第78話 シェリル②
どうしよう、喜んでくれると思ってたのに……。
「ごめん。もしかしてあのとき見てたのって、これじゃなかったのか?」
「……いや、確かにわたしはこれを見ていた」
「だったら、受け取ってくれると嬉しいんだけど」
「それはできない。明日、このまま店に返せば返金してくれるだろう。それで自分の防具でも買いそろえてくれ。その方がきっと、アラタの役に立つ」
「そんな……」
何も言えずにいる俺。
するとシェリルは、プレゼントを俺の手に戻した。
「ずっと冒険者をしてきたわたしには、こんなものは似合わない。防御力が高かったり、特別な効果があるものならともかく、ただのアクセサリーはな。――そうだ、カリンにあげたらどうだろう! とても似合うだろうし、きっと喜ぶと思うぞ!」
「…………。そうだな、わかったよ」
俺は手の中にあったそれを、アイテムカードに戻した。
「ごめん、俺……シェリルの気持ちを何も考えてなかった。実はさ、これをプレゼントしようと思ったのだって本当は自分勝手な理由なんだ。さっきはお礼だなんて言ったけど、俺はただ――これをつけたシェリルが見たかったんだ」
「……アラタが?」
「そう。下心丸出しだろ? だからシェリルをガッカリさせちゃうんだよな」
「アラタが……、わたしを、見てくれる…………」
シェリルが、俺の手からカードを取った。
それを小箱に戻すと、髪飾りを自分の頭につける。
「アラタ、その……どうだ?」
「シェリル……」
髪飾りをつけたシェリルがこっちを向く。
恥ずかしそうに視線を泳がせて、それでも俺の反応を気にしていて。
そんなシェリルがすごくかわいくて、思わず見とれてしまった。
「……それ、似合ってるよ」
「アラタ、本当か?」
「うん。すごくかわいい」
「ありがとう。これ……ずっと大切にするから」
嬉しそうにしているシェリルを見て、俺はホッとしていた。
よかった。俺の贈り物、喜んでくれて……。
「シェリル、それからさ……俺を気にして下ネタを抑える必要なんてないからな。俺はシェリルに、いつも通りのシェリルでいてほしい」
「そんな……いいのか?」
「ああ。俺はシェリルがシェリルだから一緒にいて楽しいし、その髪飾りもプレゼントしようと思ったんだ。無理せず自分らしくいてくれ」
「わかった。アラタ……ありがとう」
そしてまた、シェリルが鼻歌を歌いはじめる。
メロディは同じくきらきら星。さっきよりも嬉しそうなトーンだ。
「きらきら星の歌、好きなのか?」
「これか……? この歌はABCの歌だぞ?」
「ああー、そういや同じメロディだったっけ。どうせシェリルのことだから、ABCが恋愛の段階をさす隠語だから好きとか、そういう理由なんだろ?」
「……違う。わたしを馬鹿にするな」
そういや下ネタを抑えてるときから歌ってたんだもんな。
きっと母親に歌ってもらったとかで、本当に好きなんだろう。
これは失礼なことを言ってしまったか。
「この歌の真の良さはFのあとだ。G(自慰)を覚えてからH(エッチ)があり、そのあとにI(愛)が生まれて、女性はみなJKとなる。女子高生になるまえに本番を済ませているとは、さすがアラタの世界は早熟なのだな」
うわあ……、ぜんぜん失礼じゃなかったな。
今までのムード、台無しにもほどがあるんですけど。
それでも。
ドヤ顔で下ネタを言うシェリルは、実に楽しそうだった。
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