ターン20「おかねをもとめて」

 おかねー。おかねー。

 おかねー。が。ないゆー。

 るー。るー。るー。


 作詞・作曲・ぼく。

 「おかねがない歌」――を、口ずさみながら、ぼくは、とぼとぼと村のなかの小道を歩いていた。


 薪の割りかたは知ってる。薪の配達のやりかたも知ってる。

 でもお金の稼ぎかたというのは、知らない。


 薪を届けると、たまに〝お駄賃〟をもらえることがある。

 でも、それは本当に〝たま〟にだし……。いつももらえるわけではないし……。


「おー。カインじゃないか。どうしたー。しけたツラしやがってー。なにか悩みごとかー」


 うん。


 ぼくはマイケルにうなずいたきり、とぼとぼと歩きつづけた。


「おい。おいおい。おいおいおい! どこいくんだよー」


 うん。


「なんだよー。悩みごとかー? ったく。水くさいなー。もー! 俺とおまえの仲じゃないかー。悩んでいることがあるんだったら、なんでも言えよー。俺に言ってこいよー」


 うん。


「まじで! たのむから! 俺に話してくれよ! 相談にのらせてくれよ! たのむよー!」


 マイケルが泣きだしそうだったので、僕は足を止めた。

 悩んでいたことを、いちおう、言う。

 お金が必要なこと。371Gもの大金であること。


「え? カ、カネっ? お、おカネの話っ……?」


 マイケルは視線を細かく震わせると、すいー、っと、あさってのほうを向いた。

 ぼくはマイケルの視線の正面に回って、その目を覗きこんだ。


「いや。その。まあ……。なんだなっ。そ、そーゆー話はっ……、俺には、無理だなっ!」


 うん。しってる。

 だから言わなかったんじゃないか。

 言えっていったの。マイケルだよ?


「おカネ……、おカネ……、おカネっていったら……」


 いったら?


「ああ、そうだ……。ロッカだよ。ロッカ」


 ロッカ?


 ぼくは首をかしげた。ロッカは薬草摘みの女の子だ。


 村の広場の大きな木の上に、「おうち」を作って住んでいる女の子。

 子供たちは「へんなおうちー」とか言うけれど、ぼくは、木の上のおうちは、いいなと思っている。


「あいつ。薬草売ってるじゃん。カネ。貯めてるじゃん。きっとたくさん貯めこんでるぜ? 頼んでみれば、貸してくれるかもしれないぜ?」


 そうかなー。そうなのかなー。


「そうだよ! おまえなら絶対貸してもらえるよ! だってロッカは――げふんげふん!」


 ロッカは――なに?


「いや、べつに! なんでもないんだ! 俺はデリカシーのある男だからなっ! 言うべきことと、言わないべきことを、きちんとわきまえている男なんだ!」


 マイケルがなんだか挙動不審。


 でもマイケルがあまりに自信たっぷりに言うもので、僕は、木の幹にかけられてるハシゴを上って、ロッカのおうちにお邪魔した。


「か、か、かっ――カインさん!」


 急に訪問したからか。ロッカはすごく慌てていた。


「あ、あ、あっ――あのあのっ! きょ、今日はどうして――!? じゃなくて! あのあのっ! こ――こんにちはッ!!」


 ロッカは、ずびっと鋭いお辞儀をした。薪でも割れそうな、もの凄い勢いだ。


「あの――お茶! お茶だしますねっ! おかし! おかし! どんぐりクッキー――カインさん、きらいですか?」


 えと。

 えと。


 嫌いの逆だから。ええと……。

 ・

 ・

 ・

 →「いいえ」


「よかったー。どんぐりクッキー。いっぱい作ってあるんです。どんぐり。たくさん拾えるから――」


 お茶とお菓子をすすめられた。

 木の上に建てられた小屋は、こじんまりとした感じ。

 小屋の壁は生きている植物だったりして、変な感じ。木彫りの人形とか、へんな置物がいっぱい置いてある。……へんなおうち、だなんて、思っていないよ?


「おい。カイン。何の用なんだって聞かれてるぞ」


 マイケルにつつかれて、ぼくは前を向いた。


「きいてません。きいてません。マイケルさん。うそ、いくないです。……わたしは、カインさんが来てくれたんなら、どんな用事でも、うれしいです」


 困ったなぁ。

 お金借りに来た、なんて、言えなくなっちゃったなぁ。


「じつはこいつ。カネ借りにきたんだけど」


 うわぁ! 言っちゃったー! マイケルのばかー!


「え? お金ですか?」


 ロッカはきょとんとする。


「あの。わたし。そんなに持ってませんけど?」


 いつもかぶってる帽子を押さえて、うつむきかげんに、そう言った。


「ウソを言っちゃぁ、いけねえなぁ……」


 マイケルは膝でにじって、前に出ていった。


「おまえが〝やくそう〟を売ったカネを、しこたま貯めこんでいることは、とっくに調べがついてんだ。それをちょっと見せてくれりゃぁ、いいんだよ。な? 見せるだけだろ? 減るもんじゃないだろ?」


 マイケルはすっかり悪人のカオになっている。

 ロッカは、ベッドの

 ベッドは普通のベッドじゃなくて、ワラの上にシーツをかぶせただけのベッドだった。


 ワラのなかから掘り出されてきたツボが、前に置かれる。

 けっこう重たそう。中にはコインがぎっしり詰まっている感じ。371Gは、しっかりと、ありそうな感じ……。


「おうおう。けっこうあるじゃねえかー」


 マイケルの顔が、ますます悪くなってゆく。


「あのぅ……、そのお金はぁ……、森の動物さんたちを診療してあげるためのお金で……、あの……、ですから、その……」

「なんだ? おい? 貸せねえってゆーのか? センセイが困っていらっしゃるんだ。おうおう、おう! 貸すのか貸さねーのか、はっきりしろい!」


 マイケルはすっかり本職だ。

 あとそれから、センセイになっちゃってるよ。ぼく。


「あの。えっと。カインさんが。本当に困ってるんなら……。どうぞ……。ちょこちょこ貯めたやつなんで……、あんまりないんですけど……。ごめんなさい」


 ロッカは上目遣いでぼくを見上げて、そう言った。

 ツボを、すすっと床の上に滑らせてくる。


 ロッカのツボ貯金を奪い取り……。

 じゃなくて! もらってゆきますか?[はい/いいえ]


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