第35話 ~希望を創る~

 マイキーは鼻唄を歌いながら自室の作業台へ向かっていた。


『マイキー、はかどってるなぁ』

「うん。なにせこの先必ず必要になる武器と防具だからね」

『そうか。それはいいことだな。そして、その小さな丸いものはなんだ?』

「これかぁ……んー、希望の塊って感じ?」

『なんだそれは。わからない』

「うん、俺も、可能性的には分かんないんだけどさ。でもクリスタルって結構奇跡の鉱物って感じがするんだよねー」


 マイキーは直径2、3cm程の球体になったクリスタルに更に磨きをかける。


「これと、あと奇跡の水があればって思う、そんな希望ね」

『そうか。よくわからないが、成るといいな、その希望』

「ああ。本当にそう思うよ」


 マークにグーサインを送ると、また作業に戻るマイキーだった。


・・・・


「ねぇカナタ。あたしと一緒の部屋でよかったの?」


 エルはカナタの肩に腰を駆けて脚をぱたぱたとさせて言った。


「いやぁ、そっちの方がお互い心細くないんじゃないかって思ったんだけどさ。別々にする?」

「ううん、カナタと一緒に居るよ。だって顔に寂しいって書いてあったし?」

「……それはお互い様だと思うよ」

「……。そう言う事にしといてあげる」


 ふいっと違う方向を向いたエルに、ふふ、と笑みを漏らすカナタだった。


「もちろんお風呂は別々だからねっ」

「大丈夫だって、エル。それくらい分かるから」



 新たなメンバーを迎えて、ルミナは新メンバーのレベルアップも兼ねてその後幾つかのレイドボスを回った。


「今よ! 構えて、カナタ!」

「はいっ!」


 カナタはリーナの指導によりオートモードではなく、手動により自由に武器装着、そしてコントロールしてプラズマガンを放つ技術を持つまで至った。

 それだけでなく、メンバーの中でもエルとのコンビにより察知能力に長けたメンバーとなり、時折チームの危機を瞬時に救えることも可能になっていた。


「凄い威力ですね、カナタさん」

「うん。マジ、カナタってレベルアップする毎に銃の威力強くなってない?」


 ユララムとマイキーは感嘆の声を上げた。


「ありがとうございます」


 カナタは照れくさそうに頭を搔いた。


「ちゃんと、戦力になれてますかね」

「なれてるよ!」


 メンバーは口をそろえて祝福した。


「新人なのに、ここまで戦えるなんて凄いですよ、カナタさん!」


 アイカも興奮しているのか拳を握って瞳を輝かせていた。

 リーナは仕方ないなぁとふぅとため息をつく。


「アイカ、ほら、さん、取ってやんな?」

「え?」

「だから。もうカナタも仲間なんだから。カナタさんじゃなくてさ。カ・ナ・タって呼んであげな?」


 アイカはそう言われてカナタを見上げた。


 ギャラクシー・ウォーでは大体が年相応の見た目で転送されてやってくる。稀に、ユララムの過去の姿のように、なりたい自分が映し出されることもあるようだが。

 カナタの見た目は若くも、どこか落ち着いた雰囲気を醸し出していたためどこか無意識に、敬意を込めてカナタさんと呼んでいた。


「あの、ごめんなさい、じゃあその、カナタ……」

「…………っ!」


 恥ずかしい時は無意識にも上目使いになってしまうのがアイカという人間の性で。

 アイカのその姿に顔を紅くしたのはカナタと肩に乗る相方のエルだった。


「きやぁあああ! かわいいっ!!」


「どうしてエルたんまで顔真っ赤になってんの?」


 マイキーはふざけた様子でエルを人差し指で小突いた。


「もー! やめてよぅ!」


 マイキーに対して本気で怒るエルの姿に一同微笑ましく笑ったが、リーナはカナタをははんと、確信した表情で見るのだった。


「ねっ、折角なんだし俺たちタメ語で話そうぜ」


 マイキーはカナタの肩に腕を回した。


「学生じゃない、よね?」

「あ、は……うん。一応、社会人になって年数は立つかな」

「なんだぁじゃあ尚更タメ語ばっちこいじゃん。じゃあ、今からカナタはあたし達への敬語はナッシ!」


 リーナは手を叩いて喜んだ。


「じゃあ、リーナさん、俺は?」


 ユララムが恐る恐る手を上げると。


「ユララムは社会勉強ッ。まだ早い!」


「うわぁ、厳しい」

「うわぁ、まじか」


 ユララムのリーナに対する言葉と同時に、素朴に出たカナタの言葉に一同吹いた。


「カナタさんって結構楽しそうな人なんですね」

「なっ、楽しい人ってなんだよ、まったく」


 カナタは苦笑しつつユララムに突っ込んだ。



「まぁ、カナタもだしさ。なにより、エルのお陰で回復アイテムがいらなくなったのが大きいと思う。ありがたいわ」

「うん。回復できるって凄いと思う、エルちゃん」

「えへへー。お役に立てて光栄だよっ」


 接近戦の多いリーナとアイカは擦り傷が絶えないが、そこでエルが瞬時に回復をしてくれていた。


 それは、カナタのレベルが20を超えた時だった。メンバーが皆カナタのレベルアップに喜んで居た頃。


「もっと強くなりたい……」


 カナタは通信機でステータスを見てそう呟いた。


「どうしたの? カナタ」


 アイカもカナタの名前を普通に呼べるようになっていた。


「その、ライトさんのいない間は……僕が貴方を守りたいから」

「えっ!? カナタどうしたの!? 何、え!?」

「うるさいよ、エル」


「えっ、と?」


 自分は一体何を言われたんだと戸惑うアイカ。


「すみません。始め、僕を助けてくれた恩っていうのも、あります……けど。とにかく、僕は強くなりたいんです」


 アイカへ柔らかく微笑んだあと、カナタは踵を返した。

 言われた言葉の意味を、自分のいい様に解釈をしようと頑張るが。


「そんなわけ、ないよね、うん、ない、ないったら、ない。ないないない」


 異性の行為はどこまでがどうなんだと必死に冷静になろうとするアイカだった。

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