最強戦車IV号
蕃茄河豚
西部戦線にて
第1話 かませ犬狩り
「ここはどこだぁぁぁぁ!」
「フランスです」
「美女……」
フランスはノルマンディー地方の畑にチビと、冷静な砲手と、太ったナルシストのドイツ語が響いた。
昨晩からこの畑で停止している。起伏のあるのがこの付近の特徴だが、それを崩すほど、爆撃による弾痕がある。北東に数十キロ行くと、イギリス海峡。南側には森が広がる。所々、民家も見える。朝靄の中、地平線の先には朝陽が今にも登ろうとしているのがわかる。
戦車はIV号戦車、乗員は5名。
「起きろ、IV号のエンジン始動音を聴けるチャンスだぞ」
この戦車長、アハッツ少尉は尋常ではないIV号好きだ。
「あ、はぁ、はい」
装填手、ブロン一等兵は
毎朝これなので、彼の頬は少し腫れている。
茂みに赤茶と、緑の迷彩が上手く馴染んでいる。
彼は身長が平均よりかなり低い。そのためハッチから身体を出しても(精一杯背伸びしても)、肩の位置までしか見えない。普通は腰から脇腹の所までは見える。
戦車兵は小柄な方がいいのだが、この
「エンジン始動」
操縦手、ヴァイゲル上等兵がイグニッションを入れる。300馬力のエンジンが金属の車体を震わす。
「ふぅぅぅーー! きたキタァ!」
エンジンを入れてすぐ、この戦車から見て北の納屋から1人の兵士が走ってきた。
「敵車輌シャーマン! 5! 北東より接近中!」
若いSSの兵士だった。彼は先日のノルマンディー防衛戦の際に部隊からはぐれたらしい。同じ様な境遇の者同士で集まっている。
報告を済ませると、兵士はIV号戦車のさらに南の茂みに潜んだ。
「装填」
その間に砲手に指示を出す。まだまだ
「さっきの奴の左のシャーマン、あっちが撃ってきたら車体と砲塔の隙を撃ちぬけ」
砲手はヘーカー軍曹、この中で一番
普段は眼鏡をしているが、この時代には珍しい伊達眼鏡だ。それでもぐしゃぐしゃの髪と、大きい鼻には似合わない。
伊達眼鏡が砲眼を覗き込むときには、少し邪魔そうだ。
3輌目のイギリス戦車、シャーマンが撃破された。ここまでIV号戦車の車内は
乗員に指示を出すのだが、口調も笑いをこらえきれていない。
「ひひひひっ、おっと失礼」
「大丈夫ですか?」
「ふふっ、IV号のエンジン音を聴こうとせず寝ていた奴には言われたくないな」
「え……」
「装塡……
「移動だ、移動しながら北東の2輌、狙いやすい方を撃て」
「「了解」」
操縦手はヴァイゲル上等兵。彼は
戦車の操縦手というのは、全て戦車長の指示だのみではない。ときには自らの判断で操作しなければならないから、
イギリス戦車の側では、この突如出現した戦車に驚きはしたが、焦ってはいなかった。
5両が横一列で進軍していた。初弾はその右から3番目に当たった。が、イギリス戦車部隊は敵戦車を発見出来なかった。
敵戦車の位置がわからないからといって、無防備なままではいけない。英国紳士は遮蔽物に隠れることを指示した。
直ちに1両を残し、4両のシャーマンが畑の凹凸や、近くの小屋に隠れた。この辺りは起伏に富んだ地形だ。少し遅れた車両があった。破壊された車両を考慮せず移動しようとした為である。
それも一撃である。どうやら、操縦手の覗き窓を撃ち抜かれた様であった。
この犠牲のおかげで、他3両は敵の位置を知った。
「5時方向、敵戦車……おそらく1両」
数が優位なのは確実である。だが、待ち伏せを考えた英国紳士は積極的攻撃よりその場で遠距離から射撃する様に命令した。
「
一斉に3両の戦車が射撃を開始する。1つの地点に砲弾が吸収される様に飛んでいった。命中弾ゼロ。
「……装填っ」
その時、敵も撃ってきた。見事に命中した。どうやら弾庫に引火したらしく大きな爆発を起こし、砲塔が吹き飛んだ。隊長車の右の車両だった。
「タイガーですよ……隊長」
彼等の中にはIV号戦車が
「いや、あれは違うIV号だ」
部隊の損失が増える。
「全車前進、距離を詰めろ」
すると、敵戦車が移動を開始した。車体が丸見えになった。これを狙わない手は無い。
「
3発中、2発は敵戦車の後方に着弾した。残りは敵戦車の近くに着弾した。これも命中ゼロ。
敵戦車が停止した。シャーマンが装填するタイミングを狙っていたのだ。
「装填! 装填急げ!……いや、移動だ!」
「り、了解!」
だが、間に合わなかった。またも英国紳士は部隊の車両を失った。
「…………」
下唇を噛み締める英国紳士。動揺が車内に伝わる。なるべく外には動揺が伝わらない様に押し隠してきた英国紳士だが、さすがにこれは乗員にも伝わった。
「二手に分かれる、私が引きつけるからお前は敵の背後に回り込め」
『了解』
上陸作戦の時から英国紳士についてきた戦車兵達が全滅の危機を迎えている。
「追い詰められているとはいえ、我々はまだ負けていない……我々は歴史ある大英帝国陸軍なのだ」
英国紳士はハッチから身体を出した。
「戦車長、敵が二手に分かれました」
「おう、フフッ」
なんで笑ってるんだよ、と思う
「先に 回り込んだやつをやる、砲塔旋回、車体は前方の敵にさらさないように」
「「了解」」
IV号戦車は移動を始める。砲塔は旋回を始め、確実に敵に狙いを定める。
敵との間合いが、どんどん詰まる
移動目標への射撃は難しいが、このIV号戦車には関係ない。
「装塡」
「完了!」
「ふふっ、
発射された砲弾はシャーマンの横っ腹をぶち抜いた。IV号戦車の車内は落ち着いている。
「のこり1両、しっかり狙え」
「わかっています……パリ美人を奴らに渡すわけには、いかないっ!」
と、
この間も残ったシャーマンは移動している。
「わずか数分で我が1両を残して全滅……」
次の瞬間、数百メートル先のIV号戦車が咆哮した。
砲弾は車体に命中した。しかし、見たところ動力系に異常はなく、乗員にも被害はない。砲弾は側面の浅い角度からはいったらしい。英国紳士はこれを奇跡のように感じた。
焦っている。絶望もしている。だが、英国紳士は諦めていない。
「装塡!」
「アイ、サァー!」
「合図で左に切れ」
「はい!」
「
英国紳士は向かい合ったIV号戦車の砲撃が右にそれる癖を感じていた。
「チッ、装塡!」
「完了!」
「
その時、シャーマンが左に曲がった。弾を避けようとしたのだ。すでに砲弾は打ち出されている。外れた。
「あっっ!」
「何故止めない!」
「それがっ、わからな……」
「ギアは⁈」
「いいから、撃て!」
単なる操作ミスである。操縦手の焦りによるものだった。馬鹿でも操縦できるのがシャーマンの長所なのだが、想定よりもバカだった。
シャーマン戦車が爆発した。ハッチからは炎と黒煙が上がっている。転輪は外れ、もはやただの鉄塊に帰していた。
「成功……しましたね」
「ふふっ、IV号戦車を傷つけさせてたまるか」
「地雷はSSの青年に仕掛けさせてたんですけどね」
「他の地雷はどうしましょう?」
「そのままにしておくしか無い……置き土産だよ、ふふふふふっ」
通信手はシュライヒ一等兵。ほとんど出てこなかったのは出番が無かったからだ。
「ル・マンへの集結命令が出されています」
「あ、いたの」
「フザケンナ……集結は可能であれば本日12:00だそうです」
「周辺に味方は?」
「近くにはいません」
「間に合いそうに無いな……気楽にいこう」
「西へ向かう、
朝陽が昇り、IV号戦車の車体を照らす。陰影によって赤茶と緑の迷彩がわかりづらくなっている。
IV号戦車はドイツを守る為、というより
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