(8)

 自衛隊での訓練が終了し、特殊な訓練を一ヶ月間受けることとなった。海自組も合流しての最終訓練だった。自衛隊での訓練が始まる前よりも更に人数が減っていて若干寂しい気持ちになったが、この訓練が終われば正式配属だ。剛志つよしは仲間達と再度〈無事訓練を終えて配属されよう〉と誓い合った。



「なあ、災害救助用の装備を比べてみたら、実は自衛隊よりもうちの消防のほうがいい装備使ってたってのは結構有名な話だけど、どのくらいいい装備か知ってる?」



 最終訓練初日の朝、オレンジの作業服に身を包んだルームメイトがだしぬけにそう言った。さあ、と剛志が首を傾げていると、彼はにやりと笑って続けた。



「これさ、深さ六千メートルの海底でも地上と同じような行動が出来るように作られてるんだぜ」



 剛志はフンと強く鼻を鳴らし、馬鹿にするような目で彼を見た。彼は肩を竦めると自室のドアを開けながら軽快な口調で言った。



「お前がそういう態度をとっていられるのも、今日で最後なんだからなー!」



 寮から専用のバスに乗り訓練のために連れてこられた場所は何故か海辺で、剛志はルームメイトの言葉を思い出しては意識の彼方へと押しやろうと努めた。しかし、彼の言ったことは悲しいかな現実だった。


 訓練現場に到着するなり支給された特殊な装備品は、フルフェイスのヘルメットと胸部までの長さのチョッキが一体となったかのような代物で、作業服の上から装着するのだという。装着してみると、作業服との間の隙間を完全に埋めるかのような仕掛けが作動し、さながらシーウォークのような格好となった。一緒に支給された手袋と靴も同じような作りで、オレンジの作業服とこれらを併せると宇宙服と同様の機能を果たすようになっているとのことだった。

 装着が済むと、早速入水訓練が始まった。水の中で身動きをとることに慣れてくると、今度は自衛隊の訓練で使用した銃火器に似たようなものでの訓練が始まった。これらは水中でも使えるように改良された極秘の武器だそうで、実戦で使用される弾薬には強力な睡眠薬が含まれているとのことだった。


 更に訓練が進むと、潜水艦に乗せられての訓練が始まった。海自組が艦内での諸々をこなし、陸自組が特殊なダクトから海底へと降り立って戦闘配備につくといった流れだった。



 ――これが現実なのだから、きっとプレートンも本当にいるのだろう。剛志はもう、考えることをやめた。

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