第3話 彼のこと

彼女のそばにいて2週間。

僕は彼女の通っている学校に入学した。

彼女と同じクラスになれた。席は少し離れているから寂しいけど、登下校は一緒だ。僕が登下校も一緒がいいとお願いしたら、最初は嫌がっていたけど、僕が『できるだけ君のそばにいたい』と言ったら『仕方ないわね』と頬を赤らめながらそう言った。



彼と一緒にいて結構な時間が過ぎた。

今日は彼と水族館へ行く日。

彼がそばにいるのことにだいぶ慣れてきた。

あの話をしたからなのか彼はよく

『ずっと君のそばにいたい』

と言うようになった。私はそれを言われると恥ずかしくなる。そこは慣れていないみたい。でも恥ずかしいけれど彼にあの話をしたことを後悔はしてない。むしろしてよかったと思った。彼は私を見てくれるから。初めて会った時にそう思ったのは間違いじゃなかったみたいだ。


「ねぇねぇぼーっとしてどうしたの?」

「なんでもないわ。それより、早く水族館へ行きましょう」

「うん!!」

そんな会話をして水族館へ向かった。

「わーここが水族館?すごい広いね!」

彼は目を輝かせながらそう言った。

「あんまり騒いだらダメよ」

「はーい」

彼はまるで子供のように無邪気だった。

そのあと彼は目を輝かせながらいろんな魚を見て楽しそうだった。

「ねぇねぇこれ面白そう!!行こうよ!!」

彼はペンギンショーの開催告知ポスターを指しながらそう言った。

「そうね。面白そう」

「じゃあ行こ!」

「えぇ。行きましょうか」

そしてペンギンショーを見に行った。

「わぁペンギンってすごい可愛いね」

「そうね。ペンギンはすごい可愛いわ」

「ねぇペンギン…好きなの?」

私は突然言われて動揺してしまった。

「…えぇ好きよ。動物の中だったら一番好き」

「そうなんだ!僕もペンギン好きになったよ!!だってすごい可愛いし」

「あなたに見せてないだけで家にはペンギンのぬいぐるみとか沢山あるのよ」

「そうなの!?知らなかった…帰ったら見せてね!」

「えぇいいわよ」

彼はきっと本当にペンギンを好きになったのだろうと感じた。彼は私に媚は売らないと言っていたから。

「水族館楽しかったね!!」

「えぇ。久しぶりに行ったけど楽しかったわ」

水族館は小さい頃に1度行っただけだったから久しぶりに行けて凄く楽しかった。誰かと出かける楽しさは彼と出かける度に感じる。

でも楽しいはそこまでだった。

帰り道私は車に轢かれそうになった。

でも彼が庇ってくれた。

そして彼の腕がなくなった。

病院へ連れていかれた。

「えーと彼はロボット…ですよ…ね?」

病院につくと当然のことだが医者は困っていた。

私が先生になんて答えたらいいか戸惑っていると

「そいつの事は俺に任せな」

背後から男らしい声が聞こえた。

振り向くとガタイのいい男の人がいた。

そしてその後から紳士的な人が現れた。

その人は彼のところへ行き

「おや…これは随分と酷い。まあ人間と同じようにしているので仕方ないことですが」

その人は彼の事を知っているようだった。

「こりゃあ酷いな。こんなに破損してるのは初めてだ」

「あの…どちら様で…」

先生は困惑していた。

「あーえーと俺はこいつの親みたいなもんだ」

親と名乗っ人は笑顔でそう言った。

「君は礼儀というものを知らないのかね。全く困るな君は」

「まぁまぁ細かい事は置いといて」

その人はそう言いながら、彼はを担いだ。

「あまり乱暴はしないでくれるかい」

紳士的な人は少し怒った口調でそう言った。

「ははっまぁまぁ細かい事は気にしてたら人生楽しめないですよ博士」

博士。初めて会った日に彼からよく聞いた言葉。どうやらあの紳士的な人は博士らしい。

「おっと。嬢ちゃん。置いてきぼりにして悪かったな。こいつはまぁそうだな…2週間ぐらいで治すから待っててくれ」

「あの…彼はどこに…行くんですか?」

「どこって…そんなん開発所だ。開発所でちゃちゃっと治してくるから待っててくれ」

彼は笑顔でそう言った。

というかずっと笑顔だ。

「これから彼を車まで連れていきますが最後まで一緒に行きますか?」

紳士的な人にそう言われた。

「はい…行きます」

私は少しでも彼のそばにいたくて一緒に行くことにした。

「いやぁいいねー仲良しで。作ったかいがあるってもんだ」

「彼女の前で作ったなどというのはやめてほしいですね。全く君はほんとに空気読めない人間ですね」

「ははっあんたに言われたくないね」

2人はそんな会話をしながら外へ向かった。

外に出ると1台の車が止まっていた。

「よっと。じゃあこいつの事は任せな」

そう言いながら彼を車に下ろした。

「じゃあな」

笑顔でそう言って車で遠くへ行った。

彼がどんどん遠ざかっていく。

「そんなに寂しいですか?」

博士と呼ばれていた人がそう聞いてきた。

「はい…寂しい…です」

「そうですか」

博士と呼ばれていた人は少し嬉しそうだった。

「あっあの…あなたは博士…ですか?」

「えぇそうですよ」

「あの…少しお話いいですか?」

「えぇいいですよ」

私は博士と近くの公園で話をすることになった。

「さて。なんの話をしますか?」

「えっと彼を作った…いや、作ろうと思った理由を教えてほしいんです」

「そうですね…全てはあなたのためですよ。彼から聞いているかはわかりませんが、私はあなたを幸せにしたくて彼を生んだのです」

「それは…もう彼から聞きました。でもなんだか腑に落ちないというかモヤモヤするんです。だから博士であるあなたに聞けばなにか腑に落ちる点があると思ったのですが」

「腑に落ちませんか…」

博士は少し考えている様子だった。

「あなたは前の世界のことを知っていますか?」

「前の世界…それは前の地球、人類の話ですか?」

「えぇそうです」

彼は話を進めた。

「前の人類はとても愚かでした。あらゆるものを盾にし自分を正当化しようとする。欲望にまみれた意地汚い人間達でした。そんな中でも素敵な人々はいました。ですが汚い人間どもに汚染され汚れていくのです。やがて全ての人間が汚れてしまったのです。どんなに素敵な人間で、誰かを幸せに出来る力があっても、汚れてしまうのです。だから前の世界は滅びました。私は前の世界のようなことがこの世界で起きて欲しくないのです。この世界にも汚い人間はいますからね。私はそんな人達から守りたいのです。汚れていない人間を。誰かを幸せにしたいのです。この世界にも人々の幸せを奪う自分勝手な人間がいます。今はまだ少ないかもしれませんがその少ない数の中でどれだけの人を苦しめ傷つけてるか、彼らはそれが分からないのです。嫌われている人間は自分が嫌われているという自覚があまりないですからね。厄介な人達ですよ」

「じゃあ博士は私のことその人達から守ろうとしているということですか?」

「えぇそうですね。話が長くなってしまいましたね。歳をとると長話になってしまうのです」

博士は楽しそうだった。

「腑に落ちましたか?」

「そうですね…何となく腑に落ちた気がします」

「そうですか。それは良かった」

博士は嬉しそうだった。

私は確かめたいことがあったことを思い出した。

「あの、彼に感情のデータを入れているというのはないですよね?」

「ないですよ。あなたに対しての気持ちも感情も全て彼があなたと触れ合って生まれたもの」

私は彼に言われた言葉を信用しなかったわけではなかった。ただ本当にそうなのか知りたかった。確証が欲しかった。

「さて。そろそろ私は帰ります。少しでも彼のことについて知りたいという姿勢とても嬉しいです。とはいえあまり彼の話はしませんでしたが」

「いえ。彼についてはこれからもっと知っていくと思うので。ただその前に自分の中で結論を出したかっただけです」

「そうですか。結論がでたようで良かったです」

博士は笑顔でそう言った。

博士はその後どこかへ行ってしまった。

きっとまた旅をするのだろう。


私はその時、ふと彼がそばにいないことを思い出した。

彼が帰ってくるのは2週間くらい。

私はその間どうすればいいのだろうか。

彼と過ごした時間はまだ少ないけれど、それでも私は彼を大切に思っているのだと気づいた。

彼のいない生活をなんとか乗り切らないと。

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