第2話

仕事をコツコツこなしていくと、時が経つのは速い。今日は特に速く感じられた。


「今日はやけに身が入ってますねっ、課長」


手を止め、顔を上げるとデスク真ん前の男がにへらと笑った。


「馬鹿。今日は、じゃなくて今日も、だよ佐竹」


すみませ~ん、とにやけながら言われては全く誠実さに欠ける佐竹は、桂木と同期の俺の部下。桂木と同い年のはずだが、こいつはあいつと性格が面白い程正反対なのだ。

人懐っこく話しやすいが、どこか緩いところがあるのがこいつの難点。仕事に限らず、だ。


普段以上に仕事に打ち込んでいることは事実なのだが…理由を突っ込まれて、まさか桂木に冷たくされたのを忘れるため、なんて言えるはずがない。

黙っといた方がいい。言わぬが花ってやつだ。


「あー課長眉間にシワ!」

「…お前なぁ…」


油断した瞬間、佐竹は俺の眉間を伸ばすように人差し指をそっと這わせた。

こいつ…仮にも上司の眉間をなぞるなんて…こうも自然にできてしまうのは佐竹くらいだろう。尊敬の念すら覚えてしまう。

眉間に皺か…俺も年かな……


ガタタンッ



そんなおじさんくさいことを考えていたら、少し離れたデスクで音がした。昼下がりのオフィスには少しばかり響く音は桂木が発したものだったらしく…


周りの女子社員に心配されていたが、桂木は何事もなかったように再び仕事に戻ったようだった。



「なんか桂木さんって面白いッスよね」

「はあ?」



いや、お前の方が面白いよ。というのはさすがにかわいそうかなと思って、言わないであげた。


「だって…超分かりやすいッスもん」

「…分かりやすいって何が」

「あ~…あの人もかわいそうな人ッスよ」



…さあ、って…

お前が言い出したことだろうが!

だいたい、なんで部下のお前の方が俺よりあいつを理解してんだよ。


お前にかわいそがられる桂木がかわいそうだわ…



桂木を不意に見やると…

なぜか俺を超睨んでた…


なんだよ?!俺…なんかしたの…??




そんな時、デスクのパソコンが新着メールを知らせた。

開封してみると…


「…まじかよ」




『今夜飲みに行きませんか 桂木』



嬉しい誘いであるが、何やら怖さを感じずにはいられなかった。

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