ロスト・アヴェニュー

Jack-indoorwolf

第1話リリアとの約束

「私も男を誘拐したいわ」

「ほう」

「月金で9時から5時まで働いてもらって、それ以外は自宅に監禁して家事とかやらせたりね。ああ週末はレストランで外食もいいな。で、時どき愛をささやき合ったりして」

「あのさ……結婚でもしろ」 


 今朝、俺はスマホ片手に遠くに住むリリアとライブ通信をした。リリアからコールがあったのだ。

 リリアは漢字を使わない国の女性を母に持つミックスのファッションモデルだ。共通の友人である作家を介して知り合った。リリアは官能的かつ挑発的なボディでたくさんの男たちを泣かせてきた。俺もそのうちの一人と言える。

 そのリリアがファッションショーのリハーサルのため、今日、中心街にあるマックイーンホテルで仕事をするという。俺もそこへ会いに来いとお呼びがかかった。何でも、リリアが俺に直接渡したいものがあるんだと。


 今、ジェリービーンズタウンを賑わせている連続女性誘拐事件もリリアとのやり取りで話題になった。四週連続で金曜の夜、合コンを楽しむような若い女性たちが行方不明になっている。怪しい男がワゴン車に女性を連れ込む姿は防犯カメラの映像として警察が公開した。しかし、まだ事件は解決していない。


 そのせいもあり街全体に嫌な空気が漂っていた。 

 俺といっしょだ。どうも気分がすぐれない。ここ数日、俺の心には暗雲が立ち込めている。なぜだろう?

 

 ……原因はやっぱ親父か。


 先日、隣街となりまちの実家からメッセージが届いた。親父が俺に会いたがってるという。一人暮らしを始めて5年くらいか。ろくに帰省もしていない。

 というのも俺は親父が苦手なのだ。別に嫌っているわけではない。ただなぁ……どうも親父のことを考えると憂うつになってしまう。理由はよくわからない。

 いつか答えを出さんとなぁ。

 

 俺は卵サンドとカフェオレでブランチを済ませ、身だしなみを整えた。リリアとのデートついでに実家へ寄ってみよう。モヤモヤした気持ちのままじゃいけない。直接親父と話したら何か解決するかもしれない。

 まず、リリアのいるマックイーンホテルへ行こう。

 

「はぁい、マッシュ!」

 マンションの玄関から外へ出ると、俺は女に呼び止められた。


「今じゃなきゃダメ」

「え?」

「いっしょに近くのホテルへ行こうよ」

「ごめん、俺用事があるんだ」

「何だ、つまんない。お願い、私のこと忘れないでね」

 そう言いながら女は両手で俺の右手を取り、それを彼女自身のふくらんだ左胸に押し付けた。やさしいやわらかさ。昼間から何てことを。

「おっぱいじゃなくて、私の心臓の鼓動を感じて欲しいの」

「……わかってるよ」


 女は俺に軽く投げキスをして去っていった。俺は女が誰なのか全く思い出せない。おそらく夜のストリートで男を誘う仕事をしてる女だろう。派手な化粧に肌の露出が激しいファッションをしていたので、きっとそうだ。


 気温が高いけれど乾燥しているので苦ではない。一頭の美しいチョウチョウが俺の周りを舞う。黒とオレンジの妖艶ようえんな羽模様。春だ。それにしても日差しがキツイ。皮膚ガンになりそう。

 

 俺はリリアとのデートのため街へ出た。リリアが直接俺に渡したいものって何だろう? バースデープレゼントではなさそうだが。

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