第40話 無限ループ

 それにしても、さっきのって菜々芽の言葉、二重意図ダブルミーニングにはならなかったんだろうか。

 油断してて、つい口をふさぐのが間に合わなかったけど……。

 幸いなことに、どこかで爆発が起こった形跡はまったくなかった。


 どかああああああん!!


 しかし次の瞬間、どこからかものすごい爆発音が聞こえてくる。

 慌ててあたりを見回すが、街はいたって平和な様子。

 爆発はどこにも起きていない。あれ……?


 あ、今の……俺の脳内で聞こえた音だ。



『ああ、何ということでしょう! わたしの官能小説コレクションがあああ!!』



 と思ったら、いきなり女神の悲鳴が聞こえた。

 どうやら天界で爆発が起こったらしく、女神が所有している本棚が、菜々芽の魔法でブッ飛んだらしい。

 ふう、よかった。これなら被害はゼロに等しい。むしろ有害物質が消滅したから、結果的にはプラスだな。


『グスン、そんなひどいですよぉ……』


 これに懲りたら、日頃のおこないを改めるといいんじゃないかな。

 しっかし、菜々芽の魔法はほんとすごいな。まさか天界まで攻撃できるとは。


 街中で騒いでいる俺たちの横を、街の人たちが通り過ぎていく。

 行く人みんながみんな、物珍しそうに俺たちを見ていた。

 そりゃ見られて当たり前か。俺たちは異世界人だもんな。


 しかしどうやら、見られているのは俺1人だけみたいだ。

 ……いったいどういうことだ?

 街の人たちのひそひそ声が、俺の耳に入ってくる。


「おい、あの男ポーションまみれだぞ」「顔や手がテカテカじゃないの」「それだけじゃねえ、髪や服もヌルヌルだ」「どれだけ回復したんだろうな」「どんな凶悪なモンスターと戦えば、あんなになるのかしらねえ」


 …………!

 俺は恥ずかしくて、顔が熱くなってしまった。

 隣にいた花梨にも聞こえていたのか、俺を見て笑い始める。


「テカテカ……ぷっ、あははははははっ! あははははははっ!」


「…………。そこまで笑わなくてもいいだろ」


「あはは……げほげほっ。だっておもしろいんだもの、あはははっ!」


 むせるなよ。ちくしょー。

 ……お、そうだ。

 このままでは悔しいので、俺は仕返しすることにした。


「いやー、まあしかしほんと、街の人たちが言ったとおり、実に凶悪なモンスターだったよな。俺に殴りかかってきたヤツは、さ」


「え…………? ――――あっ! も~~~~っ!!」


 ガスッ! 真っ赤になった花梨が、俺のつまさきを思いっきり踏んづける。

 痛え、すごく痛えよ! でもちょっとスッキリした気分!

 花梨は「ふんっ」と言うと、そっぽを向いてしまった。


 おー、痛え。あとでローション塗っておこうっと。……あれ?

 でもこれって、ローション→殴られ→ローションの無限ループじゃね?

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