第27話 何回目?

187年進んだ距離までワープする。

「あなたもサトル級にバカなのね!ブラックホールに吸い込まれたら二度と出て来れないでしょ!」

アカネがミクーダに向かって言うと、

「ウチの船長を侮辱するのは許さないぞ」

タローがスパナでアカネを叩き、ムーアもアカネを睨む。

「しかしだな、アカネの言うとおり、ブラックホールに入るなんて…死にに行くようなものだ。作戦も何もあったものじゃない…」

ヒロシもアカネと同様に反対の意思を見せる。


「つまり、自分たちが行かない限り、中に何があるかわからない場所だ。帰る方法は、行ってみてから考えればいい。それに、もしそこで死ぬことになるのなら、それはそれで最高じゃないか。ワッハッハッハ」

ミクーダが豪快に笑うと、

「行ってみたいです」

サトルも笑みを浮かべる。もともと、サトルにとってこの冒険は一方通行で、“戻る”という考えはなかった。

「そうだ、食料はどうするのよ?もう残っていないんでしょ!」

「ああ、それなら、出前を取ったから問題ない。転送代が高くついたが、秘宝の価値に比べたら大したことないさ」

何とかブラックホールに行かせまいとするアカネの質問を、キーンがすんなりと答える。


「さてと、行くか」

ミクーダたちがコックピットから出て行こうとすると、

「行くってどこによ?」

とアカネが尋ねる。

「おねんねの時間だ」

キーンがとぼけた顔で言う。

「ちょっと、勝手に冷凍仮死装置に入らないでよ!話はまだ終わっていないんだから!」

「勝手にって、グンジョウは俺たちの船だ」

とタローがアカネの主張をバッサリと切る。

「グンジョウ、冷凍仮死装置を使えないようにして!」

とアカネが言うと、

「アカネハ、トモダチデスガ、ワタシノオヤブンハミクーダデス」

とグンジョウが断る。


サトルとブンジロウとレインボーも、コックピットを出て行く。

「まあ、これが本当の冒険かもな…」

ヒロシもそう言って出て行こうとすると、

「ちょっとヒロシ、サトルを止めてよ!」

とアカネが呼び止める。

「止めても無駄なことよくわかっているだろ。それに、今度はグンジョウもいるし、一人じゃないから平気だろ?絶対に料理はつくるなよ」

ヒロシはそう言い残して、コックピットから出て行く。

「不殺生国の定めに、冒険を禁止すると追加してもらうからね。無事に帰れたらだけど…」

アカネはそう言うと、先に広がる宇宙を見てため息をつく。



13年後-

恒星“ミシェランテ”が崩壊してできたブラックホールの近くまで、グンジョウが飛行して来る。

アカネが画像を拡大して見ると、一隻の宇宙船が歪みながら超スロースピードで、ブラックホールに吸い込まれて消えて行った。

「サトル級のバカっていったい何人いるのよ…」


サトルたちは、冷凍仮死装置から出ると、競走するようにコックピットに走って来る。ミクーダだけは違う方向に歩いて行く。

「おお、いよいよだな…」

キーンが興奮と緊張が入り混じった表情を見せる。

「何かあるのか…何もないのか…知りたいな」

実際に見て、ヒロシもブラックホールに入って行くことに肯定的になる。


「もう、今ならまだ引き返すことができるのよ!」

アカネがそう言っても、誰も反応を示さない。

「そうだ、今なら引き返すことができる」

皆が振り返ると、ミクーダがコックピットに入って来る。

「地球に帰れるように脱出用ポッドをセットして来た。ブラックホールの中に無事入れたとしても、俺たちと同じように秘宝を狙っている時空賊や、秘宝を奪う為に強制的に送られたあらゆる惑星のあらゆる時代の罪人たちが待ち受けている。悪いが、ここから先は命の保証をできない」

ミクーダがそう言うと、キーンとムーアとタローが声を出して笑う。

「ここまでだって、命の保証をされた覚えはないですよ、船長」

ムーアがそう言うと、

「ああ、何度も死にかけたよな」

とタローも後に続く。

「そうだったかな…」

ミクーダはとぼけた表情を見せる。

「ここで帰れなんて、そんな酷なことを言わないでくれよ…」

キーンがやや感傷的に言う。

「アカネはどうする?」

ヒロシが聞くと、

「人間に行けて零壱人に行けない場所なんてないわよ…」

アカネも一緒に行くことを決める。

「グンジョウ、まずは200年前にタイムワープだ!」

とミクーダが言うと、

「カシコマリマシタ」

とグンジョウが答え、空間が歪みはじめ、200年前にタイムワープする。



「200ネンマエニ、タイムワープシマシタ」

グンジョウが報告する。宇宙の様子に変わったところはない。

「よし、行こう!」

ミクーダがそう言うと、全員が目を輝かせる。

「コレヨリ、ブラックホールニ、トツニュウシマス!」

グンジョウも興奮気味に話す。

サトルの目から、涙がこぼれる。一人ぼっちの冒険だと思っていた。だけど、こんなに仲間ができていた。サトルは慌てて涙を拭う。こんなに楽しい時に泣いているのは、もったいないと思ったからだ。サトルは心配そうに見ていたブンジロウとレインボーに笑顔を見せる。

そして、グンジョウはブラックホールに入って行き、サトルたちは歪み始め、やがて消えて行く。


グンジョウは暗闇の中を飛行する。サトルたちはコックピットで、限りなく無に近い世界を目の当たりにしていた。

「レーダー圏内に、何一つ反応がないわ…」

アカネが言うと、

「ここは…宇宙の始まりのどこかだな…」

ミクーダがそう言い、

「ああ、この素粒子の量はそうとしか思えない…」

キーンが計器の数値を見て言う。

「結論から言うと、俺たちはここで死ぬ。素粒子が飛び交い過ぎて、タイムワープはできない。燃料か、食料か、酸素か、何かが尽きた時が最後だ」

ミクーダがそう言うと、全員が沈黙する。


「だが、大人しく死んでいくなんてごめんだ。ここに吸い込まれた秘宝を見つけ出して、これから130億年後くらいに生まれて来る、俺たちだけにわかるサインを残そう。そしたら、きっと次の俺たちがタイムワープ可能になる頃合に秘宝を誰より早く奪い取りにくるだろう」

ミクーダがそう続けて言うと、

「グンジョウ、物体反応を捜すわよ!」

とアカネが積極的に言う。

「ゼッタイニミツケテミセマス!」

グンジョウも気合が入っている。

サトルは、窓にしがみついて自分の目で捜している。

「レーダーに映らないかもしれないから、私たちも捜しましょう」

ムーアがそう言うと、

「よっしゃ、見つけてやるぜ!」

とヒロシたちも気合を入れて、秘宝を捜し始める。


四日四晩、誰一人眠ることなく、秘宝を捜し続けた。

「光!」

サトルが微かに見える光を見つける。

「さすが、サトル!」

アカネがサトルに抱きつき、ヒロシとブンジロウとレインボーにそれに加わって、抱き合って喜びを分かち合う。

「素粒子が多すぎるせいでレーダーに反応はない…」

キーンがそう言うと、ミクーダがサトルを見て、

「希望が先か…勇気が先か…」

と呟く。


そして、一呼吸空けて、

「よし、あの光に賭けよう!グンジョウ、全速力であの光へ向かうんだ!」

とミクーダがグンジョウに指示をする。

「シッカリツカマッテイテクダサイ!」

グンジョウはそう言うと、一気に加速して微かな光へ向かって進む。

やがて、探していた秘宝がその姿を現す。

「キレイ…」

アカネが一言だけ発し、しばし全員がその美しさに見とれている。

「悪意を吸い寄せて浄化するダークマターの集合体、それが人類史上、最も慈悲深き秘宝“SATORU”」

ミクーダが巨大な球体の秘宝の正体を明かす。

「サトル…偶然なのか…」

ヒロシが聞くと、

「それはわからない…ただ、名前だけじゃなくて、与える影響もそっくりだ」

とミクーダが答える。


「僕と同じ名前…」

サトルは秘宝“SATORU”に向かって手を伸ばす。秘宝“SATORU”の周りには、多数の宇宙船が漂っていた。

「あらゆる惑星のあらゆる時代から、時空賊や罪人が集まっているのに、誰も争っていない…」

ムーアが信じられないような表情を見せる。

「おい、あそこを見てみろよ!」

キーンが指差す先には、バリアフィールドがつくられていて、時空賊や罪人たちが和気あいあいと野球をしていた。

「あれだけ大きなバリアフィールドをつくれるなんて…最後にいい勉強ができそうだ」

持ち帰ることができない知識でも、新しいことを学べることにタローは純粋に喜んだ。


「よし、仲間に入れてもらおうぜ!」

ミクーダが言うと、

「そうだな、どんな奴がいるか楽しみだ!」

とヒロシもやる気を見せる。

「残念だけど、グンジョウは大きすぎて、バリアフィールドを通ることができないから…ここで待っていてくれる?」

タローがそう言うと、

「ミナサンヲオウエンシテイマス」

とグンジョウが答える。


サトルたちは宇宙服を着て、グンジョウから出て、バリアフィールドに向かっていく。

「サトルさん、なぜ不殺生国では人間に進化薬が与えられていたと思いますか?」

ミクーダに突然、不殺生国のことを聞かれ、

「えっ?」

とサトルは戸惑いを見せる。

「きっと、ここに来たのは初めてではないはずです。二回目かもしれないし、何百回かもしれないし、何万回も来ていてこのザマかもしれませんが、私たちはきっと前に進んでいます。また、お会いしましょう」

「はい」

ミクーダとサトルの会話を全員が無線で聞いている。


「みんな、野球はブンザブロウと楽しんでね。ブンザブロウ、みんなのことを守ってね」

サトルは秘宝“SATORU”に向かって手を伸ばした時に、分身のブンザブロウをつくっていた。

本物のサトルは擬態して隠れ、皆がグンジョウを出てから、たった一人で秘宝“SATORU”に向かって進んでいた。


レーダーでわかるアカネやグンジョウだけでなく、ヒロシたちもそのことには気付いていた。






「みんな、大好きだよ」






サトルはそう言い残すと、秘宝“SATORU”に触れて、塵となる。



                                 

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