第64話 クエスト完了

「――はっ、お兄ちゃん! あれ、どうして泣いてるの……?」


「ゔあ゙あ゙な゙な゙め゙え゙え゙え゙え゙え゙……。――あれ?」


「ねえお兄ちゃん、いったい何があったの!?」


「菜々芽!? 元に戻ったのか!! 菜々芽えええええっ!!」


 感動のあまり、俺はガバッと抱きついていた。

 もういつもの良い子な菜々芽だ。顔を見ただけでわかる。


「え? 元にって……あれ、そういえばあたし何してたんだろ……?」


「覚えてないならいいんだ。むしろ思い出さなくていいからな」


「お兄ちゃん、くすぐったいよお」


 頭をなでられて嬉しそうにしている菜々芽。

 記憶にないってことは、あれは菜々芽の本心ってわけじゃないんだな。

 はー、よかったよかった。これでひと安心だ。


「さて、まだアラタの毒は残っているが……わたしが吸い出そう」


「そうだな。頼む、シェリル」


 シェリルが俺の胸に触れる。

 ところが、そのままシェリルがピタッと止まってしまった。

 何かためらっているようだ。そういえばさっきもそんな様子だったけど……。


「どうしたんだ、シェリル?」


「い、いや……なぜだろう。どうしてもためらってしまうんだ」


「……はあ、仕方ないわね。あたしがやるわよ」


 見かねた花梨が、俺の隣に座る。

 やれやれといった様子だった。


「シェリル、新太に暴言吐くのが嫌なんでしょ。その点あたしならだいじょうぶ。いつも新太に文句ばっか言ってるからね」


「いや、わたしはそんなつもりじゃ……」


「あ、でもカン違いしないでよね。べ、別に、その……、あたしが新太の胸に吸い付きたいってわけじゃないんだからね……!」


 そう言って、花梨は勢いよく俺の胸に吸いついた。

 残りの毒がすべて抜けていく感覚。

 そして……、 


 花梨がおもむろに、服を脱ぎ始めた。


「新太、見て…………」


 するすると服を脱ぐ音。

 ふぁさ、と地面に服が落ちると、花梨は下着姿になっていた。

 さらにブラの肩紐を外し、ぷるるんと揺れる大きな胸が丸見えに――


「おい、花梨! 何やってんだ!!」


「あたしの全部、新太に見て欲しいの……」


「何で!? 俺に毒吐いてくるんじゃなかったのかよ!!」


 さらに花梨はショーツに手をかけようとする。

 うわあ、こんなの見てられるか! 目の毒だあ!


 ――って、あれ?

 そういうことなの?


 目の毒だから、脱ぎ始めたってことかよ!?



「…………あれ? あたし何してたんだろ?」


 そのとき、ハッと花梨が我に返った。

 そして服を脱いでいる自分の姿を見る。


「えっ、何これ!? 何であたしハダカなのよ!? いやあああっ!! 見ないで新太!! バカバカバカバカバカあああああああっ!!」


【かりんのこうげき。かいしんのいちげき!】


 ドガアアアアア――ッ!!


「ぐへぇ……っ」


 花梨のかかと落としが、見事俺の脳天に突き刺さったのだった。




 こうして無事……ではないけど、クエストを完了させた俺たちは、ギルドに戻って報酬を得ることができた。


 ちなみにこの毒、致死性はないのだとあとになってシェリルに聞かされた。

 じゃあ毒が回ったらどうなるのかを聞いたところ、何と――


 アヘ顔ダブルピースになってしまうのだとか。


 うはー、苦労して治療しておいてよかったあああああ!!

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る