(6)
スカウトの話のあった日の翌日から、
朝、靴箱の蓋を開けるとラブレターらしき手紙が必ず一通は入っている。廊下を歩けば好奇の目で見られ、ここそこで内緒話が始まる。休み時間になれば女子が席までやってきて、手作りのお菓子を差し入れしてくれる。屋上に呼び出されたかと思えば、可愛いと評判の女子から告白される。――まるで、有名芸能人にでもなったかのようだ。憧れの星とは、一躍学校のスターになるということなのだろうか。とにかく、女子とお付き合いというものをしたことがなかった剛志にとって、このいきなり訪れたモテ期に悪い気はしなかった。
一方で、変なことを学友に度々聞かれるようになった。
「なあ、お前が特務候補に選ばれたのって、やっぱり〈東京〉からの引き抜きなの?」
訳が分からないと言うかのように眉間にしわを寄せて首を傾げる剛志に、この質問してきた学友の全てが「いや、話せるわけないよな。今のは忘れて」と言った。どういうことなのかと問いただすと、そのうちの何人かがぽろりと口にした。
「特務と一緒で門外不出なんだろ? 大丈夫、分かってるから」
何が何だかさっぱりだったが、とりあえず、特務とやらはS県外には不出の極秘事項らしいということだけは分かった。
結局特務についてそれ以上は何も分からなかったが、剛志は結局、消防局からのスカウトを受けることに決めた。選手生活に戻るためのバックアップも手厚く行ってもらえるという確約も取れたし、選ばれた者だけが就ける特別な職という優越感もあったが、何より母が泣いて喜んだのだ。期待に応えたいと剛志は思った。
卒業式を無事に終え、剛志は荷づくりに追われた。四月から全寮制の消防学校で訓練の毎日が始まるのだ。卒業アルバムの余白に学友達が大量に書き込んでくれた激励の言葉を一通り眺めると、剛志は荷づくりを再開したのだった。
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