第67話 俺、今、女子だらだら中
忙中閑あり。パーティ続きの経堂萌夏としての俺の生活にもなんと休みの日があった。体が萌さんと入れ替わって以来ずっと昼も夜もパーティ漬け。週末がずっと踊りっぱなしの日々を過ごした俺は、目が覚めた瞬間、また今日もどこかに出かけないといけない? と焦ってベットから飛び起きてしまうが、
「あっ、今日は何もないか……」
今日はもう平日であった。
大学生である萌さんや、その入れ 替わった先である
いや、社会人もそろそろ夏休み取っている人とかいるかもしれないが、お盆にかかるにはまだ一週を残した今週、大半の社会人は俺の親たちのように、まだ一生懸命に働いているのだろう。
だから、こんな日に昼からパーティとかもないので、今日の俺は寝不足で慌てて出かけるなんてことをする必要もない。
オフ。
確か、夜もあまり好みのパーティはないと言うことでどこにも出かける必要がないはずだ。
完全なオフ。
なんか拍子抜けと言うか、……萌さんに入れ替わって以来、毎日毎日どこかにでかけて騒ぎまくると言う生活が続いていたので、それが突然、今日はどこにも行かなくて良いと言われると、ホッとすると同時に、なんだか本当に何もしなくて良いのかと言うあせりみたいな感情に俺は襲われる。
本当に? 本当に今日はどこも行かなくて良いのか?
俺は自分い問いかけるが、
——そうだ。
立ち上がり、一度離れたベットに俺は腰掛ける。
寝転がり何気なくもう一度ベットに体を任せる。
一回転してシーツの少しざらっとした心地よい感覚をほっぺたで楽しむ。
「へへ……」
なんだか気持ち悪い笑い声を立ててしまう。
だって、こんな風にごろごろしてていいんだ。このままだらだらしてて良いんだ。
これだ。これが望んだ夏休みだ。アニメみたりラノベ読んだりすることさえめんどくさくなるような怠惰な気持ち。灼熱の外を冷房の聞いた部屋の中から眺めながらだらだらしたい。それが俺が望む、ささやかであるが必要にして十分の、理想の夏休みであった。
「ふふ……」
俺は、突然そんな夏休みが、今日目の前に現れたことに喜びさらにシーツにひたいを擦り付けながら愉悦の声をあげてしまうが、
「あれ、萌夏起きたの?」
そんなふうに、がざごそしているに気づいたのか、俺に呼びかけるよし子さんの声が聞こえる。
その出どころは——ダイニングキッチンの方かな?
俺は返事をすると、そのまま寝室を出て。続き部屋のそちらへに向かうが、
「ぶっ!」
俺は部屋をでたところで固まる。腰を引きながら立ち止まる。
というのも、
「どうしたの? もうすぐご飯炊き上がるよ。ああ……あと塩ジャケ焼こうと思うけど、ベーコンエッグとかの方が良い? それとも両方食べちゃう?」
と、キッチンに立っているよし子さんこと
顔を傾げてポニーテールにまとめられた髪がちょこんと揺れる。ちょうどご飯が炊き上がった、炊飯器のチャイムの音が聞こえた。ご飯と、味噌汁の良い匂いが漂うキッチン。その前にたつよし子さんは将来の良妻賢母と言った感じの雰囲気を漂わせていた。
いや、そんなよし子さんの様子はなんとも好ましく、なんの問題もないのだが……。
しかし、
「どうしたの?」
相変わらず立ち止まっている俺を不思議そうに眺めるよし子さん。
「いえ……」
彼女の顔、首筋、パジャマがわりに着た大きめのシャツの襟口から覗く鎖骨、ぱんと張った胸と、俺は視線を順番に下に落としていく。もちろんそこまででも十分に扇情的でダイナマイトなよし子さんであったが。
「ぶっ……!」
履いてないのであった。いやパンティーは履いているが、スカートもズボンも履かずに下半身はパンティー一枚の姿でキッチンで料理を作っているよし子さんなのであった。
冷房かけていても寝苦しい。そんな夜——と言うかもう昼も過ぎているが——であったあったから、料理で火のそばにいくし、どうせ女どうしだから、丸見えでもかまわないと思ったのかもしれないが……。
理想のお嫁さんみたいなオーラを出している上半身と下半身のギャップがすご過ぎて、俺はジリジリとしか動けないほどの衝撃を受けてしまっていたのだった。
どうしようか? このまま目をそらしながら食卓につくか?
それは不自然すぎるか? 今は女になっている俺なんだから堂々と見るか?
いや。だめだそれでは。俺は、そしたら、自分の目が明らかに不審者のものになってしまう自信がある。ギラギラした目がずっと
さすがに、何か変だと思っても、体入れ替わりみたいな超常現象に思い至ることはないだろうが、一度疑われ始めてしまったら、俺はどんどんとボロをだしてしまうことだろう。すると、そのボロでますます疑われ……。俺は、こんな風に泊まり込みでずっと一緒にいる相手に、猜疑心をもたれながらなんとも気まずい雰囲気で過ごさねばならなくなる。
それを避けるには、——静鏡止水。俺は、パンティーを丸出しの女子大生を前に俺は曇りのない鏡のように、止まった水のように静かで迷いのない心でいなければならないのだが……。
——できるか!
俺は、心の中で思春期男子の限界を大声で叫び、訴えた。そこに無防備に、エロスをさらけだしている魅力的な女性がいて、それに反応せずに平然としていることができる男子高校生などいるだろうか? いやない! と俺はさらに心の中で理性に向かって野生の雄叫びのような声で叫ぶのだった。
しかし……。
でも、はてさて、このまたなる難局をどう乗り切るか?
いっそのこと自分もパンティー丸出しになろうか? なんなら全裸になって例の倫理基準発動で意識を飛ばしてしまおうか?
でもいきなり脈略もなく脱ぎ出したらさらにおかしく思われてしまうか?
などなど、……愚案を弄ぶしかできない
「あれ?」
それは食卓の上で震えるスマホの着信によって救われたのであった。
電話のかけ主は
内容によってはよし子さんに聞かれてはまずいと、寝室に戻って小声で電話を続ける俺。
「なんだ? 今日はどこも行かないんじゃなかったのか?」
俺は、なんか嫌な予感がしながら、探るような声でそう言う。
「そう……今日は高校生は入れそうな昼のパーティはないわよ……行かない」
うん。いきなり何か行くパーティができたとかではないようだ。そこは一安心。
「なら、俺は今日はこのままゴロゴロしていたいんだが? 明日はまた夜のパーティに行くみたいだし、今週もゆっくりできるのは今日くらいみたいなんだけど」
だから、俺はまずは先制して俺の希望を主張するが、
「まあ、それもいいけど……めったになさそうな経験が今日できるんだけど?」
めったにない? なんか浮かれてそうな声の
こいつがそんな風に喜ぶことと言ったら?
「結構面白そうなのよ。予算がないからあんまりお金はもらえないみたいだけど……」
お金? なにかバイトか? でもただのバイトにしてはウキウキしてるな。バイド代もそんな高いわけじゃなさそうだし。
なにか美味しい話? お金でなく他の……?
「それはね……」
勿体つけるように一拍置いた様子から、なんとなく俺の安寧が今日も乱される予感を抱きながら聞いた、
「私たち、プロモーションビデオに出れるのよ!」
目立ちたがりのリア充脳の言葉で、
「……さあ、さっさと青山までやってきなさい!」
本日もまた騒がしい一日となることが確定してしまうのだった。
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