第97話 俺、今、女子立ち話中
というわけで、地元駅前のロータリーから生田家へ出発しようとする俺たち三人であるが、……そういえば、何で今日女帝——生田緑が一緒に行くのかの理由を俺はまだ言ってなかったよね。
まあ、生田緑が一緒にどこに行くかって言えば、生田緑の家だけど……。
——って言い方すると当たり前のように思えてくるが、いま女帝は
ああ、——なんだか、体と心の錯綜もあって話がわかりにくいかもしれないので整理するよ。俺は生田緑と入れ替わった。俺は生田緑の中にいる。生田緑は俺が入れ替わった
で、今日、生田緑のじいさんに言わなきゃいけないのは、「俺=生田緑が心に決めた人がいる」「それは喜多見美亜=向ヶ丘勇である」「ゆえに渋沢家の御曹司と俺=生田緑はお付き合いするわけにはいかない」と言う話だ。つまり、三段論法みたいなこの今日の企みの中に生田緑=喜多見美亜はまるで出てくることはない。なので生田緑は自分の家に行く理由はない。
でも、行ってみたいんだそうだ。
なんで、行って見たいのかと聞くと、今日の企みを、俺と
まあ、そう聞くとおかしな話でなない。
思いびとを祖父に紹介しようと言う時に余計な女性が一人くっついてくると言うのはなんか変な感じもするが、まだ彼氏でなく、一人で家に来いと行っても警戒されるかもしれないので女友達も一緒に呼ぶと言う、設定でいくらしいので、まあこれなら、生田緑=喜多見美亜が一緒にくるものおかしくない。で、その理由で着いて来て、じいさんの追及や地雷をうまく避けるサポートしてくれるのだそうだ。
うん。こうやって、改めて考えてみると、生田緑=喜多見美亜は着いてきてもよいどころか、むしろ頭下げてでも一緒についてきてほしい人材と言える。一度そう思ってしまうと、ついてきてもらわないと困るというか、生田緑なしでこの作戦の成功など不可能に思えてしまう。
と言う意味では、生田緑が今回一緒にくるのは、何も不自然な話ではない、——と言える
でも……。
なんとなくだが、俺は、女帝——生田緑の様子が少しひっかかった。嘘はついていないが、完全な本当でもない。——みたいな感じ。何か、彼女は、彼女なり目的を持って一緒にくる。生田緑には、何か、確かめたいものがある。
「たしかに緑に着いてきてもらった方が心強いわよね。緑の家のこととかで、わからないことがあったらこっそりサポートしてもらえたほうが嬉しいし」
まあ、
女帝の隠された目的が何だったにしても、ついてきてもらって俺らに損なこともない。なら、ついてきてもらおうか。と、とりあえず詮索するのはやめにしとくことにしたのだった。
聞いても話してくれなさそうな気もするしね。やはり、なんとなくだけど。
「まあ、ともかく……行ってみましょうよ」
なので我々は、三人が集合した駅前から移動を始めるのだが、
「あっ!」
俺はあることに気づいて立ち止まる。
「何よ?」
「……?」
「まずいじゃんこれ!」
「何が?」
「……?」
「だって俺達一緒だよ」
「一緒って何よ?」
「……?」
「一緒に歩いて行こうってしてるじゃないかか!」
「そうだけど? 何か問題?」
「……?」
「何かって、……一緒に歩いてるんだぞ!」
「そりゃ歩かなきゃ緑ん家ちにつかないでしょ? タクシーにでも乗りたいの?」
「……?」
「そうじゃなくてさ! 見られるじゃないか! こんな駅前で……、俺達が歩いてるとこ」
「はい?」
「ああ、そういうことね」
俺、向ヶ丘勇は孤高のほこり高きボッチであり、なんだかんだと群れたがるは、友達アピールするは、意識高い振りして人のマウント取りたがるはのリア充どもとは一線をかくしていたのだった。俺が、自分の体にいた時は。
でも、そんな俺がクラスのリア充トップ二人と一緒にいるのだ。いつ同級生が通りかかるかわからない、こんな地元駅前で。こんなところを誰かに見られたら、俺の孤高に傷がつく!
いや、俺は常に、陰口叩かれても傷つかないように精神力を鍛えていたから良いとして、——こいつらはまずいだろう? リア充の中のリア充と思われている二人が俺なんかと、……いや俺みたいな崇高な人物と一緒に歩いてたりしたら評判に傷がつく、……でなくて評判が上がり過ぎでストップ高で取引停止で二人が誰とも話もできなくなる!
ーーかどうかはともかく、みんなに不審がられて余計な憶測呼んでしまうとめんどくさい。
と俺は思うのだった。
体入れ替わりなんてことを真面目に考える人は少ないと思うが、下北沢花奈とか、今俺が入れ替わっている生田緑とか、実際に気づく人もいたしな。
だから、普段からこの点は気をつけていた。
今日のあいつとの事前の打ち合わせもクラスの連中なんて誰も来ないような寂れた喫茶店だったし、普段会うのも山の上の神社やジョギングついでの早朝の多摩川とか、なるべく隠れて会うようにしていた。
でも、
「向ヶ丘くん。正直、もういまさらと思うわよ」
「へ?」
生田緑が少し呆れた口調で言った言葉に俺は虚をつかれる。
「今更、私達と向ヶ丘勇が一緒にいるところを見たぐらいでクラスの誰も驚かないわよ」
「?」
「この数ヶ月で、いままで、何回私たちからんでいたと思うの? 向ヶ丘勇は、いつのまにか生田緑グループと一緒に行動している謎のキャラ——そう思われちゃっている。一緒にいても、もうだれも不思議にならないと思うわ。特に美亜とは……」
「緑!」
なぜか、真っ赤になった喜多見美亜=俺の顔、
「……ああ、良いわ。今日はそんな話をしてる場合じゃなくて」
ともかく、俺らが一緒に歩いていても問題ないのなら、
「さっさといきましょう」
女帝の言葉に首肯する俺らであった。
そして……。
*
「君が、向ヶ丘くんかね? ようこそ。緑と仲良くしてくれてるみたいで……本当にありがとう」
緊張して入った生田家の玄関を開ければ、そこにはそわそわした表情ながら、なんだか嬉しそうな様子のじいさんが、まるでそこにずっと立って待っていたかのようなタイミングの良さで俺たちをで迎えるのであった。
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