第6話

「な、んで…」


なんでお前がここにいるのか、なんでお前とまた会うのか、という疑問が頭の中で飛び交ったけれど、動揺からかうまく言葉にできなかった。



「なんでって、俺もここに用があるからここにいるんだよ。というか、顔色大丈夫か?」



ここに用がある、だと…こんなところにお前が何の用なんだ…とは思ったが、それを聞いて俺になんの得があるというのだ。いや、ない。あるはずもない。

そして顔色の心配をしてくれているようだが…当然俺は顔色悪いだろうなぁ、お前と会ったのだから。



「大丈夫だから、俺のことはほっといてください」


俺はできるだけ視線を合わせないようにしてその場を立ち去ろうとする。待ち合わせまでもう少し時間はあるし、その辺を少し歩いてきてこいつから逃げることにしよう、そうしよう…


そしてくるりと背を向けて俺はスマートにそこから立ち去る、はずだった。



「おいおいどこに行くんだよ」

「だから俺は大丈夫だって、」

「大丈夫じゃないだろ、仕事はどうした」

「はあ?あんたに関係ないだろ」



奴は俺の肩を掴んで、俺を引き留めようとする。ちょっと、なんでこいつはこんなにしつこいんですか。

あの日の出来事は一夜の過ちとして、知らんふりを決め込もうという俺の大人の対応を無下にするつもりなのか、この男は。


ん?…そういえば…なんで俺が仕事だってわかるんだ?

確かにスーツこそ来ているけれど、ここは飲み屋の前だし、普通は仕事終わりに飲みにきた、と考えるのが当たり前じゃないのか。



「関係あるんだね、これが」

「なんで、」

「社長、彼をからかうのもそこまでにされては」

「へ」



男の後ろからダークスーツに身を包んだインテリ眼鏡イケメンが姿を現した。

全くの初対面のはずだが、俺はこの人をなんだか知っている気がする。いや、この含み笑いには絶対に心当たりがあるのだ。しかしその答えに辿り着きたくない自分がいる。



「…おい、お前は来るなって言ったはずだが」

「社長のおそばでサポートするのが秘書の務めですから」

「お前がいると二人っきりになれねぇだろ」

「仕事ですので」

「…おい、お前わざと言ってるだろ」



待て待て、なんだか俺の知らないうちに話がとんとん拍子に進んでいるのはやめてくれ。


だが、俺はひとつの事実にやはりたどり着くしかないようで…

それを認めてしまうのがどうしても嫌で、どうか現実でないようにと強く願っている。



「はぁ…じゃあ、行くか」


奴は俺の腕をとりしっかりと立たせてくれる。乱暴な言葉遣いとは裏腹に、優しい手にエスコートされているようなむず痒い感覚に陥る。



「行くって、どこへ」

「決まってんだろ、俺とお前でお仕事だよ」

「は」

「接待してくれるんじゃないの?津島サン」

「な…」



奴は俺の腰をぐっと引き寄せ、甘い声でねっとりと囁いたのだった。

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