第3話 エンジェルは突然に

 俺はいま壮絶なる戦いの真っ最中である。

 敵は”特盛り猫娘カレー”

 普通のカレーの6倍もあるこのカレーはどんな子供でも笑顔にしてしまう愛らしい奴ではない。

 確かに最初の1口、2口ならどんな子供でもうまいうまいと言ってこのカレーをほおばることだろう。

 事実、俺も最初はそんな無垢な子供たちと同じような気持ちでこのカレーを食べていた。

 だが、しかし!

 それから何十回とスプーンでカレーを掬い、口に運んだにも関わらずこのカレーは一向になくならない。

 ――ジーザスクライシス!

 額から吹き出る汗。重くなる胃袋。舌を麻痺させる絶妙な辛さ。

 ……もっ、もうダメだぁ。

 こいつには勝てる気がしない。お父さん、お母さん。食べ物を粗末にする僕をどうかお許しください。


「お水はいかがですかぁーっ?」


 と、諦めかけていた俺の元に猫耳エンジェルが聖水を持って現れた。

 そういえばさっき注文を待っている間に水を飲み干し、氷も噛み砕き尽くしていたな。

 よく考えたら、俺は水なしでよくもまあここまで食えたものだ。


「おい、そこのニナモ」

「あっ、お兄さん!」

「水だ。水をくれ」

 俺はそういうと手に持った空のコップをニナモに差し出す。

「わっかりましたぁー!」


 ニナモは元気よくそういうと、手に持った銀のポットからコップに水を注ぐ。


「ストップ。もういいぞ」

「はーいっ」

「うむっ、ニナモよ。大儀であった」

「えへへへっ、褒められた」


 二ナモは頬を赤くして喜ぶ。

 本当に猫みたいな奴だ。ヒゲもあれば完璧だな。

 ――まあ、そんなことよりこの猫娘カレーが問題だ。

 水という心強いパートナーも手に入ったわけだし、もう少しがんばってみるかな。

 俺はそう思い、またスプーンを手にとった。


「ねぇねぇ、お兄さん」

「んっ、なんだ? 俺はもうおまえに用はないぞ。水を求めている他の人のところにいけよ」

「まぁまぁ、そんなこと言わないで――」

「ねぇ、猫娘カレー美味しいでしょ?」

「ああっ、美味い。確かに美味いよ。だが……俺はこの特盛りは二度と頼まん」「ふぇ! なんでですかぁ!?」

「なんでってこんな量のカレーは常人じゃ食えないだろ」

「そんなはずありません! だってニナモは特盛りなら軽く3杯はいけるもん!!」

「……マジか?」

「うん、マジですっ!」


 3杯ってことは約18人前!?

 異常だ。やっぱりこいつ妖怪なんじゃないか?

 俺はニナモがモリモリと猫娘カレーを食べているところを想像する。

 なんだか気持ち悪くなってきた。

 俺は喉の奥からせりあがってきそうなものを押し戻すかのように、もらったばかりの水を口の中に流し込む。

 お水、美味しい。


                   *


 そのあと、俺は猫娘カレーに再度戦いを挑んだが惨敗。

 結局すべてを食べきることはできなかった。

 ――農家の皆さん、ごめんなさい。

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