5.仲間Ⅹ

現れた男二人は質素な格好をしていた。シャツとズボンは当然として、ベルトであったりベストであったりとボロ布のように切り裂かれている箇所が見られる。








「ヒヒッ、予測通りだな」





一人が気味悪く冷笑する。比較的身長の高い男。一目で細身だと分かる風貌だ。





「お前らは何だ?」





 ドゥーガルが張った声で尋ねる。どう見ても不穏な様子である相手だ。威嚇するように疑問をぶつけた。それに対し、相手はへらへらと笑いながら応答した。





「な~に、門番だよ」





 もう一人の小太りの男が軽い調子で答える。あたりはろくに舗装もされていない。道というような道ですらなく、門など当然存在していない。





「……ふざけてるな」





 吐き捨てるドゥーガル。





「ふざけてなどいない。俺たちは至ってマジで話してるんだぜ」


「……で? その門番が何の用なんだ?」





 まるで不毛なやり取りだ。私と同様にアルも考えたのか。門番であるかどうかよりも次の話に移行させるべく、また疑問を投げ掛ける。





「決まってるだろ。門番といえば通すかどうか判断するんだ。このまま通りたいなら俺たちを納得させるしかないぜ」


「はぁ……」





 ある程度予想できた内容である。アニータも呆れるようにため息を零すくらいだった。





「何をすればいい? 金か?」 


「ヒヒッ、物分かりがいいな」





 アルが尋ねる。予測される直球の質問だ。ただ私のなかで、コーカスの町で出来事が思い出される。泥棒を働いたカイルという少年に金貨を無償で差し出した時のことだ。





 さすがにこいつらに渡す必要はない。そこまでお人良しであることを危惧してアルを呼び止める。





「アル……」


「あぁ、分かってる」





「だが金だけじゃない。後ろにいる女二人を残していけば、男二人は先に行かせてやっていいぜ。若い女は高く売れるでな」


「ホズミ、女の味見をしてもいいか」


「あぁいいぜ」





「生憎、お前らに渡す金はないんだが。仲間を渡す気などさらに毛頭ない」


「それなら仕方ない。無理やりといこう」





 細身の男が抜き出した短刀を振り抜く。全く手加減を知らない思いっきりの良い振り抜きだった。





「ちっ、簡単に躱したな。生意気なもんだ」


「遅かっただけだ」


「……ふん、コモリ」





 小太りの名前なのか。細身の男が仲間を呼ぶ。呼ばれた男は相槌とともに戦闘態勢に入る。両手にメリケンのようなものをはめ込み、腕を上げて構えた。





「おとなしく金を出せばいいもんを。後悔するぜ」


「それはねぇよ。お前らのほうが出てきたことに後悔することになるってオチだ」





 ドゥーガルもすでに戦闘態勢だ。クレイマンを出現させている、。アニータも荷物を降ろしてドラゴンダイブを顕現していた。私も固有の魔法はないけど、魔力を操って身体能力の向上くらいならできる。皆に倣って足手まといにならないように警戒した。





「多勢に無勢だな。怖いなぁ。コモリ、呼べ」


「分かってるよ。もう呼んだ」





 一体何を言っているのか分からない。ただ、突如空気が変わる。晴天であるのに、急にどんよりとした、じめっとした空気を感じて気分が悪い。





「なにっ?」


「何が起こるってんだ?」


「ヒヒッ」





 もともと平坦ではなかった道だが、ボコボコと地面が隆起した。現れたのは白い物体。いや、白い腕だ。這い出るように白い人形が次々と出現した。一気に数での形勢は逆転してしまう。





「俺の死霊人形アンデッドマンだ。意思なき傀儡の人形だから厄介だぞ」





 コモリが得意気に語る。全身が白い人形。輪郭はヒトの形を保っている、。顔の部分は目と思われる黒い穴が二つと、口と思われる大きな黒い穴が一つ空いていた。表情も読めず、ゆらゆらと揺れる様は、まさに悪霊にしか見えない。気持ち悪い魔法だった。





「俺の死霊人形アンデッドマンの軍勢に勝てるか」


「……」





 アルが腕を伸ばす。ただ黙ったまま重力グラビティの魔法を発動させた。





「なっ……」





 何体もいた死霊人形アンデッドマンは丸ごと全部地に伏せてしまう。芋虫のように這いずり回るその姿は、はるかに気味が悪かったが一瞬で無効化してしまった。





「お、俺の死霊人形アンデッドマンが……」


「終わりか? これ以上は無駄だ。おとなしく見逃してくれれば何もしない」


「なるほど……さすが白兎だな」


「!?」





 細身のホズミがにやりと笑う。犬歯を見せた笑みは何か不吉なものを感じさせた。





「やれ、コモリ」


「ああ」


「……っ!?」





 白い死霊人形アンデッドマンたちがわずかに触れあがる。ボコボコと赤い線を走ったかと思うと閃光を放つ。





「自爆かっ、アヤメっッ!」





 私の反応では遅すぎる。気づいた時には、危機を感じたアルが私を庇うように抱きかかえるところだった。





「ドゥーガル、アニータ、大丈夫か」





 何体もいた死霊人形アンデッドマンが一斉に爆発した。あたりは土煙で何も見えなくなってしまった。





「だ、大丈夫だ。危なかったがな」


「私も何とか」





 ドゥーガルはクレイマンで自分を運ばせて回避して、アニータも回避。アニータはドラゴンダイブの炎と風を爆風にぶつけることで、可能な限り相殺に持ち込んで危険を脱したようだ。








「ヒヒッ、隙ありだ」


「……!?」





 土煙が晴れきる前にホズミが襲い掛かる。アルは予測していたかのようにひょいっと交わして逆に背後を取る。





「終わりだ」


「お前がな」





 ホズミが背後越しに強気な言葉を放つ。その瞬間、アルの腕が切り裂かれる。反射的にアルは腕を引く。服の袖も肉もズタズタにされた痛々しい右腕がそこにあった。





「風の系統の魔法か」


「大正解だ、ヒヒッ」





 余裕ができたホズミはゆっくりと向き直して長い舌を出す。これ以上ない挑発的な行動だった。その隣に、同じように無事だったコモリが並ぶ。服に焼け焦げたあとや、多少焼失した赤い髪など見る限り、巻きこまれはしたが戦闘をやめる気は様子だ。





 ……こいつら、見た目以上に強い。





「お前、さっき白兎と言ったのは……」





 アルが言葉は最後まで続かない。その時、アルの背後、いや、私たちの背後で先ほどなんか目じゃないくらいの大きな大爆発が起きたのだ。





「……っ!!!?」


「なんで……っ」





 私たちの背後。それは、私たちが歩いてきた方角を指す。そこは……、爆発が起きたのは間違いなく……。





「ヒッヒヒッ、今何を言おうとしたんだ? 俺がお前のことを知っていたら何かおかしいってか?」


「コーカスの町が……」

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