ダブルクロス The 3rd Edition 「Toy Box」

銀次

第1話

ーー最近、よく夢を見る。

ーーー見知らぬ街で手をつないで歩く二人の大人と幼い子供。

ーーーーそれを、俺は後ろから眺めていた。

ーーーただ、どうしても三人の顔が黒く塗りつぶされていて。

ーー確認しようと、身体を前に動かそうとして。


そうして、また眠りから醒めていた。





「ふっ!はっ!っせい!」

両手に握った両手剣を振るいながら俺は目の前の女性、マリアさんを壁まで追いつめていた。攻撃を当てるためではない。確実な一撃を入れるための牽制だった。マリアさんは余裕そうな顔色のまま、こちらの攻撃を時に拳でいなし、時に上体を反らし避けながら後ろにステップを踏み…、こちらの思惑通り壁に背中をつけた。

「っそこぉ!!」

声を張りながら剣の切っ先をまっすぐ定め思い切り前方に突き抜いた。マリアさんはその切っ先が届かない距離にいる。意味のない攻撃だ、分かってる、普通の剣ならば…。握った手から剣に『力』を流し込む。すると剣は俺の思い通り刃を高速で伸ばしそのまま壁にぶつかり、砕いた。壁のコンクリートが崩れ、砂埃を上げた。

「っよし!」

会心の一撃が入った!昨日の夜中にシミュレーションしたとおりにいった!やった!!

「…遅いわねぇ。あんたの攻撃…。」

「へっ?」

次の瞬間、視界が拳で埋められその一瞬の後、俺の意識はなくなった。


意識を取り戻すと俺、梶谷 仁は《UGN》の地下に構えられたトレーニングルームの床で大の字になって倒れていた。…また負けたのか。

「どう?調子は。」

視界に移りこんできたのはブロンドの艶やかな髪をポニーテールに縛ったのが特徴の女性、つまりさっき俺を気絶させたマリアさんだった。歳は40過ぎだというのに30代前半と思わせる顔とよく引き締まった身体はまだまだ若いものには負けられないという気概が伝わってくる。強い人だ。

「ん…。まあまあかな。」

マリアさんの差し出した手を取りながら立ち上がる。剣は元の長さに戻った姿で落ちていた。

「やっぱり、遅いよなぁ。変化させるスピード。」

そうぼやきながら剣を拾うと『力』を込めてみる。先ほどと同じように切っ先が伸びる。普通の人から見ればそれでも充分な速度なのだが

「ダメね。そんなの手練れの《超越者オーヴァード》から見れば全然鈍いわ。」

と、マリアさんは眉を寄せながらつぶやいた。

「はぁ…。やっぱり俺には才能ないのかなあ?」

「確かにあなたは他の人より体内の《レネゲイドウイルス》の濃度が低いとは言われてるけど、低いなら低いなりに努力すればいいのよ。」

そんなもんかなと思う俺を心配するようにマリアさんは俺の頬に手をあて、そのまま頭に回し髪を優しく撫でてくる。もう16にもなる義理の息子にすることじゃないって思うけど、優しい母親としての目を見ると二人だけの時くらいはいいかなって思う。

「今日はここまでにして夕飯にしましょ。アリスがもう準備ができたって。」

「うん。分かった。」

こうしていつもの夕方の訓練は終わった。二人でトレーニングルームを出るとホワイトソースのいい香りがした。今日はクリームシチューのようだ。



シチューを3杯平らげた後、自室のベッドに仰向けになりながら、さっき言われたことを思い出す。

「《レネゲイドウイルス》の濃度が低い…、か。」

ここに来た時にメディカルチェックを受けた時も同じことを言われた気がする。《超越者オーヴァード》として体内のレネゲイドウイルス濃度が低いことはどういうことなんだろう。暴走する可能性が低いから安心できるのか。能力が低くなって戦闘に支障をきたすと思うのか。


…いや、そもそも自分はなぜんだろうか。

《レネゲイドウイルス》《超越者オーヴァード》《UGN(ユニバーサル・ガーディアンズ・ネットワーク)》《FH(ファルスハーツ)》《ジャーム》

学校に通う仲間たちは知らないことを俺は知っている。何のために。そしてそのを知ってる俺は、なぜ、を覚えていないのだろう。

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ダブルクロス The 3rd Edition 「Toy Box」 銀次 @Ginji_akino

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