第131話 サメのエサ
目の前に広がる小さな海。そこに泳ぐたくさんの色とりどりの小さな魚たち。赤いのもいれば青いのもいる。シマシマに水玉模様、まんまるなのに平べったいの。同じ魚なのに、なんでこんなにいろいろいるかなー。
「ねえねえ神崎さん、見て、この子、綺麗だよー!」
「はいはい、待って下さい」
「ほらー、すっごい綺麗なブルー」
「ナンヨウハギですね」
「こっちの子、背中長いよ」
「これはツノダシです」
「ここにも居るー」
「似てますがこちらはハタタテダイですね」
「やーん、可愛い! この水玉の子、可愛すぎ」
「ああ、サザナミフグですか」
「なんでそんなに詳しいの?」
「偶々知っていただけですよ」
「またかい」
「は?」
「いつも偶々やん」
「そうですか?」
「あ、赤い子がいる、可愛い~!」
「アカマツカサですね」
「ね、もしかしてヲタク?」
「そう……かも知れません。あ、ヨスジフエダイ」
だけど、実はほんのちょっと緊張してる。神崎さん、ここに来てからずっと手を握ったまま離すつもりないみたい。まあ、今日は実際混んでるし。
なんだかな、今まで全然そんなの意識してなかったのに、ちょっと意識したら急に気になっちゃってなんか凄いドキドキする。おかしいな、まさかほんとにあたし神崎さんの事好きになっちゃったりとかしてんのかな?
いや、そんな筈はない。鬼の個別指導教官だし、伊賀出身の公儀隠密だし、毒舌ミドリ安全だし。って、あんまり関係無いか。
「ウツボがいますね」
「え、どれ?」
「そこの岩陰に隠れています。4匹。いや5匹いる」
「えー? どこよ?」
「ほら、そこ」
神崎さんが後ろからあたしの両肩に手を添えて、あたしの顔の横にその顔を出してくる。
「見えますか? グレイッシュベージュの。岩と同じような色ですが」
うあああああ。耳元で囁くのやめて~~~! 心臓口から出そう!
「どうかされましたか?」
「うう~、耳元で話すとくすぐったい」
「そうですか、これはいい事を聞きました」
「は?」
「フフフ……」
何だそれー! 出たなドS!
「あ、ミナミハコフグです。これは可愛い」
「きゃー、可愛い! 四角い! ひれがパタパタパタパタしてる~」
「コロンとした感じが山田さんに似てますね」
「……サメのエサになりたい? ホオジロザメとジンベイザメ、選ばせてあげる」
「ジンベイザメは人を食べませんよ」
「じゃ、ホオジロザメで決定」
「可愛いじゃないですか。褒め言葉ですよ」
「ビミョー」
「僕は大好きなんですよ、ミナミハコフグ。こんな可愛らしい魚が他に居るかな」
「うん、可愛いね」
「ええ……とても」
だから……耳元で囁くのやめよーよ。ドキドキするじゃん。
「なんか今日の神崎さん、神崎さんぽくないね」
「そうですか? どんな感じですか?」
「どんな感じって……」
なんか……変にセクシーだよ。
「ど、どんなかなぁ。とにかくいつもと違うよ」
「そうですか。では効果はあったということですね」
「へ? 何の?」
「鈍感さんにアピールの方法を変えたんですよ」
「ほえ?」
「いえ、何でもありませんよ」
なんかよくわからんぞ?
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