遥かな心

鹿江路傍

プロローグ

 あの日、ハルは間に合わせの墓標へ無造作に一輪の百合の花を手向けた。無言の横顔からは、何の感情も読み取れなかった。


 一方の私は、恐らく悲しかったのだろう。どうしようもない人だったとはいえ、少なくない年月を共にした人間の死が、そしてそれ以上に、彼の死に涙を流せなかったことが。


 私が人間だったら、きっとそう思っただろうから。


 もしも私に心があるとするならば、あの時私は悲しんでいたのだ。

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