低いらしいがそれでも零ではない。そして魔法使用者にとってこの街はさまざまな知識や物品が手に入る魅力的な場所だ。
「まあね」
「それで、ダンジョンに潜ってるって聞いてるけどそれはなんでだ?」
「実戦練習と、生活費稼ぐのの両方」
意外としっかりした少年なんだなあ。思わず感心してしまう。リルみたいに考えもなしに動いたりはしないようだ。
「じゃあさ、一緒にやろうよ! そうすれば楽しいし楽になるんじゃない?」
能天気なリルが提案する。確かに冒険者同士組むことは珍しくない。現に今俺とリルがやっているように、複数人で冒険を行うのが基本だ。単独でダンジョンに潜る冒険者は滅多にいない。しかしだからといって初心者の俺たちがそんな提案をしてもまず受け入れられないだろう。
「いや、いい。組めばおれの取り分が減る」
思った通り、イリアはすげなく断った。
「でも一緒にやればもっと安全に魔物と戦えるじゃん」
リルはなおも諦めない。初対面でこれはさすがにちょっとしつこいな。イリアも先ほどからずっと仏頂面をしている。
「リル、そろそろ行くぞ。もう時間も時間だ。帰らないと心配されるだろ。イリア、邪魔して悪かったな」
半ば強引にリルを引き剥がし店の外へ出る。
「なんでこんな話の途中で帰るわけ!? まだ終わってないじゃん!」
急に話を止められてすごく不満そうなリルが文句を言い出した。本当にリルは能天気だ。
「お互い何も知らないのに組めるわけないだろ。イリアの実力がどれくらいかは知らないけど、初心者の俺たちは確実に足を引っ張ることになる。ダンジョンでお荷物になるってことがどれだけ致命的か考えてみろよ」
均衡の取れていない集団は容易に崩壊する。場所がダンジョンとなればそれはなおさらだ。
「僕の勘がイリアと組むべきだって言ってるんだよ!」
「なんだよそれ」
いくらリルの勘でもそれはないだろう。俺は思わず笑ってしまった。
「じゃあそうなのかもな。さあて明日もダンジョンに行くんだろ? しっかり休んでおかないと後々つらくなってくるぞ」
「あー、ソラのその言い方絶対信じてないでしょ!」
「はいはいそうだな」
「認めた!?」
宵闇に沈む街中を俺たちふたりは、(主にひとりだけが)騒がしく歩いた。
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