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海底での勤務も慣れ毎日が退屈で仕方なくなった頃、
何もない海底で県民の幸せを守ると称してこんな大掛かりな潜水艦や特殊な作業服を開発し、何もない海底で職務に従事することを幼少の頃から夢に描き、その職に就くことを許された人間に憧れ、スターとして扱う。そしてそのスターは当たり前のように過酷な訓練を受け、この何もない海底へとやってくる。これがS県の穏やかで平凡な日常の一部であり、非常に滑稽であると剛志は思った。
親の転勤についてこなければ、今頃東京で充実した選手生活を送っていたことだろう。何故なら、東京ならばこんな馬鹿馬鹿しい都市伝説に振り回されている人などいない。ルームメイトが言っていたトチョーンだって都市伝説であり、幻なのだ。
貴重な三年をこんな壮大な
何となく、嫌な予感がした。海上へと送っていた視線を恐る恐る元へ戻すと、視界の中に今まで見たことのないものが写り込んだ。見ないふりを決め込みたかったが、そうもいかない。視線だけをそろそろと〈何か〉のほうへと動かして、そして剛志は絶句した。
休止中の海底火山と思っていたものが、ぎょろりとした目を見開き、こちらを見ているではないか! 剛志が後ずさりすると、大きな地響きと揺れを伴いながら〈何か〉は口をぱっくりと開いた。剛志はかつてないほどの叫び声をあげると一心不乱に銃を撃った。
「どうした、飯田! ラシアちゃんが起きたのか!?」
ヘルメットの中で隊長の通信がこだましたが、剛志は叫ぶことをやめられず、そのまま銃を撃ち続けた。
「総員、戦闘配備! これは訓練ではない! 繰り返す、これは訓練ではない! 飯田は一旦帰還して弾薬を補給しろ! 飯田、落ち着け、落ち着くんだ!」
弾が尽きて取り乱す剛志の背後から、迫撃砲がプレートンめがけて飛んで行った。仲間達が応戦する中、潜水艦では最悪の事態に備えて魚雷の準備が進められているようだった。剛志は仲間達の存在に気を落ち着かせると、プレートンを背にして走り始めた。
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