幸せ
ぺんなす
第1話 作られた人間
僕は作られた人間だ
「僕を起動してくれてありがとう」
僕が彼女にはじめて言った言葉。
家に帰ったら知らない荷物が届いていた。
とりあえず開けてみた。
中にはよくわからない機械のようなものが入っていた。
それにはボタンのようなものがあった。
とりあえず気になったので押してみた。
すると突然機会が光った。
目の前がまぶしくなった。
とっさに目をつむってしまった。
目を開けると知らない人が目の前にいた。
そして
「僕を起動してくれてありがとう」
彼はそう言った。
あまりにも衝撃的過ぎて言葉が出なかった。
私がしばらく黙っていると
「初めまして。僕は君のために作られた人間」
彼は微笑みながらそう言った。
作られた人間。それはつまり彼がロボットということなのだろうか。
「あなたはロボットなの?」
私は彼に聞いてみた。
「えっと…ロボットとは少し違うかも。ロボットに感情はないけど僕には感情がある。それに体の内部の構造は人間とは違うけどそれ以外は人間とほとんど同じだよ」
彼はどうやらロボットではないらしい。
「あなたは私のために作られたって言っていたけどそれはどういうこと?誰が何のためにあなたを作ったの?」
私は作られた人間である彼のことが気になった。
「博士が君を幸せにしたいって思ったからだよ」
「博士?その人は一体どんな人なの?」
「僕も博士とは少ししか話したことないから博士のことは詳しく知らないんだ。ごめんね」
「そう…それなら仕方ないわね。もっとあなたのこと教えて。私知らないことがあるのは嫌なの」
私は昔から知らないことがあるのが嫌だった。きっと彼はまだ私の知らないことを知っているはず。
彼は自分の知っている限りのことを話し始めた。
まず博士はいろんなところを旅していて、そこで出会った人を幸せにしたいと思ったら、ロボットを開発している友達にお願いして作ってもらっているらしい。彼はそのうちの一人らしい。彼の話によると、博士はその人の好みなどに合わせて、開発陣に見た目やある程度の性格設定などをお願いしているらしく彼も私の好みに合わせてあるらしい。その話を聞いて私は彼のことをじっくり見た。確かに私の好みだった。びっくりするくらいに。ただそういった細かい設定や人間に近づける作業に時間がかかるため他のロボットのように大量生産はされていないらしい。限られた人間しか彼のような作られた人間の存在は知らないらしい。
「あなたのように作られた人間がほかにもいるのよね?今までどれくらい作られたの?」
「ごめんね。そこまでは分からないんだ」
「そう…。分からないなら仕方ないわね。博士はずっと旅をしているだけなの?」
「ううん。違うよ。博士はお願いしてから出来上がったら開発所に来るんだ。それで僕らと話をするんだ。博士は僕らに選択肢を与えてくれるんだ」
彼の話によると、彼が出来上がって目を開けると、目の前に博士がいるらしい。そして博士はこう言うらしい。
『初めまして。もう分かっていると思うけど君は作られた人間だ。君が生まれてきた意味を教えよう。もう既に君のデータの中に入っていることかもしれないけど、言葉で説明されてくれ。君にはとある1人の女の子を幸せにして欲しい。ただしこれは強制ではない。幸せにするも良し自由に人間として生きるも良し。それを決めるのは私ではなく君だ。君自身が君の人生決めるんだ。さあ君にとって初めての選択だ。自由に選びたまえ』
博士は彼らに選択肢を与える。
でも私にはなぜ選択肢を与えるのかわからなかった。だって彼らは人間のために作られた人間だ。そして博士は誰かのために彼らを作ったのだ。なら選択肢など与えず強制的に人間のところに行かせればいいと思った。
私は彼に思ったことを聞いてみた。
「僕も同じことを思ったんだ。だから博士に聞いたんだ。そしたら博士が」
『君は目を開けた時点で、いや、作られた段階の時点で1人の人間なんだ。僕は人を幸せにする人間を作りたいんだ。僕は君を1人の人間として見ている。1人の人間の人生を僕が決めるのはおかしいだろう?だから君に選択肢を与えたんだ。そして君は自分の意思で彼女を幸せにすることを選んだ。それだけの事だ』
博士はそう言ったらしい。
「自由に生きる道を選んだらどうなるの?」
「博士の話だとできるだけ人間に近づける作業をするって言ったよ」
人間に近づける作業をすると、ほぼ人間になるらしい。今の彼は怪我はしないし病気にもかからないし、事故にあって部品の破損があったとしても開発所へ戻って部品を取り換えれば元に戻るらしい。でも自由に生きる道を選んだ場合は、怪我はするし病気にもかかるし、事故にあっても人間なので部品を取り換えることは出来ないらしい。本当に人間と同じになるらしい。つまり彼は見た目が人間なだけ、自由に生きる道を選んだら見た目も中身も人間になるという事らしい。
「でも自由に生きる道を選んだ人はかなり少ないんだって」
「そうなの?」
「うん。2人か3人くらいしかいないって言ってたよ」
「そう。なんでそんなに少ないのかしら。誰かを幸せにするために生きるより自由に生きる方がいいと思うのだけど」
「うーん確かにそうかもしれないけど、僕は君のところに来てよかったと思ってるよ」
私は彼の言葉に動揺した。今までそんなこと言われたことなかったから。
「僕ここに来るまでに考えてたんだ。自由の道を選んで君と出会って君を幸せにする道もあったのかもって。でもそれだと君より僕の方が先に死んじゃうかもしれないでしょ。だって僕は君と同じになったんだから。それは嫌だなって。大切な人より先に死ぬのは嫌だなって。だからこっちの道を選んでよかったなって思ったよ。だって君と最期までいられるから」
彼はそう言った。私はこの時彼が私の所へ来た理由がなんとなくわかった。本当になんとなくであっているかどうかも分からないけど私の中で【そういう事】にしておいた。
「そう…。もう1つ質問いいかしら」
「うん。いいよ。僕が知ってることであれば答えるよ」
「私が死んだらあなたはどうなるの?」
「それは…えっと…。僕は開発所に戻るよ。戻ってバラバラになってまた新しい【僕ら】が作られる時に部品として使われる」
「そうなのね…」
「でも部品そのものを使うわけじゃないよ。全部1回溶かされるんだ」
「溶かすの?どうして?」
「そこまでは分からないんだ。ごめんね。僕も気になったことは色々聞いたんだけど全部答えてくれたわけじゃないんだ。博士は秘密にするのが好きなんだって」
1度博士にあって色々聞いてみたいと思った。
「ねぇ博士が今どこにいるか分かる?」
ダメ元で聞いてみた。
「ごめんね。分からないんだ」
やっばりダメだった。
そのあとも色々聞いた。
彼は色々話してくれた。
必ずしも私達人間が彼らを受け入れる訳ではなく、人間のところへ行ったとしても、人間に拒まれて開発所に帰ってくることもあるらしい。起動せずゴミとして捨てる人もいるとか。私は残酷な人間もいるんだなと思った。でも普通に考えたら当然のことなのかもしれない。私は興味本位で彼を起動し、彼のことを知ったから、そんなことをしている人がいるのだと聞くと残酷なことをしていると感じるけれど普通の人は捨てたり放置したりするのかもしれない。仮に受け入れられたとしても、一緒にいるうちに拒絶され開発所に帰ることもあったらしい。
「僕、君に嫌われないように頑張るから…その…僕のこと捨てないで」
「何があっても捨てないわよ。それに嫌われないように頑張らなくてもいいわ。あなたの生きたいように生きて。私を幸せにしたいっていうのはあなたの勝手だけど私に媚を売って生きないでほしいわ。媚を売られるのは不愉快なの」
私は彼に少し強く当たってしまった。
「分かった。媚は売らないよ。僕の生きたいように生きる。君を幸せにする」
彼は笑顔でそう言った。
「そういえばあなたの知能ってどうなってるの?この世のありとあらゆる知識がデータとしてあなたの頭の中に入っているの?」
「ううん。僕の頭に入ってるデータは、君が学校で習ったことと一般常識だけ。最低限のことしか入ってないよ」
「そうなのね」
全知全能だと思ってたけどそれはきっと人間に近い存在として生きるためなのだと思った。彼はロボットではないから。
「そういえばあなたはこれからどうするの?」
「それは…」
彼が言いにくそうにしていた。
「一応君と同じ学校に行くことは決まってるんだけど…住む場所が決まってなくて…」
申し訳なさそうな顔で彼はそう言った。
「なら私の家に空いてる部屋があるからそこに住めばいいんじゃない?」
「ほんと!!いいの?」
「ええ。別にいいわ。だってあなたは私を幸せにするんでしょ?なら…そばにいて欲しいわ」
正直こんな事言うのすごく恥ずかしかった。今まで誰にも言ったことがなかったから。
「僕のこと受け入れてくれるってこと?」
「そうよ。これからよろしくね」
「うん!!よろしく」
彼は笑顔でそう言った。
私は彼の笑顔を見てこう思った。
彼ならきっと私のことを受け入れてくれるかもしれない。
彼なら私のそばにずっといてくれるかもしれない。
私を置いていかないでくれるかもしれない。
そう思った。
彼になら甘えてもいいかもしれない。
それくらいのことなら神様も許してくれるかもしれない。
彼なら私を愛してくれるかもしれない。
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