第14話 ~レイドボス・シードラゴン戦前夜~ ①

 古びた電気機器工場の中の沢山の工具と一緒に、俺も一人、混じってる。

 大きくもなく、小さくもない俺達の工場。

 焦げ臭いはんだの匂い。その匂いは昔から癖になってた。

 黒い模様がいくつも服に着いて、気がつけば汗だくになっている。

 汗を拭いながら機材を運んだり組立作業をしていく。


 毎日殆ど同じ作業でも。

 出来上がりが一緒でも。


 それが誰かの役に立てるなら。


 やってらんねぇって怒鳴った声をいくつ聴いたかな。

 だけど俺はやってらんねぇって声よりも

 好きって気持ちを大事にしたいんだよね。



 ・・・


 ルナシス艦にあるクリエイト室は、兼マイキーの部屋となっている。そのクリエイト室はルミナの趣味もあり、テーブル等、設置されているものは丸みを帯び、白と蒼がメインというのようなデザインと創り。必要な工具等は呼び出せば出てくるという洒落た工場となっている。


 ここから、マイキーの発明が生まれる。


「ただいま、相棒!」

『マイキー、おかえりなさい』


 “相棒”と呼ばれたのはマーク。マイキーの発明の一つである。バスケットボール程の大きさで、ボール型。マイキーの大好きなコバルトブルーに、銀色で星のデザインを散りばめさせていた。宇宙の一部のように。


 そして、必要があれば細い手足も出てくるように作っている。

 マイキーの製造を手助けもしてくれるという万能なのがマークである。


 ここに来たばかりの時に、戸惑いが大きく、仲間と余裕をもって話せなかった時期がマイキーにもあった。

 マイキーは自分と気の合う話し相手が欲しくて、アンドロイドを搭載させて、初めて作り出したのがマークだ。

 しかしこれを作っていることはメンバーの皆へは、恥ずかしさあって内緒である。マイキーの音声と、そして2人の時だけに反応するようにしている。


『マイキー、何かいい発明でも思いついたのか?』

「ああ! 皆きっと気に入ってくれるって思うんだ」


 マイキーが工具を取り出し、アイカに譲ってもらったクリスタルのデータをじっくりと分析を始めた。


『クリスタル。これはまた、あらゆる魔法攻撃への耐性を持てるものだな。闇属性だと更に効果はあるな』

「うんうん、やっぱりそうか、マーク。クリスタルは魔法を弾くのには持って来いだよな……」


 マークは見守りつつ、静かになった。

 形状はどうするかなぁ。皆どんなのが好きなんだろ。

 気がつけば鼻歌を歌っていた。



 瞬間、瞬間の、鋭い視線には気が付かず……。


・・・


「ルミナ、レイドボスの情報来てない?」


 リーナは艦長席にもたれかかるように尋ねた。


「あるには、あるわ」

「どうしたのルミナ、少し顔色悪くない?」


 リーナが思わずルミナの顔を覗き込む。

 ルミナの表情は明らかに真剣そのものだったからだ。


「そんな、大丈夫よ。ねぇ、リーナ」

「うん?」

「リーダーとして、皆のこと、よろしくね」

「う、うん。本当、どうしたのよ」

「……恋煩い、かな。このチームへの」

「なにそれっ」


 リーナが訳が分からないという表情をすると、ルミナはふふっと声を出して笑った。


「さて、恋煩いも程ほどにして。リーナ、次はここのレイドボス行きましょう」


 ルミナが指で触れ、画面を浮き上がらせると、レイドボスの情報が出てきた。


 シードラゴン Lv.30 HP148000 レアアイテム出現確率35%


「ほっほー、やっぱりこのあたりと来たか。少し手応えありそうな感じね。まぁ、あのタランチュグラみたいなのはもう出てこないとは思うんだけどっ」

「そうね……アイカも強くなってるし、簡単なはず。今回はレアアイテム狙いというより、アイカが強くなってからの、チーム・ルナシスの力試しってとこね」


 ルミナの笑顔にやはりどこか疲れが見え、リーナは眉毛を下げた。


「もう、ルミナ、恋煩いとか言ってるけど……。困った時はちゃんと言ってよね?」

「ありがとう、リーナ。流石、あたしの認めたリーダね。大丈夫よ、その時はあたしだって言うわ」

「うん、それでよしっ。そしたら、ルミナ。皆が休憩してレイドボスへ迎えるようになったら、また声をかけるわ」

「ええ、わかったわ」


 ルミナがいつもの様に、ほんわかとしていても、キリっとした瞳になると、また画面に視線を戻した。リーナはルミナの肩にぽん、と手を置くと、扉の開閉の音と共にその場を離れた。

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