第83話 シェリルの異変

素裸スライムが 3ひき あらわれた!】


 初戦はスライムだった。準備運動にはちょうどいい。

 俺、シェリル、花梨が1匹ずつ相手をする。菜々芽は俺の応援だ。

 俺は買ったばかりの棍棒を装備して、スライムとの間合いをはかる。


 今日は、いきなり魔法剣を使うことはしないと決めていた。

 魔法剣はいざというときのために取っておく。そして普段の戦闘は棍棒で何とか戦えるようにしておきたい。そのための練習にはもってこいの相手だ。


「お兄ちゃーん、がんばってー!!」


 菜々芽の声援を受けた俺は、スライムにとびかかると棍棒を叩きつけた。


【アラタのこうげき! 素裸イムに10のダメージ!】

【素裸イムをやっつけた! 1のけいけんちと1ペロをかくとく!】


 おおっ! 一撃で倒せたぞ!!

 この棍棒、振りやすくていい感じだ。

 武器屋の主人、ありがとう!!


「やったあ! お兄ちゃんすごい!!」


「ありがとな。これである程度みんなと戦えるぞ」


 さて、シェリルと花梨はどうしてるだろうか。

 まああいつら強いし、あっさり倒してるんだろう。

 花梨を見ると、やはりすでに倒し終えていた。


 シェリルはというと――――あれ? 

 まだスライムと戦っている。


 しかもその顔に余裕はなく、とても苦戦している様子だった。


「ま、ま、ま……マンほ――――ううっ!!」


 魔法を使おうとするシェリルだが、すぐに中断してしまう。

 そしてすぐに、ふたたび別の魔法に取りかかる。


「ならば渦巻くスプラッシュ、しおふ……だ、ダメだ!!」


 理由はわからないが、呪文が最後まで唱えられないらしい。

 シェリル……いったいどうしてしまったんだろうか。


 結局スライムは、花梨が倒した。




「おいシェリル、いったい何があったんだ!?」


 相手が魔法を封じる魔法でも使ってきたのだろうか。

 でも最弱モンスターのスライムが、そんなことしてくるのか?


 シェリルは真っ青な顔で、信じられないといった表情をしていた。


「魔法が、使えないんだ。どうやっても呪文が最後まで言えない……」


「そうか。敵に何かされたとかは?」


「いや、何も……」


「今までに同じような状況になったことは?」


「こんなのは初めてだ。わたしはどうしてしまったのだ……!?」


 シェリルがこれ以上ないくらいに動揺している。

 それはそうだろう。シェリルの話では、シェリルはずっと魔法の鍛錬にその身を捧げてきたと言っていた。なのにその魔法が使えなくなったら、何もできなくなるくらいにショックを受けるのも当然のことだ。


「わたしは……もうこのまま、魔法が使えなくなってしまうのだろうか」


「落ち着けって。だいじょうぶ、一時的なものかもしれないだろ?」


「――アラタにわたしの何がわかる!?」


 いきなりシェリルに胸ぐらをつかまれた。

 だが次の瞬間、シェリルがハッとしてその手を離す。


「アラタ、すまない。つい気が動転してしまって……」


「気にするな。とりあえずしばらくは様子を見よう。その間は俺たちがモンスターと戦うし、もしつらかったら今日は家に帰って休んでたっていい」


「そうそうシェリィ、こんなときはあたしたちに任せなさいよ」


「シェリルちゃん、だいじょうぶ……?」


 花梨や菜々芽も、シェリルに優しく声をかける。

 それで安心したのか、やっとシェリルが笑った。


「みんなありがとう。お言葉に甘えて、戦闘は任せることにしよう」


 そしてそのときのこと。

 遠くから、こっちに向かってくる姿があった。





「……みなさーん、たいへんですぅぅぅー!」





 女神……じゃなくて、ギルドの受付をしているお姉さんだ。

 すごく慌てている様子だ。いったい何があったのだろうか。


「はぁはぁ、よかったです。事が起こる前にみなさんと会えて」


「受付のお姉さん、いったいどうしたんだ?」


「それが……。みなさん、落ち着いて聞いてください」


 受付のお姉さんはシリアスな表情になると、こう言った。




「もうすぐ、魔王が復活します」

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