第33話 ~新たな仲間~


 今日が、なんとなく過ぎていく。

 仕事、お金、恋人、結婚。

 悩みの尽きない日々。



 あ。傘、忘れたなぁ。



 昔から道行く人が幸せに見えて。何度悔しい思いをしただろう。

 悔しすぎて頭が打ち付けられるように痛くなって、ある日疲れ果てたのか、思うように身体が動かなくて会社を休んだ。

 怪我をしたわけでもないのにと、世間では睨まれた。


 日本の会社って、どうして休みを奪いたがるんだろうか。

 人が幸福にしていたい時間を奪いたがるんだろうか。


 どうして僕から居場所を奪うんだろう。


 世間はどうして目に見えるものしか信じないのだろう。


 でも、分からなくなってきたよ。


 居場所ってなんだろう。

 


 頬にあたる雨が、今は気持ちがいい。



・・・



 洞窟内の巨大生物ネオビードルとの戦いは終わった。


「す、すごいです、強い……!」

「ほんっとう! あたし見とれちゃった!」


 カナタは、羽をぱたぱたとさせるエルと一緒に目を輝かせてアイカを見た。


「う、ううんそんな! 凄くなんかないですよ!」


 アイカが慌てていると、ルナシスメンバーが集結した。


「お疲れさまぁーって、何々? 何かあった? そして誰?」


 リーナはユララムと目が合い、近づいて問う。答えたのはアイカだった。


「この人がカナタさんで、その、妖精さんみたいな人が、エル、だって」


 アイカの紹介の後補足をするようにユララムが後から口を開く。


「その、どうやら彼がネオビードルに引っかかっていた人物みたいです。その、小さいのはよく分かりませんが……」


「小さいって何よ!」


 エルは怒ってユララムの顔の近くへ飛ぶ。


「うわぁ、何々? この小さいの……もしかして妖精キャラ!?」


 今度は嬉しそうに、マイキー。


「本当、小さくて、羽があって……妖精みたい……。でも、妖精アバターってあったっけ? レア的な? うーん……」


 リーナは訝しげにエルを見つめる。


「何よぅ」

「ユララムの件もあったしなぁ……。まさかこれも偽の姿!?」


 リーナがエルに指を示すと、むすっとなったエル。

 そして、少し表情の固まるユララム。その姿をマイキーがちらりと見た。


「なんか偽の姿とか言われるとむかつくんですけどーっ!」

「ま、まぁ、まぁっ! あのね、エル……ちゃん達、一緒に仲間になりたいって。エルちゃんとカナタさん、どこのチームにも所属してないんだって」


 アイカが一通りリーナ達に説明すると、メンバーはエルとカナタをまじまじと見つめた。


「うっわぁ、またゼロの洗礼ねー……。ドンマイ、カナタくん、エル」

「あたし違う! カナタに見つけてもらったのっ」

「えっとあの、ゼロさんってそんな有名な人なんですか?」

「カナタ、無視しないでよぅ!」

「ドSよ。もうドS窓口」


 リーナが腕を組んで口元を釣り上げると、苦笑するカナタだった。話に入れないエルはキーッと怒り出していた。


「まっ。これも何かの縁だしね。来なよ、一緒に。ね、マイキー、ユララム」

「うんっ! さっきの銃撃ってカナタのだろ? 凄かったぜー」

「俺も、武器が銃という戦士は欲しかったので」

「うっわ、アイカ聴いた? ユララムってば生意気よねー」

「ちょ、ちょっとリーナさん! そんな風に言わなくったっていいじゃないですか!」


 ユララムは悪くとられるつもりはなかったと慌てる。


「あはは、そこは素直に戦力になります、のほうがいいかもね」


 アイカが笑うと、ユララムはですよねと頭をたれた。



 ルナシスメンバーのやりとりを見て、カナタがぼんやりしているのをエルが気づいた。


「……カーナータっ。楽しそうな人達で、良かったね?」

「あっ、あ、うん。本当そうだね」


 カナタが我に帰ると、チームメンバーの顔を一人ひとり眺めた。



 チーム・ルナシスは洞窟で出会ったエルとカナタを迎え入れての帰還となった。


「わ、わぁ、また人数増えた?」


 ルミナが嬉しそうに帰還したメンバーへ駆け寄ると、エルとカナタの姿を見て驚いた。


「しかも、えっと、名前は……」


 ルミナに視線を向けられたカナタは軽く自己紹介をする。カナタの肩にはエルが座っていた。


「僕はカナタです。彼女はエル。えっと……洞窟の地面に一人埋もれていました」


「えっ!」


 ルミナは他のメンバーが驚くと、エルは腰にてを当てた。

 

「そうよっ。ゼロとか何か変なの知らないんだから」

「そうなのね……ってこの子、妖精!?」


 ルミナは嬉しそうにエルへ手を伸ばす。

 エルは恥ずかしそうにしながらもルミナへと寄る。


「あのっ……あたし一応、子どもじゃないからね?」

「そうなのね、それは失礼したわ。あまりにも可愛かったから、つい」


 ルミナの言葉に赤くなったエルはもじもじとしだす。


「そ、そうなの? じゃあ、あまり悪い気もしないでもないけどっ」

「ど、どっちなんだよエル」

「もぉー! カナタはうるさい!」


 メンバー達は次第に、エルの父親役がカナタのように見えてきたのだった。


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