第26話 そう思っていた。

ムーアはアンシュを潰さないようにやさしく握って、グンジョウから降りる。そして、湖へ走って行くと、アンシュを放してやる。

「元気に暮らすのよ」

ムーアが投げキッスをすると、アンシュは大きくジャンプをしてから水中に消えて行く。すると、超巨大女王アリが攻撃をやめる。


「助かったのか…」

コックピットでは、いつの間にか手を合わせて神に祈っていたヒロシをはじめ、全員が固唾を呑んで見守っていた。

「オカアサン」

グンジョウが超巨大女王アリに向かって声を発する。超巨大ホッキョクグマがグンジョウの前から離れると、超巨大女王アリが近づいてくる。

「いきなり食われたりしないだろうな…」

ヒロシは怯えているが、

「大丈夫だよ」

とサトルは笑みを浮かべている。超巨大女王アリは、グンジョウの顔を近づいて見ると、前脚を湖に入れてシャチを刺して捕まえ、それをグンジョウの前に差し出す。

「ボクニクレルノ?」

グンジョウがそう聞くと、超巨大女王アリが前脚でシャチをグンジョウに近づける。


「グンジョウ、良かったね。あなたのことわかっているのよ」

アカネが嬉しそうに話す。

「グンジョウ、僕とペロッツも降ろして」

サトルがそうお願いすると、ペロッツがドアを開いて、タラップを降ろす。ペロッツはサトルよりも先に降りて、超巨大ホッキョクグマのもとへ駆けて行く。サトルも跳びはねて追いかける。

「食われて死にそうになったっていうのに…」

ヒロシが信じられないといった表情を見せると、

「それが親子ってものだろ」

とミクーダが微笑ましそうに言う。

「いや、俺が言っているのはサトルのほうさ…」

とヒロシが言うと、

「サトルくんの中には、自分以外の誰かの命より大切な存在がないんだよ」

とミクーダが答える。

「俺たちもずっとそう思っていた」

ヒロシはアカネとレインボーとブンジロウを見て、ミクーダに誇らしげに言う。


超巨大ホッキョクグマは、ペロッツを潰さないように、やさしく前脚で触れる。ペロッツも嬉しそうに体をこすりつける。

「よかったね、ペロッツ。ここで、またお母さんと暮らせるね」

サトルは超巨大ホッキョクグマを見上げて、

「助けてくれてありがとう!ペロッツを頼むよ!」

と言うと、グンジョウに戻って行く。

ペロッツがサトルについて行こうとするが、サトルはペロッツを蹴飛ばす。

「ペロッツ、強くなるんだよ」

サトルはペロッツの目を強く見てそう言うと、タラップのところで待っていたムーアを無視して、グンジョウに乗りこむ。

「寂しくなるわね。さよなら、ペロッツ」

ムーアもペロッツに別れを告げると、タラップを昇ってグンジョウに乗りこむ。


ムーアがコックピットに行くと、

「あれ、サトルは?」

とヒロシに聞かれ、

「しばらく一人にしてあげて」

とウインクして答える。

「どうしよう。私が宇宙船とグンジョウを合体させちゃったから、グンジョウはここで暮らすことができないよ…」

アカネは自分を責める。

「アカネ、ボクハ、オカアサンガブジデ、アンシンシマシタ。コレデ、ココロオキナク、ボウケンニイケマス」

グンジョウは明るい声でアカネに話す。

「ボクハ、ナニガオコルカワカラナイ、ボウケンガスキニナリマシタ」

とグンジョウが言うと、ミクーダが小さくガッツポーズをする。

「船長の狙いはこれだったのか…」

キーンが御見それしましたという表情を見せる。


「冒険好きの船に乗って、冒険に行けるなんて最高じゃないか!ワッハッハッハ!」

上機嫌のミクーダを見て、

「子供か!」

とタローが突っ込む。

「でも、せっかくお母さんと会えたのに…」

アカネは腑に落ちない様子を見せる。

「ここの冷凍装置をいじって、地球と似た環境にしてやるから、しばらくはこの星に留まらないといけないな…」

タローが面倒臭そうに言うと、

「ありがとう!タロー大好き!」

と言ってアカネが抱きついてくる。

「ちょ、ちょっとやめろよ…」

タローが顔を赤くして恥ずかしがる。

「グンジョウ、よかったね!しばらくお母さんと一緒にいられるよ!」

とアカネが早口でそう言うと、

「タロー、アリガトウ」

とグンジョウが言って、タローにいくつものライトを向ける。

「おっ、スターみたいだな」

ヒロシがちゃかすと、

「ど、道具を整理しなくちゃな」

とタローはコックピットから逃げるように出て行く。

「そろそろ食事の時間にしようや」

キーンがお腹をさすりながらそう言うと、

「おお、早く食べようぜ」

とヒロシが喜ぶ。

キーンとヒロシは、超巨大女王アリが前脚で刺し殺したシャチを見ていた。


夜になると、ダイニングールに全員が集まり、シャチのステーキをかっ食らう。

「最高にうめーや!」

「こらキーンずるいぞ!それ、5枚目だろ!」

キーンがおかわりをすると、タローが食べながら蹴りを入れる。アカネはオイルジュースを飲んでいる。

「食えよ」

ヒロシがサトルに言うが、サトルは手をつけようとしない。

「食えって言っているだろ!」

ヒロシが強い口調で言うが、

「ヒロシにあげるよ」

と言って、サトルはシャチのステーキの入った皿をヒロシの前に置く。

「自分で食え」

ヒロシはその皿をサトルに返す。

「それじゃ、キーンさんこれをどうぞ」

「おお、ありがと…」

サトルがキーンにシャチのステーキを渡そうとすると、ヒロシがサトルの腕を掴んで止める。キーンは受け取ろうとした手を気まずそうに引っ込める。


「これは、グンジョウのお母さんが獲ってくれた飯だ。俺たちが殺したわけではない。もう死んでいたんだ。食べてやったほうが、こいつのためだろう」

「そうだね」

「だったら何で食わねえんだ!?」

「僕らが殺したわけではないけれど、僕らが来なければこのシャチは今頃、元気よく泳いでいただろうに…」

「そんなことわからないだろ…。俺たちが来なくても、死んでいたかもしれない」

「同じだね。サーラが言っていたことと…」

「何を!あんな奴と一緒にするんじゃねえ!」

ヒロシがサトルに殴るかかろうとすると、ミクーダがヒロシの腕を掴んで止める。

「食べたい奴はありがたく食べる。食べたくない奴は食べない。それでいいじゃないか」

ミクーダがそう言うと、

「それじゃ、俺がいただくぜ」

と言って、キーンがサトルの分のシャチのステーキを取る。

「あっ、それで8枚目だからな」

タローがモグモグしながら、キーンが食べた量を数える。

ムーアは黙っておかわりする。

「おいムーア、お前も何気に6枚目だからな」

タローが言うと、

「細かい男はモテないわよ」

ムーアはタローにウインクをすると、口いっぱいにシャチのステーキを頬張る。

「食いしん坊の女のほうこそモテないだろうが…」

タローがつっこむと、ムーアにげんこつをされる。

「痛ってーな!女ってのは全員、狂暴なんだな」

タローはムーアとアカネを見て言う。

「一緒にしないでよ!」

アカネとムーアは同時に言うと、バチバチと視線をぶつける。


ヒロシは黙々とシャチのステーキを食べている。サトルはブンジロウとレインボーにおかわりを取ってあげる。

「これを食べてください」

ミクーダはドライマンゴーをサトルに差し出す。

「ずるーい!船長、そんなの隠し持っていたのかよ!」

タローが言うと、

「一人で食べるつもりだったのね…」

「こいつは許せねえ」

ムーアとキーンも不満そうな表情を見せる。

「気にしないで食べてください」

ミクーダは無視してサトルにすすめる。

「ありがとう」

サトルは全部を口に入れると、あっという間に食べてしまう。不殺生国の山に入ってから、早食いが習慣となっていた。


「ああ、皆がおいしそうに食べているのを見ると、あのラーメンを思い出すわね」

アカネが寂しそうに言うと、

「おう、あのトンネルの中で食ったラーメンはうまかったな」

とヒロシも思い出して笑顔になる。

すると、キーンとタローが席を立って驚く。

「あんたら、まさか…トンネルの中にある屋台の百魂ラーメンを食べたことがあるのか…」

キーンがそう聞くと、

「あるわよ。でも、百魂ラーメンって名前じゃなかったはずだけど…」

とアカネが答える。

「いいなー。タイムトリッパーの間で、最強のグルメに選ばれた伝説のラーメンなんだ。俺もいつか食べてみたいなー」

タローが羨ましがり、キーンは嫉妬のあまり硬直している。

「タイムワープして食べにいけばいいじゃないか?」

ヒロシが不思議そうに聞くと、

「私たちにとっては、あそこは訳アリで行けないのよ…」

とムーアが答える。

「まあ、やっかいな話は後にして、今はこのご馳走をいただこうじゃないか!」

ミクーダがシャチのステーキを皿に10枚のせて豪快に食べる。

「あっ、船長ずるいぞ!」

タローも負けじとおかわりをする。それを見て、キーンもサトルからもらったシャチのステーキをペロリと食べて、

「伝説のラーメンより、近くのシャチのステーキだ!」

と言って、またおかわりをする。


外では、ペロッツがシャチの肉を食べていた。

「オイシイデスカ」

グンジョウが聞くと、ペロッツは大きく吠えて答える。

「ヨカッタ」

グンジョウは頬笑みを浮かべて喜ぶ。


アルテコッタ滞在中、ブンジロウは、ペロッツのお母さんの超巨大ホッキョクグマに鍛えてもらい、さらに強くなっていた。

サトルとヒロシは、ペロッツに魚の獲り方を教えてやった。

グンジョウは、お母さんの超巨大女王アリに泳ぎを教えてもらい、水中での移動能力を高めていた。

ムーアはアンシュを食べようとする魚をレーザー銃で仕留めて、食料を調達していた。

ミクーダとキーンは釣りで勝負をしたが、一番釣れたのはレインボーだった。

アカネはタローの作業を手伝ってやり、少しだけ仲良くなっていた。



9日後-

アルテコッタからサトルたちを乗せたグンジョウが旅立っていく。

ペロッツ親子が大地から、アンシュは水中から飛び跳ねて見送り、超巨大女王アリは成層圏までついてきて、息子の旅立ちを見届けた。


「よし、キーン、ワープするぞ!」

「了解!グンジョウ、ここまでワープだ」

ミクーダが指示して、グンジョウが座標を入力する。

「はあ!?ワープはしないんじゃないの!?」

アカネがキレ気味に聞くと、

「同じところを通ってもつまらないだけだ。187年後の距離までワープして、そこから先はまた冷凍仮死装置に入る」

とミクーダが答える。

「はいはい。わかりました。どうせ、何を言ってもムダなんでしょ」

アカネは呆れた表情を見せると、大人しく引き下がる。

「ところで、任務って何をするんだ?予め聞いておいて、作戦を考えたい」

ヒロシが聞くと、

「ブラックホールに吸い込まれたお宝をいただきに行く」

ミクーダが当然のことのように言うと、58秒経ってからようやく、

「バ…」

アカネが喋ろうとすると、グンジョウがワープを発動する。

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