その女、最強につき

ギルバ

第壱話 『その女、最強につき』 其の壱

 東京都内、某所。

 冬の寒さも鳴りを潜め、心地の良い暖かく穏やかな風と陽の光が、新たな季節の到来を告げ始めた頃。

 年季の入った広い和風の屋敷の隣に建てられた、畳が敷き詰められた道場の中は、尋常ならざる緊迫感と重苦しい静寂で満ちていた。

 白の道着の男女が三十人程、全員が今にも息が詰まりそうな真剣な面持ちで、部屋の中央を囲むようにして周りに立ち並んでいる。

 その幾多もの緊張の眼差しは、張り詰めた表情で戦いの構えを取る二人の男と。


 縄で両手を後ろに固く縛られた状態で床に膝をついて頭を下げる、紺の道着を着た一人の黒い短髪の女に、一斉に向けられていた。


 彼女はゆっくりと腰を上げながら、重々しく前を向く。

 たったそれだけの動作に、全ての人間が固唾を呑んだ。女に向かって構える二人の男も一層緊張を高め、覚悟を決めるように握り拳に力を込めた。跪く女の方が明らかに不利な格好であるにも関わらず、である。

 そのまま、針が床に落ちる音さえも爆音に感じられてしまいそうな、深い沈黙が流れる。弦が張り詰めていくように、部屋全体の空気が硬く、重くなっていく。

 やがて、今にも張り裂けてしまいそうな程に緊張が満ち足りた時。


「始め」


 女が、二人へ静かに号令をかけた。

「せやぁー!」

 直後、男の一人が、自身を奮い立たせるような必死な声を上げながら、両腕の自由を奪われた女に対して殴りかかる。

 体重と速度の乗った右の拳が、容赦無く真っ直ぐに、女の顔面を襲う。

 だが、彼女は瞬時に右脚を軸にし、当たる寸前で左に身を翻してそれを紙一重でかわす。更にそのまま、回転の力を余す事無く乗せた槍のように鋭い渾身の左後ろ蹴りを、鳩尾みぞおちに文字通り突き刺した。

 回避から転じて攻撃へ。攻防を体現した鮮やかな流れる動作。

 旋風のように素早く正確な反撃をまともに喰らい、男はそれだけで崩れ落ちるように膝をつき、完全にダウンした。

(バッカおっさん、焦って一人で行くから……ビビんのもわかるけどよぉ……あーもう、しゃあねえ!)

 その左側にいたもう一方の男も、味方の瞬殺に一瞬臆するも、意を決して動く。

「らあっ!」

 狙いは右脚。左脚を上げたままの体勢となっている女の軸脚を、左の下段蹴りで払いにいく。

 しかし女は読んでいた。蹴りに対し左脚を叩きつける事で、攻撃を潰す。

 逆に脛を打たれてしまった男はダメージを負いつつも、なんとか踏み止まって体勢を立て直す。

 大技はこの人には通じない——そう判断した彼は、攻撃の手を蹴りに比べて隙の生じにくい拳に絞る。

 腰の入った左の正拳を顔目がけて突く。上半身の傾きだけで躱されるも、すかさず右、左と隙を与えずに繰り出す。

 それらも全て微小の動作で避けられ、ならばと今度はフック気味の打撃を右から見舞う。だが、女はそれに自らの頭部を叩きつけ、逆に打ち負かした。

「ぐっ……!」

 男は拳を痛め苦悶に顔を歪めたが、もう一度その手を握り直し、怯まず果敢に攻め立てる。

 女はそれさえも冷静に、僅かに上体を反らす事で易々と避けた。しかし——

(もらった!)

 回避直後の、体勢を戻した一瞬に見えた隙。男はそこへ、左の拳を突き入れる。タイミングも狙いも完璧。当たれば必殺の一撃だ。

 当たれば、の話だったが。

「っ!? がっっ……!」

 女は体を横に傾けてパンチを躱し、そのまま上から押さえつけるように顎を手首に落とし、手前にねじ込むように思い切り捻る。鍛えにくくダメージの通りやすい関節部への、予想もし得ない手段での的確な攻撃は、男の表情を驚愕と痛みの色に染めた。

 そこに生じた好機を、彼女は逃さない。

 足腰に力を込めて体勢を低くしながら、女は全身を右に大きく半転させ、胸部へ強烈な後ろ蹴りを放つ。鈍器で殴られたかのような鈍い衝撃に、男は堪らず苦痛に沈む。

 そのまま畳み掛けるように、女は逆向きに翻りながら飛び上がり、垂れ下がった無防備な顔面へ鞭のようにしなる左の後ろ回し蹴りを浴びせた。頬に直撃し、高めの身の丈がニ、三度きりもみ状に回りながら宙を舞い、派手に床に倒れ伏す。

「くっ……! 」

「んぅっ……っ、がっ……」

 十分に鍛えられていたおかげか、明確に意識はあるものの、肉体的なダメージが大きく、すぐに立ち上がる事ができない。もう一方の男も、一度は立ち上がろうとしたものの、再び膝をついて蹲ってしまう。

 もはや両者ともに、戦いを続ける事は不可能となった。


 女は立ち上がる事も、たったの一撃をもらう事さえも無く、両手の使用を制限されたままに、屈強な男二人を一方的に叩きのめしたのだった。


「これまで」

 異様と言う他ない出来事に周囲がざわめく中、女は低く終わりを告げる。

 その直後、観衆の中の一人が、すぐさま彼女の元へ駆け寄って行く。

 穢れの無い純白の道着が似合う淑やかな雰囲気を纏った少女、一文字葵いちもんじあおいである。

 両手を縛る縄を、慣れた手つきでスルスルと解いていく。十秒も経たない内に、女の両腕は束縛から解き放たれ自由の身となった。

「ありがとう、葵」

「い、いえっ……」

 葵は礼を言われた事に酷く畏まった様子で、小さく会釈してそそくさと元の立ち位置へと収まる。

 その頬は、何故かほんのりと赤く染まっていた。

「……さて」

 葵が戻ったのを見て、女は目を伏せながらゆっくりと立ち上がる。

 首筋にしっとりと汗を浮かべつつも、呼吸はほとんど乱れていない。先の戦いの疲労を微塵も感じさせない、土に深く根を下ろした大木のように落ち着いた佇まいが、そのまま彼女の強靭さを如実に物語っていた。

 首を横に倒してコキリと鳴らし、溜息を吐くように切り出す。

「今私が抱いている感情を言葉にするならば、それは『失望』だ。鍛錬の具合を見ていてどうにも弛みを感じたので腕を試してみたが……相手が私とは言え、二人がかりで、それも両手を使わないハンデを与えられながら、たったの一撃も加えられないとはな。だらしがないにも程がある」

 床に倒れている二人に視線を落とし、落胆を露わにする。それを受けた二人は気まずそうに目を伏せる。周囲の人間も、それに釣られるようにバツが悪そうな顔をした。

 彼女は深々と腕を組み、なおも続ける。

「どうやら私が視察と遠征に出ている間、相当に怠けていたようだな。柳江りゅうこうさんが付いていながら情けない……仮にもこの東京本部に身を置く者として恥ずかしくないのか、お前達は……」

 ここにはいない人物の名前を上げ、彼女はどんどん声のトーンを落としていく。

 疑う余地も無く明らかに苛立ちを募らせるその様子に、一同はダラダラと冷や汗を浮かべ、身を小さく震わせた。

(うわ〜やっべ〜、姉御おっかねえ〜。超怒ってんじゃんよ……)

(ひぃぃ…………)

 先の腕試しにて最後まで健闘を見せた少年——暁隼弥あかつきじゅんやも、もはや頬を引きつらせるしかなかった。葵においては、目尻に涙まで浮かべる始末である。

 暫しの間目を閉じ、何かを思案するように眉間に深い皺を寄せた後。

 女はカッと目を開き、怒号のような声を張り上げた。


「全員並べぇ!」


 覇気を纏った号令に「押忍!」と一同が反射的に答え、彼女の前にあっという間に整列する。当然、隼弥も痛みを気にしている余裕も無く、即座に皆に続いた。まるで軍隊そのものの規律の正しさと機敏さである。

 もっとも、今の彼らを突き動かしているものは、少なからずの“恐怖”であったが。

 全員の聞く準備が整ったのを確認すると、彼女は変わらず真剣な面持ちで問いかけた。

「お前達は、なんのために鷲峰流の門を叩いたのだ? 己の大切なモノを護るための、絶対的な力を手にするためではなかったのか? 最初に言ったはずだ、この鷲峰の門下生となった以上、お前達には貪欲に強さを追い求めてもらう、と。時には息抜きも必要だが、これはあまりにも緩すぎる……」

 失望をはっきりと声に滲ませ、視線を落とす。彼女にとって、先のテストの結果はよほど不満の残るものだったようだ。

 しかしもう一度、眼前に並ぶ者達の顔をよく見ながら、彼女は語りかけるように説く。

「己がここに来た理由をよく思い出せ。これまでの過酷な鍛錬の日々は何のためにあったのか、その意味を考えろ。何故自分が今ここに立っているのか、己自身に問いかけろ。そうすれば、今自分が何を成すべきかがわかるはずだ。日々の努力を怠る人間に、自らを誇る資格など無い。過去の自分を裏切るような真似をする者に、真の強さなど得られるはずがないと知れ」

 低いハスキーボイスで紡がれる、厳格ながらも確かな重みと説得力が感じられる、強かな言葉。

 その一言一言を誰もが真摯に受け止め、省み、気持ちを新たにする。隼弥も表情を険しくし、葵も目尻に溜まっていた物を拭い去った。

 女は続けて、自らの想いを語った。


「お前達は、まだまだ強くなれるはずだ。私はそう信じている。真剣に打ち込めば打ち込む程、それ相応に過酷な試練も数多く待ち受けるはずだ。今回のように怠けたくなったり、挫けそうになったりする事も、決して少なくないだろう。それは、ここまでの日々を乗り越えてきたお前達なら言わずもがなであろう。だが、お前達が本気で強くなりたいと望むのなら、己の大切なモノを護るための力を欲するというのなら、その苦しみに屈する事なく闘い続けろ。あらゆる負の感情に打ち負かされそうになった時こそ、自らを奮い立たせ、前に進む事ができるようになれ。私もこの身を賭して、その手伝いをさせてもらう覚悟だ。だからお前達には、ここで今一度気を引き締め直してほしい。お前達自身の更なる成長と、護るべきモノのためにも。話は以上だ」


「押忍!!」

 期待の込もった熱い願いに心を打たれ、全員が気合の入った返事で答える。

 先程までの後ろめたい感情を引きずる者はもはや一人もおらず、皆が己の怠慢を恥じ、灼熱の闘志で目を燃え滾らせていた。

 弟子達の顔つきが変わった——いや、“本来の姿”を取り戻したのを確信し、女は再び屈強な戦士達への指導を始める。

「よし、では稽古を再開する。改めて基本からだ。自分を一から鍛え直すつもりで臨め、行くぞ!」

「押忍!」


 喝を入れられ、より強固となったそれぞれの意志は、同じ一つの目的のために再び一体となった。

 誰一人気を緩める事無く、女の言葉通り、腑抜けていた自分を一から叩き直す覚悟で、全神経を張り巡らせて鍛錬に励んだ。

 全ては、更なる強さを手にするために。

 全ては、己が護るべきモノのために。

 その純粋なまでの力への渇望に塗れた魂の全てを、たった一人の女が束ね上げ、高みへと導いて行ったのであった。


 ——彼女の名は、鷲峰恋火わしみねれんか


 鷲峰流実戦総合格闘術の頂点にして、十代目の師範の座に立つ者である。


* * *


 鷲峰流実戦総合格闘術。

 それは、日本において古くから存在する武術の一つ。

 元来は『鷲峰流実戦空手』という名称であった事からも分かる通り、空手を最も大きなベースとし、柔術、合気道、テコンドー、古式ムエタイ、多数の中国武術、ボクシング等の他のあらゆる格闘技の要素を取り入れていった上で、最終的には完全に独立した実戦的な武術であり、人体の急所を徹底して狙うなど、『最小限の手数で最大のダメージを敵に与える』事を旨としている。

 流祖にして初代師範、鷲峰龍次郎わしみねりゅうじろうが開発し、その後鷲峰一族が代々師範、つまりは当主の座を受け継ぎながら、長い年月をかけて発展、普及、進化を続け、ついには日本における最強の武術とまで謳われるようになった。海外の格闘技界においても、その名は確実に知れ渡っていると言える程である。

 極めれば、あらゆる状況に応じて効率的な攻撃を行えるようになる。その一方で、打撃技だけでなく投げ技や関節技等幅広い技能を身につけねばならず、体得は非常に難しいとされ、日本各地に支部を持つものの、他の格闘技に比べると門下生は多くない。入門の条件として高レベルな体力テストが設けられている事や、最初の三ヶ月間で見込み無しと判断された場合には退会を勧められてしまうといった要因も、それを助長している。

 だがそれでもなお、貪欲に強さを追い求める鋼の魂を持つ真の猛者達が、日々厳しく激しい鍛錬に励み、己の肉体という名の武器を黙々と研磨し続けているのである。

 また、ここ十数年前から、警察だけでなく軍への訓練指導の実施も始めており、更なる普及と権力の増大を続けている。


 鷲峰恋火は——その鷲峰流における最年少、更には史上初となる女性師範なのである。


 就任前は『いくらなんでも若すぎる』、『女が師範など』と恋火が師範の座に就く事を疑問視し、また当時、とある事件のショックによる反動で彼女が問題を起こしていた事もあり、反感や不満を抱く者も少なくなかった。

 しかし、更生した彼女の血の滲むような努力と、鷲峰家との交流も深く、東京本部にて師範代を務めていた真島柳江まじまりゅうこうからの強い推薦——そして当時の師範代十三人全てを連続して組手で倒すという、前代未聞の荒業を成し遂げ実力を証明した事で、誰もが納得せざるを得ない形で、恋火は十五歳という格闘技界全体で見ても異例中の異例の若さで、現在の立場を勝ち取ってみせたのだった。

 この事実はすぐさま全国の鷲峰流の人間に知れ渡り、彼女は『歴代最強の実力と最高の才を持つ者』と一転して評価を改められ、鷲峰流の頂点に立つ人間として相応しい存在であると正式に認められる事となった。

 だが、恋火はそんな周囲の賛辞にも一切甘んじる事無く、自ら最強である事を知らしめた天賦の才に慢心する事もせず、師範となってから今日までの二年半の日々を、誰よりも弛まぬ努力を積み重ねて過ごしてきた。

 そんな、全てにおいて妥協を許さない彼女の愚直なまでのストイックで真面目な性格と、クールだが根は熱い人柄は、苦難に満ちた過去を乗り越えてきた経緯も相まって、彼女自身の言動にカリスマとも呼べる重みと凄みのある説得力を持たせており、全国の門下生達の尊敬と憧憬の対象となっているのである。

 ここ東京本部にも、恋火の圧倒的な強さと高潔な精神に惹かれた者が、年齢を問わず集っている。鷲峰流の支部の中でも最も厳しいとされている場所であるにも関わらず、自主的に退会する者の数が全国の中でも最少であり続けているのは、彼女の存在そのものをモチベーションの一つとする者が多いからに他ならない。

 そして今日も、恋火による隙の無い指導に心身を委ね、闘争本能を漲らせた戦士達が、常人には耐え難い峻烈な鍛錬を一心に積んでいったのであった。

「止め!」

 恋火が全体へ号令をかけた頃には、既に時刻は夕方に突入しようというところであった。極めて濃密な時間を過ごしていたためか、師の恋火も含め、全員が大量の汗を流していた。

「今日はこれまでにしよう。明日は新年度の始まりの日だ、皆早めに帰って備えるといい。各自、柔軟を終えたら好きに上がってくれ。水分補給も忘れるなよ」

 本日が年度末の最終日とあって、さすがの恋火にも思うところがあり、弟子達にいつもより少し早めに上がるように促した。彼女の気遣いに、一同は快活な返事で答えた。

「ただし……明日からまた鍛え直してやるから、そのつもりでな」

「お、押忍……!」

 しかし、やはり恋火は甘くなかった。釘を刺すような宣言に、今度は若干小さくなった声が帰ってきた。

 予想通りであったか、その反応にクスリと微笑み、恋火は丁寧な挨拶をもって、本日の鍛錬の締めとした。

「ふっ、よろしく頼むぞ。以上! ありがとうございました!」

「押忍! ありがとうございました!」

 いつもと変わらぬ儀礼を終え、汗を拭き取った後で、各々が身体をほぐし始める。

 どんなスポーツや格闘技においても共通する話だが、肉体へのダメージの軽減や怪我の防止のためにも、練習前と後のストレッチは非常に大切な運動である。鷲峰流においても当然それは変わりなく、恋火も『良い柔軟は良い成果を生む』と、弟子達に柔軟の重要性を何度も繰り返し説いている。そのおかげで、鷲峰流の人間は皆柔らかくしなやかな肉体を身につけているのだ。

 当の恋火も、弟子達と同様に柔軟を始めた。師であろうと何であろうと、手を抜いていい物など一つもない。本メニューとなんら変わりない集中力で、疲労の溜まった全身を解きほぐしていく。

 ふと、開脚をしていたところで、恋火は思い出したように提案を持ちかけた。

「そうだ、夕飯を食べていきたい者はいるか? 少し時間が早いが、いつもと同じで構わないのなら炒飯を作ってやるぞ」

 それは食事の誘いであった。恋火は料理も得意であり、鍛錬の後に度々こうして弟子達に手料理を振る舞っているのだ。

 もちろんその味は大評判であり、今回も多くの者が嬉々として手を挙げる中、隼弥が一際大きな反応を見せた。

「おおっ、よっしゃあ! 姉御の炒飯待ってましたぁ! さっさと柔軟終わらせてやんぜぇ!」

 腕の筋を伸ばしながら、まるで幼子のように喜ぶ隼弥に対し、恋火は極めて冷静に返した。

「そういう奴にはやらん」

「ええっ!? ま、マジっすか……」

「冗談だ、欲しければ手を抜かずにしっかりやれ」

「お、押忍!」

 言われて気を入れ直す隼弥。相変わらず子供染みたやつだ……と、恋火は身体を伸ばしながら微かに笑った。

 それから全員で集中して取り組み、五分程で柔軟は完了した。

「よし、では夕飯を希望する者は着替えたらいつもの場所で待っていてくれ。それ以外の者は帰って良し。お疲れ様」

 彼女の一声で、弟子達は一斉に更衣室へと動き始めた。そのほとんどは、鍛錬の疲れも程々に、恋火手製の料理を心待ちにして顔を綻ばせていた。


 だがその時——なんの前触れも無く、突然の来訪者が、勢いよく扉を開け放って一声をかました。


「た〜〜〜のもぉおお〜〜〜!!」

 威勢の良い、恋火とは対照的なハキハキとした高い女性の声が、道場に木霊する。当然、恋火も含め、そこにいた全員が扉の方に注目した。

 腰元まで伸びた、緩いウェーブのかかった華やかなブロンドの髪。色白で少し大人びた顔立ちに、宝石のように煌めくエメラルドの瞳。平均的な背格好だが、白いファー付きのコートの下に隠れていても誰もが一目で発育の良さを確認できる、抜群のスタイル。

 『和』を体現した道場には些か場違いですらある『洋』そのものの少女が、体格のいい四人の黒スーツのサングラスのボディガードを従え、尊大な態度でふんぞり返っていた。


 いかにも若者という感じの見てくれではあるが、それでも間違いなくどこかの身分の高いお嬢様であると思わせるだけの高貴な風格を、彼女は全身から溢れんばかりに放っていた。


 そんな予想できるはずもない来客を、恋火達は呆然として見つめる。静まり返った空気に、ブロンドの少女は小首を傾げた。

「あら、日本では道場に入る時にこう言うのではなかったかしら? それとも、ここでは他と違うのかしら……?」

 淀みのない流暢な日本語を巧みに操り、彼女は独り言のように呟く。良く見るときちんと靴を脱いで裸足になっている事からも、日本の事は多少なりとも理解しているらしいというのが窺えた。

 それに意識を引き戻された恋火は、その場から少女に声をかける。

「すまないが、見学なら明日にしてもらえるか? 今日はもう終わり……」

「No! ここに来たのはそんな目的ではございませんわ……おっと失礼。わたくしとした事が、自己紹介が遅れてしまいましたわね」

 ブロンド少女は自らを誇示するように、ピンと背筋を張って胸に手を当てるポーズを取り、高らかに名乗る。


わたくしは、ミランダ・ヘイディ・アンダーソン。アメリカ合衆国が誇る財閥である、アンダーソン家の娘にございますわ。気軽にミラと呼んでくださって結構よ、わたくしもその方が呼ばれ慣れておりますので。本日より、お父様の仕事の都合で、しばらくの間日本に滞在する事になりましたの」


 身分ばかりか、必要の無い情報まで愉快そうに明かす、ミラという少女。わかりやすく自分中心な性格だな、と全員が思った。

 しかし、その目的は全く不透明なまま。恋火は疑問に思い、問うた。

「それで、何か用か?」

 するとミラは、両腕を豊満な胸の下に組んで本題に入った。

「この中に、この道場と隣の屋敷の所有者はいらっしゃるかしら?」

「私だが」

 恋火が答えると、ミラは途轍もなく無茶苦茶な要求を、さも平然とふっかけたのだった。


「そう、なら話が早いわ。アナタ、この場所をわたくしに譲っていただけます?」


「……なに?」

 驚愕する一同。さすがの恋火も、これには眉をひそめた。

 わけがわからない、といった具合の面々に、ミラは小悪魔のような笑みを浮かべながら話す。

わたくしの家系は結構な親日家でございましてね、以前から立派な日本家屋に住んでみたいと、お父様も仰っておりましたの。この道場も隣の屋敷も庶民の物にしてはなかなかの広さだし、なにより良い和の雰囲気をしている事ですし、きっとお父様方もお気に召す事でしょう。フッフフ、パッと見で判断してしまいましたが、やはりわたくしの目に狂いはありませんでしたわね……決めましたわ、本日よりここを、我がアンダーソン家の日本での新たな住まいの一つと致しますわ〜、ウォ〜〜ッホッホッホ!」

 口元に手の甲を当て、絵に描いたような高笑いを響かせるミラ。

 常識を月の裏側まで蹴っ飛ばしたかのような身勝手で高慢な物言いに、一人残らず言葉を失った。

 いきなり来て何を馬鹿げた話をしているのか。呆れを通り越した無言の嘲笑が、一斉に彼女に浴びせられる。

 しかしそんなものなどお構いなし。ミラは変わらぬ高飛車な物腰で続ける。

「ああ、ご安心を。もちろんタダでとは言いませんわ」

 恋火達を正面に捉えたまま、左手を横に差し出すミラ。黒服の男の一人がそれに従い、用意良く胸ポケットから一枚の長方形の紙と高級そうなペンを取り出し、その手に乗せる。

 彼女は滑らかな手つきで紙に何かを書き込んだ後、その端を人差し指と中指で挟み、これ見よがしにヒラヒラとさせながら、またもとんでもない事をさらりと言ってのけたのだった。


「たった今、わたくしが持っているこの小切手に五十億円の価値を付けました」


「ご、五十億円!??」

 恋火以外の全員が、声を合わせて仰天する。

 言葉や文字にすればそれまで。だがその実は当然、大半の人間には想像すらし難い、途方も無い額の大金なのである。富豪や貴族でもない彼らが驚くのも当然だった。

 ミラはフフン、と周囲の反応に満足気に鼻を鳴らす。

「そう、五十億円よ。ドル札の方がお好みならそちらでもよろしくってよ? フフ……いずれにせよ、アナタ達のような庶民には十代に渡って汗水流して働いても稼ぐ事のできないであろう大金よ。まあ、わたくしにはそんなに大した額ではありませんけれど。これを、差し上げますわ……この場所と引き換えに、ね。どう? とても良い取り引きでしょう? アナタにとっても損ではない、むしろお釣りが来るくらいの話だと思うけれど?」

 対面に立つ恋火に、足元を見るような口調で問いかけるミラ。

 本筋は変わらず、どこまでも常識から乖離し、どうしようもなく馬鹿げている。しかし“五十億”という飛び抜けた数字が、この冗談のような交渉に真実味を持たせ、ミラが本気でこの場所を買い取ろうとしているのだという事を、確実に周囲に伝わらせた。

 ざわめき始める弟子達。隼弥においては、自分の事ではないのにも関わらず、“五十億あったら何をしよう”などという無意味な妄想を脳内に展開し始める有様であった。

 だが、恋火は取り乱す事もなく、敵意を宿した鋭利な目で真っ直ぐミラを捉えるのみだった。

 そしてミラの言い分が終わったところで、恋火は弟子達のざわつきを切り裂くように口を開く。

「それで?」

「? それで、とは?」

「話は終わりか、と聞いている」

「ええ、そうですが……」

 きょとん顏のミラに、恋火は睨みを利かせながら冷徹に告げる。

「ならば今すぐ失せろ。そして二度と私の前に姿を見せるな」

「……なんですって?」

 明確に拒否の意を示されたミラは、いかにも不愉快そうに片眉を釣り上げた。

 ただの逆ギレなのは誰の目からも明らかであるが、それでも彼女にとって、自分のワガママがまかり通らない事は、不機嫌になるのには十分な理由であった。

 ましてや、こんなにもはっきりと生意気な態度を取られるなど。

「……アナタ、このわたくしがここまで譲歩してあげているというのに、なんという口の聞き方なの? いいこと? わたくしは、アメリカ合衆国が誇るアンダーソン家の——」

「貴様が何者であろうとどれだけ金を積まれようと知った事ではない。ここは私の、私達の場所だ。何があろうとも、誰にも譲りなどしない。これ以上戯言を抜かすつもりなら、力づくでも出て行ってもらう。怪我をする前に早々に立ち去るがいい」

 話をぶった切り、恋火は再び強い口調で退去を命じた。

 一度ならず二度までも——ミラはこめかみの辺りに筋を立て、歪んだ怒りに震えた。

「ふ、ふ〜〜ん……なかなかいい度胸をしているじゃない、アナタ。アメリカのハイスクールにも、このわたくしにそんな偉そうな態度で楯突く愚か者はおりませんでしたわ……! わかりました、そっちがその気なら、もう取引なんてどうでもいいですわ!」

 交渉決裂。怒声を上げながら、ミラは“五十億円引換券”をあっさりと真っ二つに破り捨てた。

 弟子の何人かがこっそり残念そうな声を上げたが、咎める者はいなかった。

「フッフフ。そんな格好をしているのだから、覚悟はできているわよね? わたくしの思い通りにならない下賤な者には、然るべき罰を下してやりますわ! さあ行きなさい、お前達! 我がアンダーソン家の威光を示すために!」

 部屋の奥に立つ恋火に鋭く人差し指を突き立て、ミラは高らかに部下に命令を下す。

 なんとも子供じみた短絡的な理由で命じられた自己中極まりない仕事に戸惑いを覚え、彼らは互いに辟易した様子で顔を見合わせる。しかし、雇われの身である以上主人に逆らう事はできないと、半ば諦めたように従う事に決め、彼らは前へと歩み出た。

 と、そこで外野と化していた隼弥が、飄々とした口調と共に割って入る。

「おいおい、待てよお嬢様よ〜。さっきからうちの師匠に好き勝手言ってるけどよぉ、まずは弟子の俺達を倒してからにしてもらおうか?」

 彼の言葉で、他の者達も続々と二人の間に並び、構えを取り始める。皆が恋火を慕うが故の行動であった。

 だが、彼女はすぐにそれを止めさせた。

「よせ。お前達が手を煩わせる必要など無い」

「えー? でもこんなやつら、俺達だけで十分っすよー」

 こんなやつら——隼弥の口から軽率に吐かれた侮辱の言葉を受け、ボディガード達は密かにプライドの火を灯らせた。

 そんな彼らの心境の変化を余所に、恋火は隼弥を制す。

「分かっている。だがここは任せてほしい。私がこの手でお灸を据えてやりたいのだ。人の家に土足で踏み込んで来るなり訳の分からん事をほざく、あの礼儀知らずのご令嬢にな」

「……押っ忍」

 話は決まった。頭の後ろに手を組み、拗ねたように唇を尖らせる隼弥に続いて、全員が大人しく引き下がって壁に寄っていく。

 一方、またもさり気なく馬鹿にされたミラは、一段と眉をピクピクとさせて怒りに震えていた。更には、最初は義務感しか抱いていなかったボディガード達も、純粋に見返してやりたいという意志のもとに闘気を湧き上がらせ、戦闘態勢に入るのだった。

 対する恋火は、特別気を張る事もなく、余裕に満ちた態度で言った。

「夕飯前の余興だ。よく見ておくがいい、戦いを見る事もまた大切な鍛錬だ」

 コキっと首を鳴らし、両腕を下げて全身の力を抜いて楽にし、右足を少し後ろに引いた、ほぼ直立に近い姿勢を取る。

 気張らず力まず、しかしいつでもどんな動きにも即座に入る事ができる、自然体で万能な状態。

 恋火が主に相手の力量を測る時や、“格下”を相手取る時によく見せる体勢だ。

 それはどう見ても、明らかに相手を同格と見なしていない事の証明。ミラも黒服の男達も、自分達が見下されている事を即座に理解した。

 プライドの高いミラには、それは何よりも許し難い侮辱であり、堪忍袋の緒が切れた彼女は、ついに実力行使に出るのであった。

「きぃ〜〜、庶民の分際でどこまでもナメたマネを……! もう許してあげませんわ、やっておしまい!」

「おおおおっっ!!」

 お決まりの台詞を受け、男四人は勇ましく声を上げながら走り出す。対する恋火もまた力強く駆け出し、真正面から堂々と迎え撃つ。

 四つの黒と一つの紺が急速に接近し、物凄い力でぶつかり合う——その直前、恋火は跳んだ。


「うっ!」

「がっ!」

「ぐはっ!」

「おあっ!」


 彼女が再び両脚で地を踏みしめた時には、男達は全員床に散り散りに倒れ伏していた。

 左の強烈な蹴りから始まり、二連続の右後ろ回し蹴り、そして再び左の蹴り。

 空中にいる一呼吸の間に、恋火は彼女の代名詞ともなっている神速の脚技を、それぞれの顔面に一撃ずつ見舞い、四人の敵をたちまち返り討ちにしたのだ。


 まさに——神業。


「うぉおっ、相変わらずすっげぇ…………」

「あの華麗な脚捌き、いつ見ても惚れ惚れするねぇ……」

「さすが、鷲峰さんです……」

 各々が紛れもなく超一流の格闘家と呼べるだけの力を持ち、これまで何度もその動きを目にしてきているはずの門下生達でさえ、当然のように恋火の絶技に見惚れ、無意識の内に拍手を送っていた。

 速度と破壊力は言わずもがな、その攻撃の全てを狙い澄ましたように急所へと叩き込む精密性。相手の動きを先読みして瞬時に対応する事のできる、関係者からは『鷲の目』と称される、人並外れた観察眼とそれを活かす反射神経。いずれもが、もはや常軌を逸しているレベルであると言って差し支えない。

 伊達に数多の人間の上に立つ者ではない。日本最強の武術の頂点と呼ぶに相応しい実力を備えているからこそ、恋火は師として認められ続けているのだ。

「Bravo(お見事)……なかなかやるではありませんの」

 部下が瞬殺されたのにも関わらず、ミラは意外にも冷静になって受け止め、逆に恋火を称賛する。誰に物を言ってんだアイツ……と、理由の分からない余裕を見せるミラに、隼弥は内心でツッコミを入れた。

「さすがに道場のあるじというだけの事はありますわね。それにしても、揃いも揃ってたったの一撃でやられてしまうなんて、なんて不甲斐ない男達。なんのために高い給料を払っていると思っているのかしら。はあ……仕方ありませんわね」

 部下の失態に失望する様子を見せると、ミラは羽織っていたコートと上着をおもむろに脱ぎ捨て、入口の方に放り投げた。

 セクシーなボディをより強調させる、カジュアルでスポーティな軽装へと変わったところで、彼女はパシン! と右の拳を逆の掌に合わせ、ニヤリと不敵に笑いながら宣戦布告する。


「このわたくしが、アナタを直々にブチのめして差し上げますわ」


 上品な口調には全く似つかわしくない物騒な台詞に、誰もが耳を疑った。

 まさか、彼女自らが戦うなんて。師匠相手にどう考えても無謀すぎる。一体なんの冗談だ。一同は再びどよめいた。

「……正気か? お嬢様は大人しく温室にでも引きこもっていた方が身のためだぞ」

 恋火も思わず面喰らい、悪ふざけとしか思えないようなミラの発言に、皮肉混じりの忠告を入れる。

 しかし、彼女は至って本気であった。

「ご心配なく。こう見えてもわたくし、かなり腕は立つ方なんですの。それも、このボディガード達よりもずっと強いんですのよ?」

「だったら初めから貴様が戦えばいいだろう」

 もっともな指摘に、ミラはやれやれと言うように首を振る。

「フッ、これだから庶民は。そんなのちっともお嬢様らしくありませんじゃないの。しもべを従え、その者達にキチンと役目を全うさせてあげる事こそ、人の上に立つ高貴な者の振る舞いでございましょう?」

「……くだらん」

 キメ顔で言ったミラを一蹴し、恋火は再び忠告する。

「悪い事は言わん、変な意地を張ってないで、今すぐこの男達を連れて出て行くがいい。私は、挑んでくるのなら例えお嬢様が相手でも容赦はしないぞ」

「フンッ。そのナメくさった態度、いったいいつまで持つかしらね……!」

 あくまで上から目線を崩さない恋火を唾棄するように鼻で笑い、ミラはついに自ら動き出す。

 畳を蹴り、瞬時に距離を詰め、勢いのままに拳を繰り出す。

「っ」

 動揺こそしなかったが、恋火は少なからぬ驚愕を覚えた。

 お嬢様という身分からは想像もし得ない程に、彼女のパンチは素早く、確かな鋭さを持っていた。

 結果として掠りもしなかったが、それは牽制には十分な役目を果たした。

「フッ! ハッ! タァ!」

 前進しながら右に左と素早く連打される拳。フックやボディといった変化を伴い、激しいラッシュで襲いかかる。

 それでも冷静に躱し、防ぎ、捌いていく恋火であったが、初撃でもたらされた衝撃が響いたのか、ほんの僅かに後手に回っていた。予想外に苛烈な乱打を全ていなしつつも、なかなか反撃に移る事ができない。

「ヤッ!」

 恋火が右のフックの一発を受け流した瞬間、ミラはその勢いを逆に利用し、腰を入れて体を反転させながら後方への左のエルボーを放つ。顎目掛けて打ち込まれてきたそれを、恋火は左腕で防いだ。

「ハァ!」

「!」

 だがまだ終わらない。敵の真正面で背を向けた体勢から、バネのように一度クンッと深く身を屈め、そこから床に手を付いて後ろへ跳びながら、両脚を振り下ろすようにして体重を乗せた蹴りを浴びせた。まるでダンサーのように軽やかな身のこなしだ。

 それも順当に腕で防御した恋火。しかしこれによって、このままでは攻め込まれる一方であると判断せざるを得なくなった。軸足を使った流れるような動きで、彼女はミラから距離を取る。

「ほう……口先だけではないようだな」

 感心したように、恋火は素直な賛辞を送る。ミラは得意げな顔で、黄金に輝くロングヘアーを大袈裟な動作でかき上げた。

「フッフフ、当然よ。わたくしは、誇り高きアンダーソン家の娘ですもの。さあ、勝負はまだまだこれからですわよ」

 仕切り直しの台詞と共に、ミラはどことなく楽しそうに口角を上げながら、ファイティングポーズを取る。

 膝はほとんど曲げず、左足を軸足として前に出した狭いスタンスで、重心は高め。左腕は肘を深く曲げ、手刀のように指先を伸ばした手を右の頬辺りに構え、右腕も同様な形で左下へと真っ直ぐ伸ばした、独特のフォーム。

 これまで幾多もの格闘技を研究、実践してきた恋火でさえ、その構えには心当たりがなかった。いや、あるはずがなかった。

(まるで貴族が己の優雅さを誇示するために考えたような構えだな。こんな物が格闘技の構えの一つとして存在するとは思えん……我流か?)

 闘志剥き出しのミラを前に、恋火は構える事もせず冷静に分析を始めた。格闘家としての性故か、一度気になり出すと興味が止まらなくなり、初めて見る構えをじっくりと観察、考察してしまっていた。

 ついでにその間に、弟子達が伸びている黒服の男達を壁際までこっそり避難させていた。

「……ちょっとアナタ」

「ん?」

 半ば夢中になっていたところで声をかけられ、恋火は観察対象の顔に目を向ける。

 見るからに不服そうな膨れっ面が、真っ直ぐにこちらを睨んでいた。

「何をボケっとしてらっしゃいますの? アナタもさっさと構えなさい。まだ決着はついていないわよ」

 対等な条件を望むミラであったが、恋火は失笑とばかりに冷淡に切り捨てた。

おごるな。貴様のような余所者に見せる構えなど無い」

「っ」

 またも自分を下に見た言い方に、ミラは青筋を立て、プライドのマグマを噴火させた。

「いいでしょう……っ。ではそのまま無様に地にひれ伏すがいいですわ!」

「面白い」

「減らず口を!!」

 余裕綽々に佇む恋火に、ミラは己に無礼を働いた事の愚かさを思い知らせるため、畳の床を蹴り上げて襲いかかる。


 鷲峰流最強の女当主と傍若無人武闘派令嬢の戦いが——火蓋を切って落とされた。

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